異世界でもう一度、人生をやり直す

一ノ瀬ミナト

幼少期

 異世界で始まる新しい人生

 異世界で経験したことを紙につづろう。

 オレは三歳のとき、地面に頭を打った。

 それを見て父は笑い、母はなぐさめてくれた。

「リュカ! どんくさいぞ」

「あらあら。治癒魔法で直しましょう」


 頭を打った衝撃で、自分に前世があることを思い出した。

 オレは東京の浅草で生まれ育った高校生だった。

 そして山の手線に乗っている時、通り魔に刺されて死んだ。

 まだ、人生これからだったのに。


 異世界ではリュカ・フィリップと呼ばれている。

 三年前から、それがオレの新しい名前らしい。

 リュカって、ゲームの主人公と同じ名前かよ。

 見た目も髪色も全然違うし。



 今日も朝から顔を洗った。

 ふと、水面に浮かぶ自分の顔を見て思った。

 見た目はヨーロッパに住む白人みたい。

 目鼻立ちは整っているが、これといった特徴はない。

 特徴と言ったら髪が黒で、目が緑色なことかな。

 

 異世界での父がオレを呼ぶ声がする。

 ガラガラでしゃがれた特徴的な声だ。

 父の見た目はパソコンゲームの鬼畜戦士みたいだけど。

 性格もナルシストだからそっくりだよ。

「リュカ、探したぞ。俺様の許可なく家を出るな」

「すみません。父さま」

「家に帰るぞ」


 

 日本とは違うに三年間いて、わかったことがある。

 わかったのは、この世界は中世ヨーロッパみたいな所だってこと。

 家に電気も水道もなく、風呂もないんだぜ。

 オレの大好きなインターネットもないんだ。

 


 父親のアルスは四十代と少し老けている。

 ノワール村での仕事は駐在騎士らしい。

 任務がない日は庭で剣を振り回している。

 父は常にこしから剣をぶら下げていた。

 ベットの上以外はね。


 母親のルイーズは魔法使いらしい。

 オレの目の前で魔法を使っていたのが証拠だ。

 確信を得たのは二歳の時だ。

 自分をおぶって、村の侵入者に火の魔法を使っていた。

 恐ろしい世界だ。平和な日本が恋しいよ。



 つまりだろう。

 みんながあこがれる"剣と魔法のファンタジー"世界なのか? 

 よくわからないなら、そういうことにしておこう。


 そうと決まればやることは一つ。

 幼い頃から剣と魔法を訓練して、強くなろう。

 チートとか、強いスキルがなくても努力すれば強くなれるはず。


 俺はルイーズに頼むことにした。

 長い時間勉強できるのは子どもだけの特権だ

「母さま、ボクに簡単な魔法を教えてください」

「まぁ、文字を覚えたばかりなのに。さすが私の子どもね」



 母が『フランマ』とささやくと、魔石から炎が出た。

 母が使う小さい杖は先端に赤い魔石がはめ込まれていた。 

 まるでイギリスの児童文学に登場する杖みたいだ。

「練習すれば誰でも魔法を使えるようになるわ」 

「母さま。誰でも魔法を使えるの?」

「使えない人はいないわ。人はみんな魔力を持っているから」


 魔法ってかっちょええ、自分も使えるようになりたい。

 魔法が使えたらどれだけ良いだろうか。



 オレは母さんを質問攻めにした。

 この世界の情報は少しでも手に入れたい。

 今後の計画に役立てたいから。

「なんで! 魔法を使うときに杖が必要なの?」

「人間が持つ魔力を増やすために使うの」

「うーん」 


 母さんは言葉をつまらせた。

「リュカには難しいと思うけど、杖は魔力の増幅装置になるの」

「父さまは、ボクも剣士にしたいって言ってました」

「リュカなら魔剣士になれるかな」


 魔剣士、なんてカッコいい響きだ。

 異世界でも新しい目標ができた。

「母さま、自分にも魔法が使えますか?」

「私の子どもならできるわ」

「今から使います」



 母が言った呪文をマネすると、手から小さな炎が出た。

 ファイヤーボールにもならない小ささだ。

「すごいじゃない! 三歳が初級魔法を使えたのよ」

「あれっ、炎が小さいのに」

「三歳から使えたら才能があるわ」


 ルイーズはボクの頭をポンとでた。

 母はやさしい人だ。

 やっぱり、親にめられるとうれしい。


 ライターほどの小さな炎しか出せなかったのに。

 ルイーズは息子をほめて育ててくれる。

 これがあたたかい家族のあり方なんだ。


 とりあえず、オレは魔法が使えるようだ。

 異世界でも落ちこぼれにはなりたくない。

 この体は魔法が使えるようで、ひとまず安心した。


 父のアルスが庭まで呼びに来た。

 よりによって、手のひらから炎を出している時に。

 父はオレの行動をあやしみながらたずねてきた。

「リュカ、何してるんだ? 頭を打ってからお前は変わったな」

「魔法の訓練です」

「わざわざ俺様が呼びに来てやったのに」


 ついにバレちゃったぜ。父にも魔法が使えることが。

「おいおい、ルイーズ。息子は剣士にする予定だったよな」

「はい。でもリュカには魔法の才能が……」 

「おっ、魔法が使えたのか。魔法剣士になれよ」


 父からもめられた。褒められると嬉しくなる。

 父はオレを剣士にしたい様子だが、魔法も練習させてほしいよ。



 異世界の家族は温かみがあって良い感じだ。

 父はぶっきらぼうだが面倒見はいい。

 母は優しいが少し抜けている。

 良い家族になれそうだ。一人っ子だし。



 俺の人生は最初からやり直しだ。

 次は後悔こうかいしない人生を送る。

 異世界で強くなって、モテモテになるぞ。

 結婚して子どもを作って、孫に囲まれたまま人生の終わりをむかえたい。


(続く)






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る