第54話 復活
リーダーは腹に穴を空けたまま倒れており、弓使いに止血してもらっている。
弓使いも持っていた弓がボロボロになっており、本人も怪我をしている。
タンクは片腕が無くなっており、静かに倒れている。
そしてその三人を見ながら、膝立ちで涙を流している神官。
「私は無力だ......仲間がこんな事になっているのに、何一つ出来ることが無かった......私のせいで、こんな事に」
「ちょっとディルク!反省してる暇があるんならダインを止血しなさいよ!」
「無駄だ......もうとっくに意識は無い。今何かをしても、時間の問題だろう」
「時間の問題って何よ!まだダインは生きてる......まだ息があるんだから!!」
見てられないな。
上級の冒険者パーティーと言えど、こんなものか。
確かに今回の魔物群体は強かった。だがこれで駄目なようでは、今後も戦力になるとは思えない。
「何体倒した?」
俺は、冒険者達に質問をしながらタンクに近付く。鎧の上からそっと触れ、まだ息がある事を確かめた。
固有魔法を使う。
「は......?今はそれ所じゃないでしょ!?」
「落ち着け。まだ生きてるなら俺が治せる。それよりもお前達の戦果だ。厳しい事を言うが、この程度で生き残れないようなら、やはり足を引っ張るだけだ」
何か色々と言いたそうな弓使いだが、俺が治している所を見ると少しだけ大人しくなった。
のぬかか
「......下級と中級が何体か......上級には、歯が立たなかった......だってあいつら、一度に沢山で襲って来て......!」
「果敢に立ち向かった事は評価する。とても勇気あるパーティーだ。是非、他の冒険者達を引っ張って、人々を守り続けて欲しい」
「え......あ......」
回復が始まった。
一度に何人も同時に治せるようになったのも、練習の成果だ。
タンクが最低限治って来た所で、止血だけしてあるリーダーへ移る。
良かったな誰も死ななくて。
それにしても、まさかここまで闘えないとは......もう少しやれると思ったのに。
......て、偉そうに言う俺も如月に比べれば、あまり活躍出来ていないが。
「あ、ありがとう......」
「この経験を活かして、強くなってくれ」
ある程度回復させると、小森が帰って来た。
倒し終えたようだな。
早瀬さんも、疲れた様子で地面に座り込んでいる。今回は固有魔法をあまり使わなかったようだ。
始めは全く使わずにいたが、キツくなったのかそのうち一度か二度だけ高速移動していた。
......調子が悪いのだろうか。
「皆、お疲れ様。明来君も、かなり強くなったようだね。まさか上級を倒すとは」
「それは皮肉か?一人で何体も瞬殺してる奴に言われても、嬉しくねぇよ」
冗談っぽく笑いながら言った。
如月が皮肉で言っていない事は分かっているし、俺もそう言われて少し嬉しい。
どれだけ努力しても、如月のようにはなれなさそうだからな。半分諦めてるよ。
「取り敢えず回復するよ。皆集まってくれ」
戦闘が終わって余裕がある時は、俺の固有魔法で治した方が良い。ポーションを使うのは勿体ないし、装備は俺の固有魔法でしか治せないからな。
しかし......サナティオが俺の固有魔法だと分かっていても、俺の固有魔法をまだ使ってくれるのは少し驚いた。
普通なら、サナティオと同じように依存性があるのではないかと疑って避けると思うのだがな。
「この短期間で、よくそこまで強くなれたね」
早瀬さんが言った。
少しだけだが、実際に闘った事がある早瀬さんなら気付きやすかっただろう。
「あぁ、この鎧のお陰だな」
全身の黒い鎧を指して言う。
「何か特別なの?」
「これは魔具だ」
魔具。自ら魔力を持つ物体の事だ。
固有魔法のような能力を備えており、魔力を流す事で発動させる事が出来る。
「この鎧は、魔力を流す事で身体能力が大幅に上昇する」
「なるほど。それであんなパワーが」
「その代わり、全身にダメージが蓄積されていく」
「......?」
「身体能力を上げている間、俺の体はダメージを負っているんだ」
そう、この鎧は呪われた魔具。
大きな力を得るのには代償がある。
「え......それって痛いの?」
「それなりに。だが俺は全身を治し続ける事で、実質無償で力を得ている訳だ」
常に体をヒールし続けることで体へのダメージは大きなものにならず、長時間の強化状態を維持する事が出来る。
「そんな......じゃあ、ずっと痛みを我慢しながら闘ってるって事?」
「痛みにはそこそこ慣れた。戦闘で痛みが発生するのは別におかしな事じゃないし、俺はこれぐらいの事をしなければ皆に追い付けない」
「でも......」
「この鎧は、一番俺に合っているんだ。上手く利用したい」
早瀬さんは不満そうな顔をする。
そんな顔をしないで欲しい。
俺だって痛いのは嫌なんだ。けど、こいつをデメリット無しで使えるのが俺だけなんだと思うと、何だか特別な感じがして少し嬉しい。
こんな簡単な事で強くなれるのなら、使わない手は無い。
「それにしても、グィルは何故ここを襲ったんだろうな」
一番の疑問だ。
魔王軍幹部のグィルが、この国を襲った理由。
「襲う」という事自体には理解出来る。
しかし、何故この場所でこのタイミングだったのかが分からない。
「うん......勇者パーティーが来ることを知っていたみたいだし、むしろ俺達を呼んだような言い方だった」
全く怪我の無い如月が、血で濡れた剣を拭きながら言う。
随分と余裕だな......と思ったが、足を揺すったり同じ所をずっと拭き続けている所を見ると、イラついているようだ。
グィルを逃したのがそんなに気になるのだろうか。
「私達は誘われたって事......?罠とか?」
「罠だったとしても、どんな罠なのか分からない。目撃の噂が無ければ存在すら把握出来ていなかったのだから、こっそり魔物を放てば簡単に国を落とせていたかもしれないってのに」
魔王軍の残党がどれだけ残っているのかは知らないが、グィルが今更たった一人で動き出したとは考えにくい。
何か理由があってのものだろう。
何かしら、今動くのに都合が良かったはずだ。
「場所......北の方......か」
「この程度で俺達を倒せると思っていたとは考えにくいけどね......」
ふむ......確かにそうだ。
一度闘った事もあるはずなのに、この魔物の数で倒せると思っていたか?
それか、これが限界だったとか......。
「なんで今、この時期に再び動き出したのか......」
この時期、一年後......勇者パーティーの再編......サナティオ......か。
サナティオ......回復、戻る。
「戻る......?」
まさか......そんな、いやしかし......有り得るか。
そうか、そういう事か。
「こんな簡単なことに、何故今まで気付かなかったんだ......」
「どうしたの?」
こんな事、最初から考えるべきだった。
可能性としては充分ありえるだろ。
何故か、思い付くことが出来なかった。
「魔王が復活する」
......いや、何処か心の奥底で、考えたくない可能性だったのかもしれない。
だがこれは、紛れもない事実だ。
もし本当に復活したのなら......俺達は、立ち向かわなくてはならない。
「な......」
「嘘......でしょ......?」
「そんな......ありえないよ。だって私達で倒したじゃん!?」
そう。魔王は一年前に、勇者パーティーが倒しているはず。
様々な魔法が存在するこの世界でも、死者蘇生の魔法は存在しない。
死からの復活なんて有り得ない事だ。
だが......
「俺の固有魔法は、時間を戻して回復する事が出来る。出来ない事は、死者を復活させる事だ。死体に魔法をかけても生き返る事は無い」
実際に試してみた事もある。
俺の魔法はどんな致命傷でも、時間さえかければ全回復させる事が出来る。
だが息を引き取ってしまうと、肉体は治っても意識が戻らないままだ。
「ずっと疑問だった......時間が戻るのなら、なぜ記憶が消えないのか」
おかしな話だ。
回復魔法は、何処の部位を治すのか選んだりする事は基本的には無い。
技術があれば、部位ごとに集中的に治したりする事も可能ではある。
しかし俺は、主に全身に魔法をかけている。
だから自動的に全身が治る。その中には脳も含まれているはずだ。
しかし、時間を戻しているというのに記憶喪失などの脳への影響が全く見られない。
「恐らく、無意識のうちに俺はリミッターを付けていたのだろう。戻すのは体だけで、脳には干渉しない。それが理由で、死体は復活しないんだ。だが、サナティオにリミッターは無い」
シスターのいた村の子供達が、その証拠だ。
肉体が若返り、更に脳まで子供のようになっていた。
あれは、本当に全身の時間が巻き戻った結果だろう。
「制限無しで時間が巻き戻せるという事か......」
「そう。つまり、死体も生きていた状態へ戻る。『死人も生き返る』という事だ」
「じゃあ......本当に......」
魔王軍残党が今になって動き出した理由......それは、魔王復活しか理由は無いだろう。
死んでから一年経っているんだ。サナティオを使っても、そこまで巻き戻すには時間がかかったのだろう。
「魔王が......復活」
「ごめん......俺のせいだ。サナティオなんて作ってしまったから」
本当に全て上手くいかない。
何を得意げになって説明してるんだ。全部俺のせいだろ......!
俺が世界に中毒を撒き散らし、魔王まで復活させた。
もう本当に、迷惑しかかけない奴だ。一体どこまでやらかせば気が済むんだ。
「はいはいもうそう言うのは無し。分かったから。今から落ち込んだって仕方ないでしょ?もう起きちゃったんだから。で、これから考えるべき事は?」
「......魔王を倒すこと」
「だよね。それじゃあ、やる事は一つね」
......早瀬さんには敵わないな。
いつだって人の事を想い、支えてくれる。
そんな早瀬さんが、やっぱり俺は好きだ。
「急ごう。もしかしたら、まだ復活していないかもしれないよ」
「グィルの件も......もしかしたら、俺達を魔王から遠ざける為に囮として暴れた可能性が高い。どうせ魔王を倒すことになるのなら、早いに越したことは無いな」
魔王を復活させるなら、魔王を倒した場所。
幸い、ここからはかなり近い場所にある。
「行こう、魔王城へ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます