6.[配信回] 友達とトランプとかで遊ぶよ!
「それじゃあ今度こそゲームをはじめま~す」
そう言うと友1さんはトランプを取り出した。
カードゲームの場合にカメラが一つだけだと、それぞれの手札を映してリスナーに状況を伝えるのが大変だけれど、今回は数台ある上に上手に映してくれるから良い感じに配信出来ると思う。
「最初はもちろん『ぷぎゃ抜き』だよ」
「なにそれ!?」
そんなゲーム聞いたことも無いんだけど。
「ほらこれ見て」
「え? 何これボク!?」
そのトランプにはなんとボクの絵柄が書かれていたんだ。ハート、ダイヤ、クローバー、スペード、そしてジャック、クイーン、キングにそれぞれボクがコスプレした姿が描かれていた。
"ください ¥50000"
"可愛すぎる! ¥50000"
"どこで買えますか!?!?!?!?!? ¥50000"
"買い占めた ¥50000"
"え? 公式グッズ? ¥50000"
「ぷぎゃっ!? あ、あれ、スパチャ封印中だよね……?」
色が変わって無いってことは自分で打ち込んでるのかな。
もう、びっくりしたなぁ。
スパチャは絶対に解禁しないからね。
それと友1さんにも言いたいことがある。
「いつの間にこんなトランプ作ったのさ!」
「可愛いでしょ」
「うう……恥ずかしいよぅ」
絶対に嫌とは言わないけれど、せめてもっと格好良い服装も入れて欲しいな。
可愛いのばかりなんだもん。
「救様。皆が欲しがってるからこれ売っても良いかな」
「……タダで配っちゃダメなの?」
お金なら思い出したくもない例のアレがまだ沢山残ってるもん。
アレは皆からの気持ちだから、その皆が欲しがっている物のために使うってのは良いアイデアな気がする。
「間違えた。皆買いたがってるからこれ売っても良いかな」
「ぷぎゃっ!? なんでさ! タダで配るんだからそっちの方が嬉しいでしょ!」
しかもトランプなら程良い値段のものだから、貰っても高価すぎて遠慮するって気分にはならないはず。
それなのにどうしてわざわざ買おうとするのさ!
「とにかく、配るのは良いけれど売るのはダメったらダメ!」
「ちぇ~」
残念そうにしている意味が分からないよ。
「ほらほら、ゲームの説明してよ」
「ババ抜きと同じだよ」
「え?」
ババ抜きならボクでも知っているけれど、どうして名前を変えたのかな。
「ほらこれがジョーカーだから」
「ぷぎゃっ!?」
ボクが動揺している時の顔だ!
こんな恥ずかしいカード作らないでよ!
「やっぱり配るのも禁止!」
「え~」
「こんなの恥ずかしすぎるよ……」
「今更だよ。救様の動画がどれだけ再生されていると思ってるの?」
「それも恥ずかしすぎるからどうにかしたいよ……それに物として残るのは気分的にもっと嫌なの!」
"え~"
"欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい"
"超可愛いのに"
"世界中に一家に一台"
"一台じゃ足りないぞ"
"観賞用、保存用、観賞用、観賞用で十セット必要"
"あそべw"
誰がなんと言おうともこればっかりは譲らないからね。
「それじゃあさ、救様。ゲームに私達が勝ったらこれ売らせてくれない?」
「ゲームってババ抜き?」
「ぷぎゃ抜き」
「……ババ抜きと同じルールなんだよね」
「うん。但し魔法とかスキルは禁止だよ」
「分かった。良いよ」
「やった」
ふふふ、多分皆はボクがゲームに弱いって思ってるんだよね。
魔法無し、スキルなし、つまりズルなし。
どうってことないさ。
"悪い顔してる"
"その顔がぷぎゃるのが楽しみだぜ"
"ぷぎゃ抜きに勝てる未来が見えないw"
"救様からぷぎゃを抜いたら別人じゃないか!"
"自信あるんだろうけれど、普段の様子を見ているとねぇ"
"いや、でもこれは……"
おっと余計なコメントが流れる前に始めないと。
「それじゃあやろうよ」
友1さんがカードをシャッフルしてボクらに配りゲームスタートだ。
ぷぎゃ、じゃなくてババはボクのところには来ていない。
「おっと、ゲームを始める前に、
この部屋に沢山あるカメラがボクらの後ろに浮かび上がりそれぞれの手札とか表情を配信してくれている。カメラが多すぎると意識しちゃいそうなものだけれど、殆どが豆粒みたいに小さいから気にならない。
"かのんちゃん有能かわいい"
"めっちゃ見やすい!"
"救様表情カメラとか最高"
"どれ見るか悩んじゃう"
"ゲームの進行だけ見たいなら手札カメラを選んで並べると良いぞ"
"うお、マジだ。選んで並べられるのか。超便利じゃん"
"かのんちゃんカメラは……?"
"増えたwww"
"米への反応はやすぎぃ!"
あはは、かのんも名前が決まってテンションが上がってるのかもね。
名前の由来はカメラを販売している会社名をもじったもの。ボクが挙げた名前の案の大半はやっぱりダメダメだったけれど、これだけは良い感じらしくて満場一致だった。
さて、ここからはコメントは非表示だ。
ちなみにボクの左隣には友2さんが、右隣には友4さんがいる。右の人からカードを取るルールなので、友4さんからカードを取って、友2さんにカードを取られる形だよ。
「ぐへへ、どーぞ」
友4さんはいつも通りの雰囲気だからまだババは持っていない。
しばらくは気軽に取れそうだね。
"救様、まったく不審に思ってないぞ"
"まだ序盤とはいえ、あそこまで疑いなく取れるのかな"
"ババ抜きなんてそんなもんじゃね?"
"そうそう、残り数枚になってからが勝負だよ"
"ババは友3さんのところかー"
"早くまわせーw"
数順回って皆の手札がそれなりに減って来た。
「ぐへへ、どーぞ」
友4さんはさっきまでと同じような雰囲気だけれど、ボクの目は誤魔化されないよ。
今は間違いなくババを持っている。
「それじゃあこれか……これね」
三枚の中から一枚選んで取ったのはハートの4。
もちろんババじゃない。
これでボクの手札は残り一枚だ。
「ぐへへ、どーぞ」
もう一周回って来てまた三枚から一枚を選ぶ。
「それじゃあこれか……」
「間違えたら負けちゃうよ?」
「本当にそれで良いのか?」
友1さんと友3さんがプレッシャーをかけようとしてくるけれど、そんなの全く意味ないよ。
「はいこれ。あ~がり」
「ちぇ~」
ボクが一番に終了だ。
大勝利。
"ちぇ~"
"ちぇ~"
"ちぇ~"
"でもドヤ顔救様はたすかる"
"REC"
「もう一回!」
「良いよ」
その後、場所を変えたりしながら何回か続けたけれど、ボクは最後の一人になることは無かった。
それどころかババを引くことも一度も無かった。
でも何回目かについにその時が来ちゃった。
最初の手札の時点でババがやってきたのだ。
これを隣の友3さんに取らせなければボクの負けだ。
「…………」
途中から怪しい感じはしていたけれど、どうやら皆は誰がババを持っているのかお互いに何らかの方法で伝え合っているみたい。だからボクがババを持っていることも友3さんにバレているようだ。カードを選ぶフリをしてボクを揺さぶって来た。
「救様、負けたら追加で感謝会ね」
「ぷぎゃっ!?」
いくら動揺させたいからって、それは酷すぎない!?
「これだ!」
ボクの動揺を見て何かを察したのか、友3さんは自信満々にカードを選び取った。
「バ、バカな!」
「あはは、ざ~んねん」
動揺をさそってボクの表情を読もうとしたのだろうけれど、甘いよ。
ボクが今までどれだけ修羅場をくぐって来たと思ってるのさ。
魔物との騙し合いに慣れたボクにとって、この程度の騙し合いなんてお遊びみたいな……あ、お遊びだった。
"救様強すぎて草"
"これだけ何度やってもぷぎゃ引かない引かせるは何かやってるだろ"
"何かやってるのは友達ーずなんだよなぁ"
"つーても、誰がババ持ってるのか目配せして教え合ってる程度だろ"
"救様はカードが何か分かってるかのようにぷぎゃ避けてるもんな"
"引く方は仮にそうだとして相手に引かせるなんて出来るのか?"
"そっちは救様を動揺させようとして罠にかけたのを逆用してる気がする"
"救様にそんな高度なプレイが出来る訳ないだろ! いい加減にしろ!"
"いや、その思い込みがアカン"
"超一流の探索者だぞ。スキル使わなくても読む方法があるんだろ"
"それじゃあ彼女達は勝てないってこと?"
"普通にやったらな"
そろそろ諦めて欲しいんだけれど、まだ続けるのかな。
「絶対に救様を負かすんだからね!」
勝ちすぎて友1さんをムキにさせちゃったかな。
両手を強く二回叩いて気合を入れている。
ボクに罰ゲームみたいなのを設定するから悪いんだよ。
本気でやるに決まってるじゃないか。
おっと、またボクのところに最初からババが来た。
今はボクの左隣は友1さんだから、彼女にこれを引かせないと。
「ふっふっふっ、今度こそソレを引かずにぷぎゃらせるよ」
「もう隠さないんだね」
「だって私達が合図し合ってるのとっくにバレてるでしょ」
「まぁね」
勝敗に関係ないから特に指摘してなかったけれど、明言しちゃうのはどうなのさ。
「これだ!」
何か変な感じがする。
もしかして友1さんにはまだ策があるのかも。
この回、友1さんは二回連続でババを引かなかった。
まだ手札の枚数は多いから変な事じゃないけれど、友1さんは確信してババを引いていない気がする。
「これだ!」
これで三回目。
この感覚は何かある。
そろそろ枚数も減って来たから何か対策を取らないと。
ボクの仕草や表情が読まれているってことは無い筈だ。
自信があるってのもそうだけれど、そもそも今の友1さんはボクの顔を見ずにカードだけを見て判断しているもん。
もしかしてカードの内容が透けて見えてる?
だとすると、どうして今までそれをやってこなかったのだろうか。
それになんとなくだけどそういう雰囲気でも無いんだよなぁ。
これまでは無かった何らかの手段で簡単にボクのババを見分けている。
そんな気がする。
でもボクにバレないようにどうやって?
友1さんも他の三人も動きは自然だ。
何かを聞いたりこっそり別の場所を見ていたり合図を出しているような雰囲気も無い。
あるとすればボクの後ろ?
「くすくす、救様どうしたの?」
「……なんでもないよ」
何も無いか。
そもそも後ろに何かあるのなら、ボクからカードを取る時に後ろを気にする筈だ。
友1さんはそういうそぶりを全く見せなかった。
前から感じてたけれど、友1さんはとても素直な人だ。
これが友3さんだったらわざと後ろを気にしたりして偽の動きでボクを撹乱しようとして来るからね。
友1さんは探索者じゃないけれど、素直すぎて向いていない気がするからそれで良いと思う。
「さぁ、救様。私の番だよ」
「……うん」
おっと他の事を考えている場合じゃなかった。
ボクの残り手札はもう二枚だ。
ここで取らせないと負けてしまう可能性が高い。
友1さんが見ているのはボクのカードだけ。
そしてボクが気付かないと言う事はカードの裏面に何かあるのだろう。
例えばボクの知らない間にマークがつけられていてそれを友1さんが読んでいるとか。
でも手札調べたけれど普通のカードっぽいんだよね。
あれ、マークがついていた?
しかも今までには無くて今回突然ついた?
ある。
一つだけ方法があるじゃないか。
試しに手札を友1さんの前に持って行く。
「ふっふっふっ、これで救様の負けだよ!」
「おっと」
「あれぇ?」
危ない危ない。
カードを取られる前に一旦引き上げた。
でもこれで確定だ。
友1さんがどんなイカサマをしているのか気付いたぞ。
きっとこのゲームの開始前に二回手を叩いたのが合図だったんだ。
その合図で
かのんは配信のためにボクの後ろから手札を覗いている。
そしてボクのババの裏面にエフェクトをつけて友1さんに教えてたんだ。
さっき友1さんに手札を見せながら全部のカメラの動向を確認したら、友1さんの後ろにいるカメラがそのエフェクトを発生させていた。かのんは配信しているだけと思い込んでいるところを逆手に取った良いイカサマだと思う。
このやり方は素直な友1さんが思いつくとは思えないから友3さんの発案かな。
まさかこの配信が始まる前にかのんと話をしてあったなんて。
流石にこのイカサマは看過できない。
とはいえ素直にイカサマだって伝えて終わるのはつまらないから、ボクもそれなりの手段で対抗しようじゃないか。
「はい、今度こそどうぞ。もう下げないよ」
「やっと観念したんだね」
ふふふ、それはどうかな。
友1さんは勝利を確信しているのか、楽し気にカードを取る振りをしてボクを揶揄おうとしている。
「よし、これに決めた!」
そして勢いよく一枚のカードを選んで手に取った。
「やった、これで私達の勝……え!?」
「残念だったね~」
「ど、どうして!?」
「あははは」
さぁどうしてだろうね。
ババが手元から無くなってしまえばボクの負けはもうない。
その後はあっさりとあがって負けは逃れた。
「く~や~し~い~!」
「全く、かのんを仲間にするなんて酷いや」
「え゛」
"救様が見破った!"
"なんで分かったんだ!?"
"絶対分からないと思ったのに"
"あそこでかのんちゃんのことを普通思い出せるか?"
"疑うにしてもせめて配信をチラ見してるかくらいだろ"
"というかそれより最後のどうしてぷぎゃ引いちゃったんだ?"
"友1ちゃん間違いなくぷぎゃじゃない方を掴んでたよな"
"いや、友1ちゃんが掴む寸前に左右のカードが入れ替わってた"
"はぁ!?!?"
"全く見えなかったぞ!?"
"入れ替えてるところは見えなかった。気付いたら入れ替わってた"
"友1ちゃんが勢いよく取ったから分かりにくいけれど、マジだぜ"
"いやいやいやいや……マジ?"
"それってスキルじゃないのか?"
"救様がルールを破るとは思えない"
"素の身体能力だけでやってるってか……そんな馬鹿な"
"自由に取らせられるって絶対ぷぎゃ抜きじゃ勝てないじゃん!"
"今まで手を抜いてくれてたのか……"
皆となるべく同じ条件で心理戦だけで戦おうと思ったけれど、イカサマやってきたならしょうがないよね。
「かのんったら酷いよ」
わぁすごい。
カメラの動きだけで項垂れている感じが良く分かるや。
「今度はボクの味方もしてよね」
楽しかったし別に怒って無いので、優しく撫でてあげたら喜んで頬擦りしてきた。甘いかな。
「くぅ~次! 次のゲームやろう!」
「なんでも来いだよ。って言いたいけれど、これだけ勝ったんだから、もうボクが負けたらこれ販売する条件止めてよね」
「え~」
「だ~め」
「ちぇっ」
いつもボクは配信の度に動揺させられてるんだから、偶にはこうして気分よく進められても良いじゃないか。
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