/// 28.冒険者ギルドのアレンさん

「なんだ、これは?」


冒険者ギルドの一室で、エルフィンから証書を受け取ったのは冒険者ギルド長をしている元勇者パーティのアレンである。その証書には王都の現王陛下であるエルザード・ウィルキンソンの署名と国印が入ったものであった。

普段から仕事は全てエルフィンに任せていたのだが、このような証書は初めてであった。中身については、魔導士・サフィ、および聖神官・オオカワタケルのSランク昇格を認める通知書であった。


「これに冒険者ギルドの証印を、ここ、その部分い押していただければ両名新たなSランク冒険者として認められる、ということです。よろしくお願いいたします」


にっこりと笑い、証書の一部分を指さし急かすエルフィン。


「オオカワ?オオカワ・・・オオカワ!あの無能が?Sランク?何かの間違いだろ?いや同名の別人だな。いや聖神官って・・・」

「タケル様は転移者であるとともに、あなたを含む勇者パーティの一員だったではないですか・・・彼で間違いないですよ」


いまいち状況の見えていないアレンであるが、エルフィンの言葉でやっと自分の考えが間違えではないことに気づき声を荒らげる。


「あんな無能がなんだってんだ!Sランクに昇格なんてもう何年もないじゃないか!おちょくるのもいい加減にしろ!」

「おちょくってるのはどちらですか!ここ数か月、大量の貴重素材が舞い込んでギルドの収入も大幅増!急遽人員を増やし、さらに大きな利益をあげているのはご存じでしょう!」

「それとこれとなんの関係があるんだ!」

「その素材のほぼ全てはそのお二方がもたらしたものです!」


その言葉を聞いて、目を血走らせていたアレンの動きがとまる。


「あの素材をオオカワが?」

「はい」

「というかあいつは死んだのでは?」

「生きてますが?」

「なぜ?」

「そこまでは伺ってません」

「これは王印入ってるから拒否したら?」

「処刑でしょうね」


アレンはだまってギルド印を所定の場所に丁寧に押した。


「これで、いいのかな?」

「はい」

「うむ、下がっていいよ」

「いえ」


もう無気力状態になってしまったアレンは、出ていこうとしないエルフィンに首を傾げてしまう。おっさんのこの所作を誰が望んだというのだ。


「この証書は、明日、ギルド長から広場の方で群衆歓談の中、進呈されます。ちゃんと新たなSランク冒険者に跪いてお渡しくださいね。決まりですので・・・」

「どうして俺があいつに跪いてやらねばならん!」

「Sランク冒険者様ですよ?これからのギルドへの貢献をお願いする儀式ですよ?わかりませんか?」

「ぐっ・・・」


次の言葉を発することができなくなったアレンを置いて、エルフィンはその部屋を出ていった。「明日の10時より中央広場です。時間厳守でお願いいたします」という言葉を残して。


エルフィンは見た目は幼いが立派な強キャラではあったようだ。冒険者ギルド受付嬢あるあるである。


◆◇◆◇◆


王都の中心部、中央広場の広いスペースは人の波にあふれていた。王都中央警備隊と、猛流組(たけるぐみ)による警備のもと、中央にできたステージとそこに連なる通路は開けてあった。

そしてすぐそばに、多数の大国騎士に囲まれた豪華な馬車、認識阻害がかけられているため、かなり高貴なやんごとなきお方が見ていらっしゃるようだ。まあぶっちゃけると、現王陛下と王妃様が乗ってらっしゃるとか。

なぜその場に登壇する予定のタケルが知っているかと言うと、もちろん猛流組(たけるぐみ)や盗賊ギルド経由の情報網により入手した事実である。


そして待機していた音楽隊のファンファーレとともに授与式が行われ、中央冒険者ギルドのアレンが登壇する。緊張のためぎこちない動きであったが、何とか中央まで歩ききり、中央で民衆に向かって立ち止まる。

どこからともなく「これより、Sランク冒険者授与式を執り行います」との声がした。スピーカーのような魔道具から発せられたエルフィンさんの声であった。その言葉と共に人の名前が読み上げられ観衆の悲鳴のような歓声がこだましていた。


「なんか緊張するねサフィさん」

「そうか?」

「これでサフィさんが凄いってこと、みんなにばれちゃうね」

「や、やめろよ!なんか、むずむずするだろ!」


緊張していないサフィさんに意地悪をしたくなったタケル。それで少し緊張もほぐれステージへと登壇する。


「ひさしぶりですね。アレンさん・・・」

「ぐっ・・・生きていたとはな・・・な、なによりだ」


なんとかこの場で怒鳴り散らしたいことをこらえたアレンは、証書に記載された文言を読み上げる。


「魔導士・サフィ、様、および聖神官・オオカワタケル、さ、様・・・の、ギルド並びにエルザード大国への多大なる貢献を称え・・・Sランク昇格を認める」


そして本来であればここでアレンが跪いて証書を渡す流れなのだが・・・いっこうに腰を折ろうとしないアレンに見ていた観客たちが一人、また一人と批難の声をあげ始めていた。エルフィンさんは必死に「お静かにおねがいします」と繰り返していた。


「何やってんだ!」「早くやれ!」「引っ張るなじれったい!」「どっかのテレビ局か!」などと声がぶつけられる中、油の切れたロボットのように、腰をギギギと折ろうか止めようかを繰り返している中、タケルが我慢できずに声をかけた。


「あの、無理せずそのまま渡してくれれば・・・」

「早くしろよおっさん!」


その言葉にアレンが顔を真っ赤にしてが歯噛みする。タケルは、僕のせいじゃないよね?サフィさんが煽るから・・・なんてことを考えていたが、怒りに震えているのはタケルの言葉によるものであった。


『膝を折り証書を渡す』


その動作でなければ国から処分される。そのことをエルフィンから何度も念押しをされていたため恥辱にまみれながら実行しようと思っていた最中の言葉である。そしてアレンの中で何かがはじけ飛んでいた。


「お前がー!偉そうにするなー!」


腰の双剣を素早く抜き、【倍速剣】【2段切り】【会心の剣】【弱点看破】という持てる全てのスキルを発動させての怒りの全力攻撃。残念ながら【弱点看破】についてはその効力はまったく発揮することはなかったが、その剣戟にタケルの体はいくつかに切り裂かれる結果となった。


群衆からはたくさんの悲鳴がこだました。前代未聞の事件であった。


サフィさんはアレンをステージの床に叩きつける。周りを警備していた王都中央警備隊が一歩遅れてアレンを拘束した。アレンの頭はつぶれかけている。やっぱりサフィさんは手加減できるできた女(ひと)だ。本気でやったらそんな感じにはならないよね。

タケルはそんなことを思いながら、切り裂かれた体は砂のように消え、やがて元居た場所に受肉していく。そのことを知っているから佳苗たち女性陣も身動きも悲鳴も上げていない。だがみな怒り心頭で歯を食いしばっている。


そして、その悲鳴はやみ静寂が訪れる。


タケルが完全復活で元通りになって観衆をきょろきょろと見渡し、佳苗たちの方を向くと笑顔で手を振ると、群衆からは大きな歓声に包まれることとなる。

その後、例の馬車の扉が開き、伝令の役割なのか一人の豪華な制服を着こんでいるものが頭を少し馬車内へと入れた後、元の位置に戻り周りの兵の一人に耳打ちしていた。

その兵がエルフィンの元へたどり着くと何やら伝言をつたえられ、エルフィンは頷くとそのまま檀上まで登ってきていた。取り押さえられたアレンが落としてしまった証書を拾うと、ふーふーと何やら息を吹きかけている。

埃を掃ってるのかな?と思って見ていたタケルだが、そのままタケルの元までやってきて膝まづいた。そしてやっと授与式に終わりを迎えた。


タケルとサフィさんは壇上から降り、女性陣の待つVIPエリアへと戻ると、受け取った二人の証書を見たりしならが孤児院へと戻るかなっと思いながら、檀上のアレンが警備隊たちに拘束され、どこかへ連れていかれるのを横目でみていた。


結局、予定していた晩さん会は中止となってしまったが、代わりにとタケルが各種ドラゴン肉を大量に出すと、解放されたままの広場では焼肉パーティーが開催されることになってしまった。タケルたちはそのままいるとパニックになってしまうようなのでお暇させていただいた。


孤児院に戻ると、「肉ー!」とうるさいサフィさんのためにとっておきの霜降りドラゴン肉を取り出してお腹がいっぱいになるまで食らいつくした。当然ながら食後の夜の運動も忘れない。ストップ!運動不足!

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