冒険者昇級試験 (1)

 オレ達は冒険者試験に行くことになった。

 試験会場は王都とロレーヌ。

 一番行きやすくて近いのはロレーヌだ。


 ヴィクト地方から北西の方角にあるロレーヌ。

 一ヶ月近くも馬車を走らせて、ようやく大都市の城壁が見えてきた。

 巨大な城門と巨大な四角い塔が遠目に見える。

「おお! 門がでっか」

「ホントね!」


 オレとシャルは、初めて見る巨大な城門に驚いた。

 石造りの四角い塔には衛兵もいる。

 門の前にも人の列が。少し待とう。

「冒険者試験を受けに来ました。入っていい?」

「待て! 身分を確認する」


 王国軍の衛兵に冒険者手帳を見せる。

「なんだ? 田舎から来たガキか」

「ガキでも青銅級冒険者です」

「小銀貨2枚だ。町で暴れたら追放するからな」



 衛兵に通行料を払って、大都市に入る。

 ロレーヌには地下に迷宮があると聞いた。

 全部、レジアスに聞いたことだけどね。

「まずは冒険者協会に行くぞ」

「冒険者協会?」

「冒険者の酒場を統括とうかつする大元ですよ」


 冒険者協会は二階建ての屋敷にあった。

 まるで異世界アニメに出てくるギルドのよう。

 建物の外観はそんな感じだ。

「じゃあ、レジアス行ってくるよ」

「一つだけ言い忘れた。死ぬなよ」

「そんな弱くないよ」



 冒険者協会に入ると、男どもの視線がキツイ。

 剣士や盗賊、エルフやドワーフまでがいる。

「あいつら成人前だ。カモがネギ背負ってるぜ」

「あんちゃん、15歳じゃないな。ミルクでも飲むか?」


 盗賊が話しかけてきたが無視する。

 ふざけた問いに答えてもバカにされるだけ。

 シャルも目を背けて顔を向けない。

「シャル。ほっといて行こう」

「うん」


 この異世界では十五歳を迎えた人間が冒険者になることが多い。

 十五歳未満の冒険者は何らかの訳ありだ。

 故郷が滅びた、家族がいないなどの理由がある。


 前に見覚えがある冒険者がいた。

 黒髪で、黒目の背の低い男だ。

「お前リュカか? なんでここに」

「カイトじゃないか。試験を受けるのか?」

「顔見知りがいて助かった。俺と試験を受けてくれ」

「ちょうど一人足りなかったんだ。いいよ」


 カイトはアルトゥスさんの教え子だ。

 一緒に剣術修行を仲だから気が知れてる。

 それに剣士としての腕も向こうが上だ。

 北星流中級の認定を受けているし。



 冒険者協会の受付嬢が壇上だんじょうに上がった。

「三人一組に並びましたか!」

「ハーイ」と誰かか返事した。


 受付嬢は紙を指さして、話を始めた。

「それでは昇級試験の説明をします。石版を二つ取ってきてもらいます。早い者勝ちです。何をしても構いませんよ」


 何をしても構いませんよという言い方。

 その言い方が少し引っかかる。

 他の冒険者に妨害されるのだろうか。


 昇級試験に合格するには石版を二つ集める必要がある。

 期限は三日以内。夕暮れまでに中央の塔に行けばいい。

 失格条件はパーティメンバーが一人でも抜けること。


 説明が終わると、パーティ内で自己紹介が始まった。

「カイト、オレは魔法が少しだけ使える。前衛は任せるよ」

「問題なし。俺が突っ込むから」


 シャルとカイトは初対面だろう。

 初めて会う人とうまく連携できるか不安だ。

「ボクが魔法で援護するから」

「わかった。後ろから援護してくれ」


 転移陣が光ると森の前にいた。

 転移陣、そんな高度な魔法がこの異世界にあったのか。


 中年のおっさんが試験官のリーダーらしい。

「試験内容を説明しよう。今回、昇級試験を受けるのは五十四人。手段は問わない。二つの石版を集めろ。中央の塔にいる試験官に石版を渡せば合格だ」


 石版は前にあるテントで渡すらしい。

 それも三人一組ずつに分けて。

 誰が石版を持っているか、わからないようにするためか。


 おっさん試験官に呼ばれてテントに入る。

 オレが目配せするとシャルは首を振った。

 自分は受け取りたくないのかよ。

 石版はオレが受け取って腰のカバンに入れた。


 試験官の案内でゲートに行く。

 ゲートの前に陣取った試験官の手には水晶玉が握られていた。

 水晶玉は通信手段に使われるのだろうか。


 おっさん試験官の声が水晶玉から聞こえた。

「石版は配り終えた。今から試験を始める! 」

 

  ☆


 周りにつられてオレ達も森に入る。

 これは石版をめぐる争奪戦だ。

 他の参加者よりも早く石版を手に入れる必要がある。

「速く歩こう」

「行くぞ。リュカ」


 森の中で水と食料を確保する必要がある。

 しばらく歩くと小川があった。

 幸いなことに周囲には誰もいない。

「ちょっと待って。水をくもう」

「わかったよ。リュカ」とカイト。


 オレは小さな革袋に水を満たし、飲み干す。

 飲み水の確保も必要だからな。

「3人とも水は補給したね」

「バッチリよ」

「問題ない」


 試験会場は森におおわれていた。

 木が鬱蒼うっそうしげる。

 空には白い鳥が羽ばたき、地上の獲物を狙っている。

「あれはヤバい。狙われてる」

「襲われたら食われるな。リュカ」


 カイトは上空を見て警戒しながら前に進む。

 シャルは杖をぎゅっと握っていた。

 あの様子だと緊張きんちょうしているな。


 午後に森の中で角ウサギを捕まえた。

 これでシチューでも作ろうか。

「今日はシチューにしよう。肉だけの」

「やったー」とシャルが喜ぶ。


 もうすぐ日が暮れそうだ。

 なかなか良さげな木のほら穴を見つけた。

「今日はここで休もう」

「ボクは賛成。夜は危ないし」

「仕方ねぇな。明日は朝から動くぞ」








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