保健委員だった僕、勇者パーティに火口に投げ込まれたのだからさすがに切れてもいいですかね?

安ころもっち

/// 1.クラス転移されました。

僕は大川猛流(おおかわたける)。

自分で言うのもなんだが、大人しい性格で平凡な毎日を送っていた。


クラスには中々なじめず、目立たない保健委員を押し付けられ、たまにある雑務を一人こなしていた。

本当はもう一人、朝倉蘭という女生徒も保険委員なのだが、すべて僕に押し付けられていた。


「まあ、そんなに頻繁にある仕事じゃないから・・・」


一人そんなことを考え、無気力に生きることを良しとしていた。


ある日のホームルーム。先生が教室を出る。はあ、また面倒な毎日が始まった。そう思った時、教室全体が光に包まれた。

目の前の発光・・・眩しさに目がくらみ腕で目を覆った時・・・悲鳴の数々の中に「猛流(たける)」と僕を呼ぶ声がした。多分、幼馴染の佳苗(かなえ)だろう。


並木佳苗(なみきかなえ)は、家が隣同士で小さい頃から良く一緒に遊んでいた。

しかし清楚で優しくクラス委員となった彼女に、気後れをして自ら壁を作っていた僕は、高校に上がってからはすっかり口もきかなくなり疎遠となっていた。


「ああ、懐かしい・・・相変わらず可愛い声だ。これはきっと僕・・・死ぬのかな?」


そんなネガティブなことを考えていたが、どうやらそのまま光は治まったようで、目を覆っていても感じていた光が薄れていくのを感じ、腕を下ろしながら目を開けた。

そして目線の先にはいかにもお城の王座の前。

目の前には髭を蓄えたガタイの良い王様、美しい王妃様、そしてかわいらしい姫が見え、その周りには洋風の衣装に身を包まれた大人たちが多数立っていた。


「魔物を倒し、世界を救ってほしい」


目の前の王と思われる派手な髭男が、そう口にした。


横に待機していた側近のおじさん、カイデル宰相という国の政治を担う男から「魔物のはびこるこの世界を異世界の力でお助け下さい」というありきたりな理由が説明され、お決まりのステータスという声と共に、自分のスキルに一喜一憂するのだった。


どうせというあきらめと、もしかしたらという僅かな期待を胸に、自分のステータスを確認する。


◇◆◇ ステータス ◇◆◇

オオカワ・タケル 16才 ヒューマン

レベル1 / 力 I / 体 I / 速 I / 知 I / 魔 C / 運 S

ジョブ 聖神官

パッシブスキル 【超回復】


ジョブ『聖神官』スキル『超回復』・・・ステータスは魔力と運以外はIという記号に最低なのかどうかも分からないが、ちょっとがっかりする。しかしさすがにこのジョブとスキルについてはチートな香りをビンビン感じていた。


ふと周りを見ると、剣豪、戦士、神官、盗賊、魔導士などなど、様々なワードが飛び交っていた。


そして周りに列席していた人の中から、豪華な装飾がついた黒いローブに包まれた女性がこちらを笑顔で見ながら近づいてきた。


「やあ君!素晴らしいじゃないか!みんなー!ここに聖神官様が誕生された!これで憎き魔物をすべて殲滅するための準備は整ったわ!」


僕の肩に手を置いた女性は周りにそう高らかと宣言をしたのだった。

その声に周りの感嘆の声に交じって罵声が交差していた。


「あ、あの!私は!神官で回復が使えます!私の方が役に立ちます!絶対に後悔させませんから!」


そのローブの女性と僕の間に割り込み、自分を売り込んでいるのは、朝倉蘭であった。同じ保健委員だったからかは分からないが、神官職になったようだ。


「あーあのね、どう考えても聖神官と神官ではこっちの僕ちゃんの方が役立てそうだろ。わかったらお嬢ちゃんは黙ってようねー」


ローブ女にそうあしらわれた朝倉は、こちらを凄い形相で睨んできていた。


「私はカイザード。勇者パーティ『遥かな頂き』の魔導士よ。ちょうど回復職を募集していたのでここに招待されたんだ。私たちと一緒に行こう!」


その女性の差し出された手に期待を胸に膨らませながら握りしめ、僕の大冒険が始まった。・・・が、次の瞬間、僕のその期待に膨らみかけた胸倉をぐっとつかみかかり「おまえなんかが!」と罵声を浴びせられた。朝倉の顔が真っ赤になりながらずっと呪詛のように僕の悪口を言い続けている。


良くもそんなに悪口を思いつくもんだ。思いがけず朝倉のボキャブラリーの高さに関心してしまった。そんな思いで言われるがままにいたのだが、朝倉はすぐに近くの男に首をつかまれ後ろに放りなげられた。


「うるせーやろうだな。おい!衛兵!こいつどっか連れてけ!」


その言葉にすぐに近くまでやってきたその衛兵と思われる鎧を着こんだ男たちに、朝倉はがっしりと手足をつかまれどこかへ連れていかれた。その間もぎゃんぎゃんとうるさく何やら叫んでいた。


「うるさいやつだったな。大丈夫か?俺はライディアン、一応勇者だ」


その言葉と共に手を出す自称勇者に手を出して握手に応じる。


「あの!俺も連れてってください!俺、剣闘士です!」


後ろの方で、別のメンバーと思われる屈強な男にそう声を張り上げているのは、いじめっ子グループ、カーストトップクラスの俺様男、前川義男であった。


「いらんいらん!剣闘士は間に合ってる!俺様がその剣闘士だ。転生したばっかりのペーペーに勤まるほど、このパーティは甘かねーよ!」


シッシと手で払うように追い払われたが、先ほどの朝倉の様子を見ていたのかそれ以上の言葉は生まれず、自分の仲間たちの輪に戻っていった。そこに勇者と共に歩み寄る僕の顔を見て、朝倉と同じように歯噛みしながら睨みつけられた。

そりゃーカースト最下位クラスの僕が優遇されてるのを見て、気持ちの良いものではないよね。そう思いながらも、ほかのパーティメンバーの紹介を受けていた。


先ほど前川のことを無碍(むげ)にしていたのが剣闘士でアレン。屈強な男である。ドラグーンという竜族の血を引く戦闘民族という話しを聞いて、どっかのスーパーな星人のようだと考えていた。

同じくドラグーン族で闘士のドライヤン。こちらも厳つい・・・

そして如何にもドワーフという大きな体躯の髭男がザックス、闘士ということだ。

小柄で軽装な女性が盗賊職のエルディン。

スライアスは薬師というジョブでエルフ族とのこと。

最後にミンティアは商人。ヒューマンとのこと。


自己紹介が終わると、王たちに紹介され「召喚されし聖神官!オオカワ・タケルを、勇者パーティ『遥かな頂き』の一員とすることを、王の名においてここに任命する!」と高らかに宣言され、室内に歓喜の声がこだましていた。

その後、即座に出立の準備をして派手な馬車で城門までを練り歩くということなので、少しだけ室内に待機を言い渡された。


「猛流(たける)!」


懐かしくも聞きなれた声。振り向くとそこには佳苗(かなえ)が目の前でこちらを涙ぐむように見ていた。


「猛流(たける)・・・よかった。勇者の一員なのね。でも・・・心配・・・私も一緒に行きたいけど、私ね、錬金術師なんだって。薬師と被っちゃうみたい。猛流(たける)が選ばれたから私も絶対一緒に行きたくて、お願いしてみたんだけどさくっと断られちゃったわ・・・」


懐かしい佳苗(かなえ)との会話に少しだけ胸を躍らせながら、沈んだ表情でこちらを心配する佳苗(かなえ)に「大丈夫。必ず帰ってくるから・・」そう言って安心させる。


そんなことを言っている間に、僕はメイド服の女性に準備ができたことを告げられ、その後について部屋を後にした。


◆◇◆◇◆


召喚され超回復を得た僕は、召喚の儀式に同席していたA級パーティ『遥かな頂き』に一人だけスカウトをされた。


「君のスキルはきっと俺たちの助けになる!一緒に世界を救おう!」


そんな言葉に胸を躍らせ、冒険を重ねていた僕は後悔することになる。


攻撃手段がないためレベルもスキルレベルも上がらない。

何度も何度も弱い魔物をパーティメンバーが押さえつけながら、首を切るだけの作業を一日中繰り返したこともあった。

普通であれば、一日中こんなことをしていたらレベル1なら30程度は上がるらしい。


しかしレベルが上がらない。ずっと回復は自分にだけ。


『遥かな頂き』は国王にメンバー交代の直談判をするために国に戻る。

事情を聴いたクラスメートにはいじめられた。もうそれを止める人はいなかった。佳苗(かなえ)以外は・・・

その佳苗(かなえ)も、他のクラスメートから煙たがられるので、僕は関わらないようにと拒絶した。


国王からは指名した手前とりあえずは当初の目的どおりドラゴン討伐までは帯同するように命令された。

そして『遥かな頂き』の面々もそれを渋々了承した。

その代わりにとあの朝倉蘭がメンバーに加えられた。僕が使えないということが伝えられてから、投獄されていた朝倉を解放すると、大急ぎで僕と同じように兵士がおぜん立てをした魔物の首を狩る作業をさせていたのだ。

あっという間にレベル50を超えた朝倉は、僕をいつも蔑んだ目で見ていた。


道のりは険しく、途中でも超回復でいくらでもけがは治ることをいいことにサンドバックになった。殴っても蹴っても切り裂いても、すぐに治ってしまう。

朝倉も僕を蹴っては唾を吐きかけ楽しそうに笑っていた。

「もしかしたらこれでレベルが上がるかもな!」そんなことも言われながら何度も何度も繰り返される暴行・・・

確かに商人や盗賊などはスキルを使い続けてもレベルが上がる場合がある。商人などの非戦闘職はそもそもスキル使用でのレベルアップの方が早い。

もちろん神官系のジョブは先頭でレベルアップするのは、先頭でドンドンレベルアップしている朝倉を見れば明らかであった。


そして毎日を送りながら険しい火山地帯の先にいる火竜の元へとたどり着く。

そして僕以外のメンバーが持てる限りの力を振り絞り、視力を尽くしてなんとかそれを討伐した。

ライディアンの【ライトニング】が炸裂すると、火竜はマグマの中へ落下していった・・・

みんなボロボロの状態ではあったが、その顔には喜びに満ちていた。


みんなボロボロだ・・・僕が回復できたらいいのに・・・そんなことを思っていたら「よし!じゃあ行くか!胴上げだー!」という掛け声とともに僕の体がふわりと浮いた。

まさかの胴上げ?僕は役に立たなかったのに・・・そんなことも思ったが、ただただ嬉しさに涙がこみ上げる。


高々と上げられた僕の体に感じる浮遊感が満足感に代わる。


「はーやっとスッキリする!役立たずにまで褒賞を分けことになるんなら、さすがに我慢できねーからな!」

「討伐の末に犠牲になったとかうまくいっとくから!」

「安心して死ねよーー!」

「蘭の考えた胴上げってやつ面白いな!」

「でっしょー♪」


そしてそのまま僕は落下していった。

慌てて下を見るとにはボコボコとしたマグマが見える。


そんな言葉の中、僕は・・・数十メートルはあろう火口を落下し、そのままマグマに身を焼かれた。

一瞬んでその熱の痛みが全身を駆け巡り肉はすべて消滅する。


「あ¨あ¨あ¨あ¨あ¨あ¨あ¨あ¨!!!」


全身の肉が焼ける激しい痛み。骨もすぐに溶けてしまうだろう。そんな激しい痛みの中、僕は焦燥感にかられただただお荷物になっていた自分を思い返していた。

仕方がないよね。僕はずっとお荷物で・・・だけど食費だって無料(ただ)ではない。たとえ残飯のような残り物であっても。僕だけ外に野宿だとしても。

火竜を倒した褒賞なんて、受け取るつもりなかったのに・・・


「でも・・・それでも僕は・・・そこまでされたのだから・・・切れてもいいですかね?」


そんなつぶやきが、マグマに焼かれ消し炭のようになる僕の最後の言葉になった。

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