第71話 ルードの迷宮

 おかげさまで、10万PVを達成しました。読んでいただいた皆さん、ありがとうございます。

 最初の頃は、というか第1章が終わるあたりまでは、1日に二桁くらいのPVしかなかったのを思うと夢のようです。

 現在、4章まではだいたい書き終えていますので、もうしばらくは毎日更新ができそうです。これからもよろしくお願いします。


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 ジャイアントバットの魔石の回収を終えると、ぼくたちは迷宮の奥へと進んだ。


 もちろん、ライトの魔法は発動したままだ。携帯用の灯りの魔道具は、ぼくもリーネも持ってはいるけど、燃料の魔石がもったいない。それに、魔法の訓練にもなるし。

 しばらく進むと、次に出てきたのはゴブリンだった。こちらは肌の色も黒ずんで、いかにも迷宮の魔物、という感じだ。こういった、迷宮になじんで特徴が変わってしまった魔物は、名前の頭に「ダンジョン」をつけて呼ばれる。ゴブリンなら、「ダンジョンゴブリン」。

 元の魔物と、種として違うものになっているのかというと微妙らしいけれど、魔物の強さや取れる魔石が違うのなら、名前も違っている方が便利なんだろう。

 初めての迷宮産魔物との一戦だったので、ぼくは慎重に戦った……んだけれど、やっぱりゴブリンはゴブリンだった。特に苦戦することもなく、六匹の群れを倒すことができた。


「うーん、普通のゴブリンよりも、少し手強いくらい、かな?」

「そうですね。力もスピードも、ゴブリンよりは上です。ですが、この程度なら問題はありませんね」


 ゴブリンの死体から回収した魔石は、やはり普通のゴブリンよりも一回り大きく、色合いも濃いものになっていた。

 あ、魔法の実戦練習するの、忘れてた。まあ、次があるか。


 さらに先を進むと、道が二つに分かれていた。リーネがギルドで買った地図を取り出して、


「左の道は、『小部屋』につながっているようですね」

「小部屋って?」

「迷宮の中にある、かなりの広さがある空間のことです。ドアなどがあるわけではないのですが、一般に小部屋と呼ばれています。何らかの魔物の巣になっていることが多いですね」


 ただし、魔物の勢力範囲は頻繁に変動するので、小部屋に住む魔物も変わってくるそうだ。そのためか、ギルドの地図には魔物の名前までは書かれていなかった。


「さっきゴブリンの群れに会ったくらいだから、あるとすれば、ゴブリンの巣なのかな」

「おそらく、そうだと思います」

「じゃあ、この小部屋は無視することにしようか。ゴブリンを大量に狩っても、あんまりうれしくないから」


 ぼくたちは右の道を選ぶことにした。

 しばらく進むと、またゴブリンに出くわした。今度の群れは五匹で、ぼくが魔法を試すまでもなく、リーネが一人だけで瞬殺してしまった。サクッと魔石を回収し、先へ進む。するとその直後、ぼくたちの背後から、いくつかの足音が響いてきた。


「またゴブリンか」


 少しうんざりしながら振り返ると、予想どおり、数匹のゴブリンが早足で迫ってきていた。ぼくは剣を抜こうとしたが、どういうわけか、リーネがそれを止めた。


「お待ちください、ユージ様」


 そこで、立ち止まったまま様子を見ていると、新手のゴブリンはさっき倒したゴブリンの死体のところで、足を止めた。そしてその死体を担ぎ上げ、ぼくらの方には見向きもせずに、もと来た道を引き返していった。


「なんだ、あれ? 仲間の死体を持っていって。埋葬でもするつもりなのかな」

「まさか。あの手の魔物は、そんなことはしませんよ。あれは仲間の弔いではなく、食料の回収です」

「え?」

「食べるんです。迷宮の中は、慢性的な食糧不足ですからね。同族の死体も、貴重な食料なんでしょう」


 そういえば、死体を持ち去る際に、ちぎれた手を口にくわえていたやつがいたっけ。考えてみれば、魔物ではなく普通の生物だって、同じことをする種類は珍しくはないだろう。でも、ヒト型の生き物がそれをすると聞くと、やっぱりちょっと、気持ち悪く感じるところはあるな。


「なんていうか、やることが魔物だよな」

「ですが、こうしてどんどん先に進めるのは、この習性のおかげでもあるんです。死体を後ろに残しておけば、背後から来る敵は、死体の場所で引き返してくれます。そうなれば、前後から挟み撃ちされる危険性が減る、というわけです」


 なるほど。考えてみれば、小部屋の魔物を放置して進んでいるんだから、挟み撃ちされてもおかしくはなかった。それを防ぐためにも、死体は全部回収せずに、残しておいた方がいいのか。でも、危険性が減ると言うだけで、ゼロになるわけではない。ぼくは探知をオンにしたまま、さらに先へ進んだ。


 次の小部屋もゴブリンっぽかったので通り過ぎると、今度はやっと、別の魔物に出くわした。子供くらいの背丈に、犬そっくりの大きな顔を乗せた魔物。コボルトだ。皮膚の色が黒ずんで、遠目にも魔素の影響を受けているのがわかる。ダンジョンコボルト六匹の群れに反応して、またもやリーネが飛び出そうとしたので、今度はぼくが、彼女を押しとどめた。


「ちょっと待った。魔法での攻撃を試させてくれ」


 リーネは無言でうなずき、立ち位置をずらして、ぼくの前のスペースを空けた。コボルトが近づいてきて、魔法の射程に入ったところで、ぼくは呪文を唱えた。


「《ファイアーボール》!」


 直径三十センチほどの火の玉が空中に出現し、かなりの速度で敵に向かっていく。狙い違わず、一匹のコボルトの顔に命中し、魔物は手で顔をかきむしりながら倒れた。


「まだまだ。《ファイアーボール》! 《ファイアーボール》! 《ファイアーボール》!」


 ぼくは魔法を連射した。詠唱にあわせて、三つの火球が立て続けに発射され、どれも見事に的に命中した。


「残り二匹か。《ファイアーボール……ファイアーボール》!」


 今度は呪文を重ねるように詠唱して、二つの火球を中空に浮かべた。そして呪文の終了と共に、同時に発射する。さすがに照準が甘くなって、一発は相手の胸、もう一発は太腿あたりに当たった。二匹は死にはしなかったものの、どちらも前のめりに倒れ込んだ。


「念のため、もう一発。《サンダーボール》!」


 今度は雷系統の攻撃魔法を発射した。呪文と共に、強い輝きを放つ光の球のようなものが出現し、コボルト目がけて直進する。目的に命中した光の球は、瞬間的に大きな輝きを放って、すぐに消滅した。

 魔法が終わり、光が消えると共に、周囲は真っ暗になった。


「ライト」


 ぼくは生活魔法のライトをかけ直した。灯りが戻ると、ぼくたちの前の通路には、六匹のダンジョンコボルトがうなり声を上げながら倒れていた。


「さすがはご主人様です。ファイアーボールを二つ同時に発動、というのは初めて見ました。魔法が飛んでいくスピードも、速かったです」


 倒れた魔物にとどめをさしながら、リーネが話しかけてきた。


「ありがとう。だけど、威力はそれほどでもないな。一発ではコボルトを倒しきれないくらいだし。サンダーボールも、見た目は派手だけどなあ。即死とまではいかなくても、相手が麻痺くらいはするかと思ったんだけど、まだ動いてるもんな。

 まあ、遠くからの初撃や、牽制には使えそうかな」


 魔法の威力はこの程度だった。どうやら、ぼくの魔法スキルのレベルは、そこまで高くはないらしい。



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