涼 と みんな と ダン材カレー


「あとから駆け込んでくるだろうみんなの分は分けておくとして……今は出来立てを楽しもう!」


 ディアはそう言って、部長やシロナ、モカPの分もよそっていく。

 もちろん、スタッフたちの分の小皿もだ。


 その間に、涼も油を切ったカツをザクザクと切っていく。

 二人の淀みのない手際は、飲食店の厨房を思わせるほどだ。


:途中ふざけてたけど二人の動きプロっぽいんだよなぁ

:高校生コンビの調理風景じゃないw

:探索だけでなく調理もベテランか涼ちん

:《モカP》涼の昼はだいたい自作の弁当だよ

:弁当自作とかすごいな

:あのお弁当自作だったんだ

:《モカP》唐揚げ弁当唐揚げマシマシメシ無し副菜無しをよく食べてる

:なんて?

:それはただ弁当箱に唐揚げ詰め込んだだけでは?

:それはただ学校では不足する揚げ鶏を補給してるだけでは?

:《モカP》だいたいあってる


 涼とディアは自分の分を手に、シロナと部長が座っているテーブルへとやってくる。


「お待たせしましたー!」

「ようやく食べれます」


 二人もテーブルに付き、一息ついたところで、実食の時間だ。


「あ、サングラス外してる人は付けなおしてね。絶対、光るよ」


:確かにスチャ

:光らない理由が見つからないなスチャ

:部長さんもナチュラルにサングラス付けなおしたw

:もうみんな当たり前のようにグラサンしはじめたぞスチャ


「みんなスチャスチャしてないで早く食べない?」


:涼ちんソワソワ

:もう待ちきれない顔してるww

:スチャスチャするという動詞よw

:みんなー!スチャスチャ終わったかー?


 コメント欄の一人が発した呼びかけに、「おー」だの「したぜ」だの「スチャー」だの「スチャったー」だの、色々な反応が踊る。


 それを見て、もう十分だろうと察したディアがカメラへと笑みを向けた。


「それじゃあいつもの……の前に、このカレー……なんて呼ぼうか?」

「ダンジョン食材のカレーだから、ダン材の鴨カレーでいいんじゃない?」


:断罪の鴨カレー

:涼くんってばちゅうに的だな

:たぶんダン材だと思う


「じゃあそれで」


 ディアは即決すると、改めて手を合わせた。


「改めて! 本日のメインディッシュ! ダン材の鴨肉カレー! みんなでいただきまーす!」


 スタッフ含めて――こっそりモカPも声を出してた――みんなで、いただきますと唱和する。


 そして、鴨カツを真っ先に一切れ口に入れた涼の顔が激しく輝く。


「すっごい輝いてる!」

「それほどですか」

「まだカツしか口にしてなかったようだけど」


:もはやみんな動じてないw

:カツだけであの輝きとな


「かみしめる度に鴨の脂と旨味が溢れる……おぼれるくらいに!」


:カツの感想でそれか

:どれほどの肉なんだドレイク


「確かにこれは……感動する味のカツだ。

 全くクドくはないけど、脂が溢れ旨味が押し寄せてくる」

「収録中でなければお酒を飲んだのに……!」


:部長さんが感動してる

:シロナさんが本気でくやしがってる

:鴨カツ肴に酒とかなかなか贅沢だw やりたい


「うん。カレーも我ながらすごく美味しくできてる。

 とにかく鴨の味が強いから、ドレイクの肉だけだと主張を抑えきれなかっただろうけど、レイク・コンソメをフォンの土台にしたおかげで、バランスが取れた感じ。

 鴨の味を最大限に引き出しつつ、カレーの味を壊さないように、レイク・コンソメが抑えてくれているというか……レイク・コンソメと合わさるコトで、仲良く表彰台の一番上でバランスを保ってる感じ?」


:酔いしれながら詳細たすかる

:メシの顔しながら解説は的確だ


「そしてこれをカツと一緒に……」


:もう見るからにうまそう

:ひたすら画面の半分が眩しいんだけど

:だからサングラスしろと言ってるだろ


 カメラは黙々と食べて輝いている涼を常に画面の端に映し続ける。

 そのせいで、視聴者的には眩しくてしかたないのだが、コメント欄にあるとおり、サングラスをしていない奴が悪いのだ。


 ――と、カメラマンも思いながら撮影していた。


「んんー!」


 そんなコメント欄とカメラマンの静かな攻防をよそに、カツとカレーを同時に口にしたディアが、身悶えた。


:エッッッ

:さっき以上にとろけてる


「はぁぁぁ……一緒に食べた時の……破壊力……すごい……」


 口元を抑え、何かをこらえるようなディアの姿に、コメント欄はざわめいていく。


「ああ……なんだろうこれ。ふつうにカツカレー食べた時の感覚と全然違う。なんか一緒に食べると別の料理になる感じ。

 いや、間違いなくカツカレーの味ではあるんだけど……」


 表現に困ったような様子を見せながらも、食べては悶えて食べては悶えてを繰り返し、最終的に無言で食べ始めるディア。


 ディアだけでなく、涼も、シロナも、部長すらも、みんな無言でカツカレーをがっついている。


:完全無音だぞww

:喰ってる音しか聞こえん

:そのレベルのカツカレーとか食べてみたいなぁ


「ふぅ……これは、本当に食べれて良かった……。

 これまで食べてきた鶏カツや鴨カツとは次元が違うや……」


:涼ちんエッドッッッ

:涼まで恍惚になってる

:ディアちゃん以上のメシの顔だ


「鴨カツとカレーを一緒に食べると、カレーが抑えていた鴨の味が爆発する感じがするんですよね。

 しかもただ爆発するんじゃなくて、一緒に混ざるレイク・コンソメも旨味を隠すのをやめるというか、ヤケクソになって爆発するんです。

 それらの旨味連鎖爆発が金沢カレーにも似たちょっと甘めのルーの味と合わさって、もうなんか説明出来ない鴨大爆発みたいな味となるんです。

 その爆発の余韻の隙間を狙って、今度はレイク・コンソメがこれでもかと暴れてきて……もう言葉がでなくなります。

 だけどちゃんとカツだし、ちゃんとカレーだし、ちゃんとカツカレーの味もします。

 自分でも何言っているのかよくわからなくなってきましたけど」


:涼ちんの食レポ助かる

:もう知らない次元の解説だな

:よくわからないと思ったら本人もわかってなかった


「ドレイク……狩れて良かった……。

 この味を知っちゃったら、もう鶏系モンスターを食材にしか見れなくなりそうです……」


:グラスコッコの時点でそうなってない?

:にげてートリさんたちにげてー!w


 そうして全員が食べ終わり、キッチリと食べ終わったあとの余韻まで楽しんだところで、ディアは涼と一緒にテーブルから立った。


「このままだと余韻でぼんやりしたまま無音配信になりそうなので、無理矢理〆に入りたいと思います――というかモカPにカンペで〆ろと怒られました」

「ついでにシロナさんと部長さんも一緒に怒られてます……大丈夫なの、あれ?」


:みんな余韻でとけたような顔してたしな

:確かにその危険性はあった


「カレーを食べてるうちに進行を忘れてしまった私が悪いので……」

「いやはや、このでたがり部長とした者が……カツカレーで我を忘れてぼんやりしちゃうとは思わなかった」


:そこだけ聞くとやばいカレーだよな

:実際やばいカレーだろ

:そんなカツカレー一生に一度は食べてみたい


「というか同じだけの量食べててモカP平然としてますね?」

「魅了が付与されてるかのようなカレーだったのにね?」


:《モカP》精神修行には自信があります

:どんな自信だw

:ふだんモカPなにやってんの?

:モカP的に美味しくなかったの?

:《モカP》むちゃくちゃ旨かったよ ちょっと意識飛ぶくらいには

:意識が飛ぶほど旨いカレーとは

:いいなー


「ともあれ、メインメンバーが正気を取り戻したところで終わりにしたいと思います!」

「ええっと、今日は見ていただき皆さんありがとうございました」


:相変わらず堅いぞ涼ちん

:どうして定型文だけこんな棒なん?w


「次回もまた私のキッチンと――」

「………………え?」


:涼ちゃん固まってるwww

:こういうの馴れてないからね涼くんw

:そういや涼ちゃんねる定番の挨拶ないな

:ファンネームもないよ

:《モカP》今度の雑談の時にでも考えますか

:涼ちゃんねらーは違うの?


「あ。涼ちゃんねらーは私が勝手に言ってるだけです」


:ディアちゃんwwww

:さすが涼ちゃんねるのヘビーユーザー

:言うほど涼ちゃんねるも歴史ないけどなw


「ぐだぐだしてないで〆ろって、モカPが」


 涼がぼんやりとモカPのカンペを示すと、ディアが慌ててカメラに向いた。


「いけないいけない。

 改めて、次回も私のキッチンと、涼ちゃんねるのそれぞれでお会いしましょう!」

「えーっと、またね? コンゴトモヨロシク」


:おつかれさまでしたー

:疑問系?

:またねー

:涼ちんがひたすら堅いw

:相変わらず雑いww

:楽しかった

:涼ちゃんねる登録したわw

:初めてこういう配信見たけど楽しめました

:真面目とgdgdのギャップがよかった


 そうして配信がフェードアウトしかかっている途中――


「ちょーっと待った!!」

「ワタシたちの分!!」

「残ってるよね!?」


:きたww

:きてしまったwww

:もう終わったっていうのにw


「残ってるけど終わりの挨拶したところだから、もうちょっと待ってて」


 画面がブラックアウトしていく中で、ディアの声が聞こえてきて、コメント欄に笑いが満ちていく。


「まだカメラ回ってる?」

「めっちゃうなずいてるよ!」

「やらかしたー!」

「時間的に終わってると思ったのに!


:だいぶ画面暗いけどなw

:終わり際のサプライズだwww

:真っ暗なのに配信続くという謎w


「このままマイクだけ残して試食します?」

「いやふつうに終わろうよ、一度」

「挨拶しちゃいましたしね」


:gdgd感がすごいw

:ほんと配信始めて見たけど楽しいわw

:涼ちゃんねる登録しといた

:三人もカレー楽しんでねー

:三人のリアクションも知りたいけどな


「三人のリアクションは後日、ワブに写真あげますね。出たがり部長が約束しましょう」


:まじかw

:楽しみw

:音声だけでもにぎやかだなw


「あの……これ、どこで終わるんですか?

 画面は真っ暗なままコメント欄と遊んじゃってますけど」

「本当はもう終わってるんだけどね」

「あ。三人の気配がしたからわざとマイクとコメント欄閉じずにいたんですね?」

「ワタシたち遊ばれてた?」

「この展開狙われてたの!?」

「そんなコトよりカツカレー!!」


:《モカP》ここらでコメント欄もマイクも閉じましょうか

:えー

:もっと楽しみたいけど

:まぁ仕方ない

:《モカP》改めて皆さん、ご視聴ありがとうございました

:《出部長》今後とも大角ディアと、ルベライト・スタジオをよろしくお願いします

:《モカP》涼ちゃんねるも、あわせてよろしく


「カレー! カレーをよこせー!」

「ちょっと落ち着きなって!」

「涼さん!? なんでおかわりしてるんですか?」

「配信終わったなら鶏肉の為に食べようかなって」

「鶏肉の為ってどういう意味ッ!?」

「涼ちゃんそれ三人の分だからー!」

「なんだと!」

「それは聞き捨てならない!!」

「ギルティ~~~~!!」



 ===この配信は終了しました===



====================



【Idle Talk】

 カレーを食べた三人は無事に腰を抜かし、とろけた表情で余韻に浸った模様。

 そのとろけっぷりはしっかりと写真に収められ、部長がワブったところ案の定バズった。




==



 これにて、第一章は終わります。

 だいたい12万文字ちょっと。結構キリの良い分量で終われました。


 キリの良い子のタイミングで、もしよろしければ、下の方にあるレビュー☆☆☆ボタンで、応援して頂ければと思います。



 引き続き、第二章を開始していきたいと思いますが、推定コロナに罹患し、動けない日が続いた上に、熱が落ち着いた今も、だいぶ体力が落ちていて全然執筆できていないので、ストックが余りありません。


 とりあえずはストックに追いつくまでは毎日更新は続けたいと思いますが、追いついたあとは不定期になるかと思います。

 今後ともスニチキをよろしくお願いします。



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