#2 喪主直々

 スーパーパワー、超能力、異能、超常……。


 呼び方は何でもいいが、そういった常人の力を超えた存在。

 それらの力が観測され、世間に認知され、そして常識となってもう半世紀は経つ。

 

 超人達が自らの力を世の中に役立てる、コミックのようなスーパーヒーローは当然と言っていいのか、まずは米国に現れた。

 それに追随するように、日本にもヒーローが乱立するようになり、現代では警察等公機関ともにヒーロー達が事件・事故の解決にあたるのは至極当然のことになっている。

 俺自身も、ヒーローが当たり前になった世代の人間だから、それ以前のことは歴史の授業くらいでしか知らないが、現代のような社会秩序が形作られるまでに紆余曲折あったというのは学んでいる。

 俺は着替えた喪服を整えながら、朝からつけっぱなしのテレビを見る。朝の報道番組は大抵がヒーローの活躍についての報道だ。


「何かあればすぐにでも我々をお呼びください。いつでもどこでも、助けを求める者がいるのなら、我々はすぐに駆けつけます」

 昨日も何やら新宿付近で大捕物があったらしい。インタビューを受けているのは紅ヤマト。日本ヒーロー黎明期から活躍するベテランヒーローだ。剣道の防具のような真紅のヒーロースーツを来た紅ヤマトは、弱きを助け強きを挫く、由緒正しいヒーローとして根強い人気がある。後進の育成の為にヒーローコミュニティも作り、必要な現場に必要なヒーローを派遣するNGO非政府組織も立ち上げている、誰しもが憧れるヒーローだ。

 俺がヒーローコミュニティへの籍を一応置いたままにしているのも彼の働きかけがあるからでもある。

 事件報道が終わり、番組スタジオが映されるのとほぼ同時に、ニュース速報の音が流した。

「お、流石に流れたか」

 テレビの画面上に速報のニューステロップが流れていく。


 広域指定暴力団銀狼組組長が死去。


「死んだのはだいぶ前だがな」

 俺は思わず独りごちた。今日葬式をするというのも孫娘であるウルフレディが徹底的に情報統制を敷いて隠していた筈だが、流石に式当日となるとマスコミも飛びついてきたか。いや、飛びつかせたのかもわからんが。


 コンコン。


 次いで、アジトの扉をノックする音が聞こえた。

「開いてるよ」

 俺は扉の方に向けて大きく声を張り上げた。

 もう少しスーツを整えたい気もあったが、迎えが来たのであれば仕方がない。

「入るぞ」

 キイとけたたましい金属音と共に扉が開けられる。それを聞いて、訪問者は眉をひそめた。

「おい、立て付けが悪すぎるぞ」

「もう随分と直しちゃいねえよ。人が来ることなんざほとんどねえしな。ここ数日でも情報屋とあんたの2人しか来てねえ」

 迎えに来たのはウルフレディだった。しっかりと喪服を着込み、いっぱしの貴婦人レディに見えるもんだから思わず口笛を吹いた。いつもは特徴的なメッシュのある頭髪も、黒く染め上げている。

 喪主直々のお迎えとは。

「てっきり下っ端に迎えにこさせるものかと思ったが」

「本来なら当然そうする。だが今回は積もる話もあるからな。今日は運転手すら連れてきていない」

「……それは流石にやばくねーか?」

 テキーラ・ウルフが死んで、銀狼組の跡目もまだ決まっていないと聞く。そんな中ひとりになるのは馬鹿すぎる。

「近くにはいない、というだけだ。私たちが車に乗り込めば、四方にボディーガードが乗っている車が付く」

「なるほどね。しかし俺が嫌だな。あんたが俺のもとにひとりで来たって情報がどっかに飛べば、ひょんなところから『ウルフレディはあのマナヒコを次の跡目にしようとしている』なんて根も葉もない噂をたてられるかもしれねえだろ」

「心配するな。箝口令は葬式同様パッチリと敷いてある。千里眼持ちの能力者ウォッチャーに通用するほどではないが、我が組の情報網では、そこまで警戒すべき能力持ちも今は存在していない。ザ・クヴォイが生きていれば驚異だったがな。そもそも奴のような能力者が健在であればお前のような男に時間を割かずに済んだんだ」

「おうおうおう、こちとら事情もわからねえってのに随分と罵倒されたもんだな。なんだ、その口ぶりじゃあやっぱり……」

「その話の続きは車の中でだ」

 ウルフレディは俺を手招きした。貴婦人の誘いとあっちゃ仕方ない。

「仕事の話になるんだろ? 俺も道すがら、しっかりと交渉させてもらうよ」

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