第4話

「おい、岡野大丈夫か?」

 肩を叩かれ、我に返る。気がつけばそこは会社の地下階だった。目の前の狭い倉庫内には段ボールが積み上げられていた。浩平はのろのろと立ち上がった。営業部の2つ上の先輩が浩平を怪訝そうな顔で見つめている。


「し、失礼します」

 よろめきながら階段を駆け上がった。

「おい、お前機密片付けろよ」

 先輩の怒鳴り声が聞こえたけど、振り返りたくなかった。浩平はそのままカバンを掴んで会社を飛び出した。


「一体なんなんだよ」

 どうやってアパートに帰ったか記憶が飛んでいる。ツースのままベッドに潜り込み、ふとんを頭までかぶって震えていた。不意にカバンの中のスマートフォンが振動した。メッセージが届いたようだ。ふとんから手を出して画面を確認する。秀也だった。


-この間のトンネル、ガチでやばい

 オカルトオタクの秀也はあれからいろいろ調べているようだ。秀也なら何か知っているかもしれない。浩平はスマートフォンに手を伸ばし、これから会えないか打診した。

 秀也はこれから近所の喫茶店で会おうと言ってくれた。浩平はスーツを脱ぎ捨て、シャツとジーパンに着替え、財布とスマートフォンをポケットに突っ込んでアパートを出る。


「で、3回目が」

 神妙な顔で話す浩平の話を秀也は聞き入っている。

「トイレの扉を開けたらあのトンネルが広がっているんだ」

 情けない顔の浩平を秀也は気の毒そうに見つめる。


「トンネルの怪談てさ、車で通り抜けたら血の手形がついてたり車の同乗者が一人多かったりするなんて話よくあるけど、これは新パターンだな」

 秀也は何か思いついたように浩平を指差した。

「お前はトンネルをつれてきたんだ」

 浩平は秀也の言っていることが分からずに目を細めた。


「意味わからん」

「トンネルがお前についてきたんだよ。幽霊みたいに。あのトンネル、黄泉比良坂の伝説があるガチな場所なんだ」

「よもつ・・・何」

 浩平は聞き慣れない言葉に首を傾げる。

「黄泉の国へ通じる道だよ。黄泉の国、まああの世ってことだな」


 いつもの秀也のオカルト話なら笑い飛ばしていた。しかし、今は自分に何かが起きている。

「何で俺のところにトンネルが現れるんだ、一体どんな意味があるんだよ」

「トンネルに魅入られたのかもしれない。俺のところには何も起きてない。多分亮もだろ。あのメッセージ送ったら車に傷が入って塗装しなおしてるよバカヤローって返事きた」


「なあ秀、俺どうすればいい」

 浩平は悲壮な表情を浮かべる。

 秀也は始終まじめに考えてくれていたが、何も結論が出ないままその日は別れた。あの世への道の話を聞いてしまい、余計に不安になってしまった。

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