第3話 オーク、お手!
「特別に≪Give You≫も見せちゃうぞ♡」
もえきゅん☆は目を閉じた後、人差し指を自分の唇に押し当てる。
「≪Give You≫ skill ≪Love Heart≫」
囁くようにスキルを発動。
人差し指に青白い光が灯る。光った人差し指を唇から離すと、そのままわたしのおでこに押しつけてきた。
指がおでこに触れた瞬間、青白い光がパンとはじけて消えてしまった。
「どうかな♡」
どう、でしょう。
スキルの付与が成功したのか、いまいちわからない……。
「ん~使ってみないとわからないかな?」
スキルを使う……相手を奴隷にするスキルを⁉
「手ごろな相手は~、ここボス部屋だしいない、かな。上の階にでも移動しよっか♡」
もえきゅん☆に手を引かれて、小走りに階を上がる。
1つ上の通常階層に上がると、オークがたくさんうろついていた。急に襲ってきたりしないのは、オークロード討伐の証を持っているから。証があると一定時間同種族はノンアクティブになるのだ。
プレイヤーは……いないか。まあ、ド深夜だし、人はいないよね。
「さあ、思う存分≪Love Heart≫を試してみるんだぞ♡」
もえきゅん☆がオークを指して言う。
「うそ、でしょ……。モンスターにも効くんですか?」
「もちろんよ♡」
それって、テイム系のスキルとして超優秀……はっ!
「オークを奴隷にしたら、夢のあのセリフが!」
もう夢が叶っちゃうの⁉
「スパチャもしないでもアクアに話かけるなんて、子分のオークに襲わせるわよ♡」
もえきゅん☆……先に言わないで。
なんかちょっと、もえきゅん☆バージョンだとイメージが違う……。高貴なアクア様というより、プリティになってる分逆に猟奇的かも?
「さ、さっそく試してみ、るわね!」
えっと、手で鉄砲の形を作ってー。
「≪Love Heart≫」
あれ、発動しない? スキル付与失敗してるのかな?
「バキューン♡」
もえきゅん☆が言う。
「あ、え? そこまでがスキル発動のトリガー⁉」
「もちろんだぞ♡」
な、なるほど……。さすがもえきゅん☆。
じゃあもう一度。
「≪Love Heart≫バキューン」
発動しない。なんでなのー⁉
「≪Love Heart≫バキューン♡」
もえきゅん☆の指先からピンクのハートが。だからわたしに向かって気軽に≪Love Heart≫撃たないで……。
ええい、今度こそ!
「ら……≪Love Heart≫バキューンッ♡」
わたしの指先からピンクのハートが飛び出し、1体のオークに命中した♡
「出た!」
「おめでと。成功ね♡」
「ありがとうございます! すごい、本当にスキル付与されてるんだ!」
指から立ち上るピンクの煙を息で吹き消してみた。
ふっ、我ながらかっこいいぜ。
「あれ、オークは奴隷になったんじゃ?」
「モンスターの場合は何か命令してあげないと、効果が切れてそのうちどっか行っちゃうの」
「なるほど、アクアの子分のオークー! こっちにきなさいっ!」
大声で叫んでみる。
と、1体のオークがこちらへ向かって走ってきた。
敵⁉
一応双剣に手をかけ、警戒態勢を取る。
しかし、走り寄ってきたオークは、わたしに攻撃することなく、片膝をついて礼の姿勢を取ったのだった。
「ほ、ほんとにテイムできてる……」
「もえきゅん☆はうそなんてつかないぞ♡ 何か命令してみてね」
何か……何か? そうだ。
「オーク、お手!」
ガウッ。
オークは、喉の奥から鳴き声とも唸り声とも判別がつかない音を発し、わたしの手のひらに握りこぶしをそっと乗せてきた。やさしい置き方!
「成功ですっ!」
感動……わたしにオークの子分ができる日が来るなんて!
アクア様、ありがとうございます!
「うれし泣きしているところ悪いんだけど、そろそろオークは解放してあげてね♡」
「え、このまま連れて帰っちゃダメなんですか……」
「残念だけどそれは無理かな♡≪Love Heart≫は子分じゃなくて奴隷だから、モンスター相手だと縛っている間は精神抵抗の苦しみを与えることになるんだぞ♡ 適当なところで解放してあげるのがやさしさかな♡」
「≪Summon The Orcs≫とは根本的に違うものなんですね……。オーク、あなたを解放します。元気に生きるのよ……」
オークは仲間の元へと帰っていく。
ガウッ。
遠くでオークがわたしに挨拶をした、ような気がした。
「モエのスキルは理解してもらえたかな?」
「は、はい! 十分すぎるほどに! ありがとうございまする」
「≪ミッカ≫それやめなさいね。私はもえきゅん☆であなたがアクア様なのよ」
な、慣れない。
がんばります……。
「じゃあ今日は遅いから、そろそろ解散しましょう。明日からビシバシしごいちゃうから、覚悟するんだぞ♡」
「わ、わかったわ! もえきゅん☆もこのアクア様にしっかりとついてくるのよっ!」
「いいわよ~。ステキ。メッセ交換しましょ」
そう言ってもえきゅん☆が、腕の端末を操作する。わたしも同じように操作し、連絡先の交換。
アクア様……もえきゅん☆の個人アドレスを手に入れて……やっぱりこれって夢?
「もうそれはいいから。自分を殴るのはやめなさいね?」
もえきゅん☆がわたしの行動を先読みして苦笑していた。
はずかしっ。
「では地上へ戻りましょうか。わたし、近道を知っているので教えますね」
毎日通っているから、正規のルート以外の帰り方を知っているのだ。
ドヤれるぞー。
「モエのスキルで連れて帰ってあげるから、もっと近くに寄ってね♡」
転移スキルまで……わたしの出番なし。しゅん。
「≪Return to≫ the surface.」
もえきゅん☆の周りに青い魔法陣が浮かび上がる。
おお、これは……高額すぎて一般冒険者には手が出ない≪蝶の羽≫と同じ効果っぽい。きっとスキル詠唱の感じからして、あらかじめ設定しておいた場所に転移できるんだ。
ふっ、と視界が暗くなり、まばたきするとそこはダンジョン近くの公園の砂場の中だった。
「はい、ただいま♡」
おーすごい! ホントに地上だー!
「もえきゅん☆ありがとう!」
「どういたしまして、だぞ♡」
もえきゅん☆は腰に手を当てて、わっはっはと豪快に笑った。
高レベル冒険者ってすごいなあ。
「明日は剣技のスキルレベル上げを中心にしごいちゃうぞ♡ ≪ミッカ≫は昼間活動できる人かな?」
「え、ええ。今は夏休みなのでわりと自由です」
「そっか♡ じゃあ明日の朝10時にここに集合ね。時間厳守だぞ♡」
「了解です!」
10時に集合。
アクア様……もえきゅん☆と約束だあ。テンション上がって寝られないかも……。
「遠足前日の子供みたいな顔してるわね……。もし寝られなさそうなら、明日の10時までここでスリープさせてあげるぞ♡」
「そ、それは遠慮します……」
朝、家にいないのがバレたら、さすがに親に怒られちゃう。
「ふふっ、また明日ね」
もえきゅん☆は投げキッスをすると、小走りに公園から出ていった。
ああ、夢みたい。
アクア様とリアルで会えて、メッセも交換できて、明日も会う約束して……もうしあわせが溢れすぎて気絶しそう。
わたしが強くなれたら、アクア様としてダンジョン配信……うっ、急に不安で気絶しそう……。
わたし、アクア様として世界に発信をする……のよね。
本気で鍛えないと、アクア様の名誉に傷をつけちゃう……。
死ぬ気でがんばるぞおおおおおおお!
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