#10 犯人
建物の中に入り、地下へ降る階段に足を踏み入れて、微かに感じるものがあった。
ターゲット(仮)が都内某所のこのビルで開催される『ヒーロー社会における平和を考えるシンポジウム』に、サプライズゲストとして呼ばれて登壇する予定いるらしい、というのは
……と言うのはほとんど言い訳だが、ここに来るまでの移動の間、念のため何人かに連絡を入れていた。
「……いるな」
階段を降り、扉を開けて、広い地下駐車場に着いて、自身の背中に電撃が走るような直感を感じた。
俺はただ、自分が思うままに歩を進めた。ふと携帯端末を開く。圏外だ。ここから先、首尾よく行動する他ない。
俺は心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。ただの直感。ただの妄想。しかし、それは俺にとってはもはや真実だ。
俺のような殺し屋が重宝されるのは、一重にこの直感のためだけだ。
手から毒を噴出したり、身体の一部を爆弾に変えてしまったり、普通の人間ならまず当たらないような遠くからでも対象を仕留める鷹の目を持っていたり、この業界、強さと能力で言えば俺以上の同業者は沢山いる。むしろ俺など、身体は普通の人間仕様なのであり、強さだけで言えば下の下もいいところだ。
それを若い自分はわかっていなかったわけだが。
「あれか」
強く直感を感じる場所があった。
駐車場の角に止めてある乗用車、あそこから強く自分の求めているものがあるという直感がある。
ここが暗い駐車場というのに加え、中は濃いスモークガラスで外からはよく見えない
俺は車の前まで歩いて行き、コンコンと窓を叩いた。
地下駐車場にエンジン音が響き渡り、運転席側の窓が開く。
間違いなかった。
稲妻が頭から落ちてきたかと錯覚するほどの衝撃が脳から足元を貫く。
俺の求めているターゲットがこの男なのだと俺の
「……こうなってしまって、何人か用心しなければいけない相手は考えていた」
運転席に座る男は、静かに俺の方を向き言った。
「千里眼の能力者、ザ・クヴォイが死んでからもう何年もそういうタイプのヒーローもヴィランも現れていない」
チャキ、と金属音が聞こえた。
「だから、私を見つけ出すのならマナヒコ、お前あたりだろうとは思っていた」
「だから事件のほとぼりが冷めるまで行方をくらまそうとしたと」
「くらませる、まではいかない。ただ、姿を隠し通せることができれば、とは思っていた」
当然、というか俺の直感には限界がある。
自分の追う事象から年月が経てば経つほど、その真実を直感する感度が鈍るのだ。
ウルフレディも『調査はできるだけ早い方がお前の能力にとって都合が良い』と言っていたのも、あまりに時間が経ちすぎると、テキーラ・ウルフを殺したターゲットに対する直感を、俺が失ってしまうからだ。
車の中で、男がもぞもぞと動いた。
俺は後退り、その場から飛び退く。
次の瞬間、車が真ん中から縦に真っ二つに斬れた。
「私を殺すんだろう。お前はそういう男だ。受けた依頼からは逃げない。そこにお前なりの信念がある、と私は思っている」
剣道の防具のような真紅のヒーロースーツを着た彼は、俺に向かい、刀を伸ばした。
俺の前にいたその男は、日本が誇るトップヒーロー。誰もが憧れる、ヒーローの中のヒーロー。
当然殺しなんてしない。ヴィランの暗殺なんて聞いたこともない。
冷や汗が頬を伝わるのを感じた。
「俺はこんな身の上だが、あんたを尊敬してたんだぜ、紅ヤマト」
日本のトップヒーロー、紅ヤマト。
奴がテキーラ・ウルフを密かに殺した、下手人だ。
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