/// 19.貴族様来訪
養殖もひと段落したある日、孤児院の玄関がノックされる。
佳苗が扉を開けると、そこにはでっぷりとした男と歴戦の戦士を思わせる男が二人立っていた。その風貌から真ん中のでっぷり禿親父は貴族であろう。奇抜で豪華な服を纏っている。センスが悪すぎる。頭おかしいと思うのは世界観の違いからなのか・・・
両脇の男たちは護衛であろう。高そうな鎧に身を包まれ、帯刀もしているようだ。
「こ、これはハイネケンス様、このようなところにお越しいただいて・・・どのようなご用件でしょうか?」
「相変わらず悩ましい体つきをしておるな!どうだ、やはり俺の妾にならんか?贅沢をさせてやることは間違いないぞ!」
「御冗談を。で、ご用件は?」
そのハイネケンスと呼ばれた男は、下種な挨拶を躱したとたんに、佳苗の冷たい返答を受けてちょっと怯んでいた。両脇の護衛が少し距離を近づけ警戒したが、おっさんが手をかざして止めていた。
まあ、全員200越えの猛者になってるから心配してはいない。護衛も二人とも100も超えてないし・・・
「要件なんですが・・・そこの男・・・それと何人か増えている様ですね・・・そして何やら稼いでいると耳にしています。どうでしょう・・・もう補助金は打ち切ってもよいのでは、と思ってきた次第ですよ」
話しながらちらりとこちらにも視線が向けられた。補助金とか出てたんだな。まあ当然か。でもそれが足りないから四人が頑張っていたわけで・・・
「何言ってるんだ!10万エルザとかあんなはした金で支援した気になってんじゃねーよ!」
10万エルザってなに?ガキの小遣い?康代ちゃんの言葉に耳を疑ってしまう。
「うるさい!この建物だって土地だって俺のもんだ!その上、金まで出してやってるのに何が不満だ!嫌ならとっとと出ていけ!」
「くっ・・・」
見るからの悪役でなんただ安物のドラマでも見ているようでちょっと楽しくなってきた僕はつい口が滑ってしまう。
「ならここ売ってくれません?」
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
「ええっ!!!」
いや、佳苗が一番驚いてどうするの?
「はっ!なんだクソ生意気なガキが!子供のお小遣いで買えるようなもんじゃねーんだよ!少なくとも・・・そーだな・・・5億はくだらんな!」
「ぷっ」
そうなんだ。このボロボロの屋敷がね・・・って誰だよ笑ってるやつ・・・悠衣子ちゃんか。
「じゃあ契約書持ってきてもらいます?5億で全部売りますって。出来れば『今後一切こちらにはかかわりません』っていうのを追加してもらえると嬉しいです」
「ふざけるな!そんなお遊びを聞きに来たんじゃねーんだよ!」
わざと淡々といってみたら顔を真っ赤に怒っているハゲちゃびん。仕方がないので・・・5億っと・・・袋に入れてどっしりと地面に落としてみる。
左側に立っていた護衛さんがそれを拾うと、主人に手渡していた。名も知らぬ護衛さんありがとうございます。
「ん?こんなもの・・・豆でも入ってい・・・お・・・おい!お前はなんなんだ!あれか!どっかの貴族か!この女を手に入れるためにここまでするのか!いやするのですか?いやまだ貴族ときまったわけではないな・・・いやしかし・・・」
何やらブツブツいいだしたので、仕方なく身分証明としてギルドカードを出してみた。そしてそれをひったくると少し眺め、そして丁寧に両手で手渡してくれた。
「あーAランクの冒険者様でしたか。これはこれは失礼いたしました。さ、先ほどの5億というのはその・・・まあ正しい額なんですが、冒険者様のためになるのであれば・・・2億、におまけをさせていただいてですね・・・はい。すぐに、すぐに書類を用意いたしますので、その、後程お時間を作っていた出ないでしょうか」
なんかもう地面に頭こすり付けそうなぐらいになっているので、可愛そうになっていつでもいいよ。と伝えておいた。Aランク冒険者ってそんなにすごい権力もってるのか。効果ありすぎと若干怖くなってしまった。
そんなこともありつつ、護衛も急にぺこぺこしだして、近日中にすべての書類をそろえると約束して返っていった。ちなみに確認したところ、屋敷以外にも後ろのかなり広い土地もそのハイネケンス男爵というその貴族の持ち物らしいので、3億に追加するといったらあっさり譲ってくれた。
権力に巻かれる分かりやすい貴族のようだ。
「なんか・・・すごい人だったね・・・」
そう言って振り返ったんだが、あまりの出来事にみんなフリーズしていた。サフィさんはのんきにお菓子を食べながらくつろいでいた。とは言え、これで孤児院は僕の持ち物となったので、せっかくなので広く拡張してみようと思う。なんだか楽しくなってきたな。
◆◇◆◇◆
その夜、佳苗と加奈、悠衣子に康代とサフィさん。みんなで居間に集まり、孤児院の拡張計画を話し合った。
話しを聞いてみると、ここら一帯には、ここにも入れない貧しくてホームレス生活をしているって子供たちがたくさんいるらしい。なのでどうせならそのすべてを養えるほどの施設にしてはどうかと考えていた。
幸い土地だけは広い。この建物の後ろに別の建物として広い施設を建てることは可能だ。この世界では建築系のスキル持ちが集まる建築ギルドもあって、日本よりはるかに短時間で建物を建てることができるという。
早速その間取りなんかを話し合っていた。もちろんその案を踏まえつつ、専門家に丸投げしようとは思っている。
そして、最初に佳苗や加奈が主張したのは、寝室である。今はその二人とサフィさんと僕が、少し広めとは言え佳苗の部屋で寝ている。交代ではあるが床に布団を引いて寝たりしているのでどうせなら広い部屋がほしいのは事実だった。
「寝室は、このぐらい広くして・・・ベットはできるだけ大きいのがほしいな・・・」
「そ、そうね。やっぱりね。タケルくんとしてる時も他の子はすぐ横で待機してたいじゃん・・・」
おい。なんて破廉恥な会話を・・・他の二人が真っ赤にしてるじゃないか・・・佳苗と加奈の提案を聞いて、そんなことを考えていたのだが・・・
「あの・・・もしよかったらでいいんだけど・・・そのベットをもう一つ置けるようにしてくれたらいいな・・・って・・・」
「私もよかったらなんだけどね・・・」
二人して真っ赤な顔でもじもじしている。あー分かります。そういう事ですよね。僕の勘違いだと恥ずかしいので僕からは言いませんよ?何でしょうかサフィさん。いつもなら「群れに!」と言うんじゃないんですか?なにニヤニヤこちらを見てるんですか。学習してるんですか?学習したんですね・・・
そしてまた二人を見ると明らかにこちらをチラチラ伺っている。どうしたらいいのこれ?そこに佳苗からの助け船が入ったので僕は安堵のため息を吐いた。
「それは、悠衣子も康代も、その・・・そういうこと?でいいのかな?」
その一言に二人がコクリと頷いてこちらを見ていた。
「じゃ、じゃあ・・・OK・・・ということで・・・」
「よろしくね」
「よ、よろしく」
「よし!新たなメンバーが決まったし早速風呂でも入るか!」
「おいっ!」
正直あのもじもじとした何とも言えない空気を壊してくれたサフィさんに感謝しつつ、まだ間取りの話がまったく進んでいたいのにぞろぞろとお風呂場に向かってしまった女性陣。取り残された僕はだまって間取りを勝手に考え始めた・・・寝室とお風呂は大き目だな・・・
その夜は、悠衣子ちゃんと康代ちゃんとも初めての夜をすごした。なんかそれぞれのシャンプーかは分からないが良いにおいがしてとってもドキドキした夜だった。最近は狩りでみんなが自由に使えるお金も増えたからね。女性は身だしなみに気を遣うというのを初めて実感した。
サフィさんまで違った匂いがしたことに驚いたけど。
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