涼 と マハル と コラボ配信
どこかの神社の片隅。
木々の緑が強い日差しを遮る場所に、マハルと涼は立っていた。
二人の背後には、黒い渦のようなモノが見える。ダンジョンの入り口だ。
「先日助けて頂いた縁ではあるのですけれど、実は結構すごい方だったらしいですわね」
:せやで
:そうなの?
:中堅個人勢って感じじゃん?
:その通りですわ
:配信者としては中堅かもだが探索者としてはベテランだ
:配信者としても結構上位な気がするけどな
「……と、いうワケで! ベテラン探索者でありダンジョン配信者としての先輩でもある、涼ちゃんねるの涼さまですわ!」
「みなさん、こんスニ。涼といいます。うちのチキンの皆さんと一緒に、今日はマハライツの横にお邪魔します」
:なんだこの棒読み
:コラボでもやっぱり棒
:この棒でないとな
:涼ちゃんって男?女?
:デフォなんだw
:涼ちゃんの性別は涼だよ
「今回は配信スタイルの仕様上、各配信者ごとの個別のコメント欄ではなく、共有のコメント欄になっておりますので、ご了承くださいませ」
:マハライツさん邪魔するぜー
:どうぞどうぞ
導入は和気藹々といった感じだ。
ヘタすると、すぐにギクシャクするかもしれないという予感を抱えている涼とマハルからすれば、ひと安心というべきだろうか。
「もう皆さんお気づきかもですが、今日のダンジョン配信ではちゃんとわたくしの顔が映っております!」
:そういえば!
:お嬢様お美しい!
:ダンジョン配信で顔見えるの初ですわね!
「これはですね。涼ちゃんねるのドローン操者であるモカP様にお願いいたしまして、今回のコラボ配信のカメラマンをやって頂いているのですわ!」
:ドローン撮影なんだ
:モカPのドローンテクはやばいからな
:ありがとうモカPさん
「コメントも今回はドローンの近くに表示されておりますのでなんだか新鮮ですわ!
だから、コメント欄も共有っていう形になっておりますの!」
:なるほど
:マハル様の顔が見れるのは助かる
「そんなワケでマハライツの皆様には申し訳ないですが、今回は涼ちゃんねる仕様のコメント欄となっておりますわ。
その為、必要に応じてコメント欄のオンオフを行われるそうです。コメントを拾わない時間もありますのでご了承くださいませ」
:どういうこと?
:涼ちゃんねるじゃあいつものこと
:ダンジョン探索って死と隣併せだしな
:コメントを拾わない時間は分かるけど閉じる理由ある?
:え?死ぬ??
「コメント欄が開いてるとドローンが目立ってモンスターに襲われやすくなるので」
:え?別に襲われても大丈夫でしょ?
:むしろ撮れ高的には美味しいんじゃないの?
そんなコメントが流れてくるのを見て、涼が深く深く息を吐く。
分かってはいたことだが、本当にゲームの延長としか見てない人がいるようだ。
涼の気配が変わったことに気づいたマハルが、半歩ほど涼から離れる。
その様子にチキンたちは気づいていたが、敢えてコメントを書き込むことはなかった。
「まず一つ。ボクとコラボする以上は、撮れ高よりも命が優先されます。
その為に必要なら途中で配信は切りますし、モカPには悪いけどドローンを壊すコトもあります」
:え?
:は?
:なにどうしたの涼くん?
:開幕逆鱗とはたまげたなぁ
「レインボーサプライの偉い人たちともそういう形で話がまとまっています」
:さすが涼ちんとモカP徹底してる
:これレイサプの偉い人、涼ちゃんたちにめっちゃ叱られただろ
:涼ちゃんねるのメンバーは配信者である前に探索ガチ勢だからな
「今回のコラボ内容を皆さん思い出していただけますか?
初心者探索者であるわたくしに、探索のいろはを教えてもらうという内容ですわ。
同時にダンジョン配信を見る上で、マハライツの皆さんも知っておかなければならないコトを同時に教えて欲しいとお願いしてあります」
:どういうコト?
:俺たちが知っておくべきこと??
「一番は、ダンジョン探索はゲームではないというコト。
そしてダンジョン配信は、最悪、配信者がカメラの前で命を落とすコトが不思議ではないコトですわ」
:マハル様何を言ってるの?
:レイサプ勢はほんと危機感足りてなかったからな
:マハル様やマック氏、フィーネ女史とか可愛そうだったもん
:まってチキンたちは何を言ってるの??かわいそう??
:え?死ぬの??なんで?
「まずマハライツ……いえ、レイサプ勢のリスナーの皆さんにちゃんと覚えておいて欲しいのでハッキリと言わせて頂きます」
涼らしからぬかなり強い口調で、カメラに向かって告げる。
「ダンジョン配信ならびにダンジョン探索はリアルです。虚構ではありません。
怪我をすれば入院するコトもありますし、内容によってはそのまま死に至ります。
自分の身をロクに守れない素人が撮れ高気にして怪我するとか、現場からすれば迷惑以外の何者でもありません。だから基本的に配信者は現場から嫌われています」
:コラボで何言いだしてるの?
:え?なんで急に怒ってるんだ?
:いきなりお説教するとかどういうことなの?
:そもそもダンジョン配信者は現場から嫌われているって常識を知らないのが怖い
「そしてゲーム実況ではないのだから、配信者を煽るコメントは厳禁です。
煽った先がトラップで死んでしまえば配信どころか配信者の人生が終了です」
:当たり前体操
:レイサプ勢のコメ欄はそれを分からず煽ってるのがいるから怖かった
:注意コメしてもみんな知らん顔だったしな
「それらを踏まえた上で、ボクはマハルさんに探索の仕方や、探索配信の仕方をレクチャーしていきたいと思います」
そこまで告げた上で、涼はマハルに、それからドローンへ向けて頭を下げる。
「冒頭からいきなりお説教みたいなコトしてしまってすみません」
:《マック》涼くん厳しい言葉と汚れ役をありがとう
:《フィーネ》私もレイサプ探索勢を代表して感謝します
「コメント欄のお二方の言う通りですわ。わたくしからだと言い出しづらい話でしたので助かります。
せっかくのコラボですのに汚れ役をやって頂きありがとございますわ」
:マハル様も言いたかったことなの?
:待って待って理解が追いつかない
:マックさんとフィーネちゃん!?
:とんでもねぇ荒療治ぶっこんできたな
:そのくらい必要だったのかもな
:え?マクおじとフィーネ嬢も感謝してるの??
:なんでチキンたちは平然としてんの?
:いやだってダンジョン配信の常識でしょ今の?
:常識?死ぬかもしれないのが?
マハライツのざわつきを余所に、二人は会話を進めていく。
「さて本日わたくしたちが来ているダンジョンは、先日も探索していた場所ですわ。涼様に助けていただいたダンジョンでもありますわね」
「トリイランナーは対処を間違えなければ手強くはないので、そういう意味でも比較的安全に教えられそうですからね」
:トリイランナーの群れと戦う涼ちん楽しかったな
:あれは群れとの戦いというかトリイ破壊工場のレール作業だったろ
:え?トリイの群れってマハル様が逃げたやつ?
:確かにあのあと涼くんは一人で立ち向かってたぽいけど
「そろそろダンジョンの外でしゃべるには暑くなってきたので、中に行きたいと思います」
「皆様、転移酔いに注意ですわ!」
そうして、涼とマハルは黒い渦の中へと飛び込んでいった。
二人を追いかけてドローンもそこへと飛び込むと、画面が歪んだ輪っかに包まれる。
:実際飛び込むと平気なオレも画面越しつらい
:実際飛び込むのがダメな俺でも画面越しは平気
:どっちなんだよ
:どっちもなんだよ
:どっちもダメな俺を笑えよ
:ゲームじゃないって言われてからどういう感情で見ればいいか分からない
:すごいゲーム演出っぽいじゃん?
:マハライツってもしかしてVRゲームだと思い込んでた?
:いやそこまでは思ってなかったけど
:私は最新VRだと思ってた
コメント欄が何とも言えない空気になっているが、これもそのうち落ち着いてくるだろう。
涼もマハルも、香や恵流からこういう流れになるだろうという予測は聞いていた。
なので慌てたりはせず、とりあえず状況のまま流していくことになっている。
そうして歪曲した黒い渦の連続もほどなく終わり、二人と視聴者の前に、寂れた田舎の村を思わせる風景が――
「あれ?」
「あら?」
――風景が広がっていたのだが……。
「なんだか以前より賑やかな雰囲気ですわね?」
「前に来たときよりお祭り準備が進んでる感じしますね」
:涼ちんさぁ
:なんで涼ちゃんイレギュラー引き当て率爆高なの?
:イレギュラー?
:なにか起きてるの?
先日よりも飾り付けがしっかりとされている。
雰囲気としてはもう数日後には本番というような空気だ。
因習村としての雰囲気はそのままなのだが。
「マハルさん。ダンジョン内に影響があるかもしれませんので、慎重に行きましょう」
「引き返すという選択肢は……」
「せっかくの配信という状況ですからね。情報収集は必要です」
「にゃぁ……ですよねー」
:マハル様ときどき猫っぽくなるよね
:猫が出てるとき素って感じするw
そうして、因習村鳥居とチキンたちが称していた、転移用の黒い鳥居の前にやってくると――
「うーん、不気味さアップしてますですわ」
「お札とかそのままゴテゴテ装飾するのどうかと思うんですけど」
二人の言う通り、ゴテゴテに電飾などでおめでたい装飾がされていた。怪しいお札とかはそのままに。
:うーん実に因習村
:コメントの仕方が分からなくなってきてる自分がいる
:とりあえず因習村言いたいだけのやついるよな
:前にマハル様来た時の鳥居ってこんなだっけ?
「先日のトリイダンサーと関係ありますの?」
「可能性はゼロじゃないですね。ランナーの代わりにダンサーが増えてたりするとわりと厄介な気もしますが……」
何はともあれ、二人はお祭り気分に浮かれたようなエントランスを抜け、ダンジョンへと足を踏み入れていくのだった。
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【Idle Talk】
丈之内マックとフィーネがコメント欄に居たのは、二人も今回のコラボ配信を注目していたから。
コメントをしたのは、感極まったから。わりと本気のお礼である。
コメントはしてないものの、レイサプ勢だけでなくデンギ勢や、その他ダンジョン配信勢も、結構注目しているコラボのようだ。
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