第12話 俺が間違いを起こすわけがない。
「は、はぁ!?付き合って、お前なあ……」
「だって、今更友達にお兄のこと彼氏じゃないって説明するのもめんどーだし……」
冬華はそう言うと、俺の肩に頭を乗せて身体を密着させてきた。彼女の体温と甘い香りが伝わり、思わずドキッとする……。だが、ここで流される訳にはいかない。俺は雑念を振り払い、彼女に気持ちを告げた。
「……付き合えるわけないだろ、俺たち兄妹なんだぞ。あんまりお兄ちゃんをからかうんじゃねーよ」
「か、からかったりしてないもんっ!結構本気で、告白したつもりだったんだけど……」
「えっ……」
冬華の告白に、俺は言葉を失った。まさかとは思うが、本当に俺のことを……?いや、いつも変質者を見るような目で俺を見てくる冬華に限ってそんなことはないはず。俺が戸惑っていると、冬華は不満げに頬を膨らませていた。
「お前、俺の事好きなのか……?」
「ん……。そうじゃなきゃ、付き合ってもいいなんて言わないし……」
「そうだったのか……。一応聞くけど、いつから好きだったんだよ」
「……小学生の時からずっと」
冬華は頰を赤く染めながら、ぽつりと呟いた。小学生の時からずっと……か。それだけの期間想いを募らせていたにも関わらず、俺に悟られないように過ごしていただなんて。あるいは好意を隠すために敢えてツンとした態度を取られていたのだと思うと、俺まで顔が熱くなってくる……。
「そっか……。でも、いきなりキスされたり好きだとか言われても、気持ちが追いつかないっていうか……。あまりにも急すぎやしないか?」
「だって……。このままだと、お姉とか他の女に取られそうだったし……」
冬華は消え入りそうな声で呟くと、俺のシャツをぎゅっと掴んできた。普段とは全く違う弱々しい姿に、思わず胸が高鳴るのを感じる。
「今日だって、お姉といつの間にか添い寝したり、見ず知らずの女子高生相手にデレデレしてたじゃん。あたしだって嫉妬くらいするもん……」
「いや、あれは社交辞令だろ?それに玲華だって俺はまだ付き合うって決めたわけじゃ……」
「……うるさい」
冬華は俺の言葉を遮り、再び唇を奪った。今度は俺の膝の上に跨るようにして、背中に手を回して強引に口付けをされる。
「んっ……、れろ……ちゅ……」
「ちょ、冬華っ……!」
俺は慌てて引き剥がそうとするが、彼女は離れようとしない。むしろ俺の首に腕を回してさらに密着してきたため、身動きが取れなくなってしまった。そのまましばらくキスを続けていると、ようやく満足したのかゆっくりと顔を離した。深めのキスをしてしまったためか、互いの唇に銀糸の橋がかかる。
「ぷはっ……。はぁ、はぁっ……」
「はぁ……いきなり何すんだよ」
「だって、こうしたらお兄もその気になるかなって……」
冬華は頰を赤く染めながら、恥ずかしそうに俯いた。俺はため息をついて、彼女の頭を優しく撫でてやる。
正直、俺だって冬華のことは好きだ。今すぐ押し倒してしまいたいほどにかわいくて魅力的なのだが、それでも妹に手を出すわけにはいかない。それは玲華にも言えることで、彼女達の想いに応えれば、きっともう一度家族を失う羽目になる。それだけはどうしても避けたい。
「冬華の気持ちは嬉しいけど、やっぱり付き合うことはできないよ。義理とはいえ兄妹で恋人になるなんて、そんなの間違ってる」
「……お兄の意気地なし」
「分かってるよ。ごめんな」
「そーやって謝るくらいなら、黙ってあたしのこと抱きしめてよ……」
冬華は不満げに呟くと、俺の胸に頭を預けてきた。そしてそのまま泣き出してしまったので、俺は彼女が落ち着くまで抱きしめてやることしかなかった……。
「ん……お兄、そろそろ苦しいってば。もういいから離して」
「わ、悪い。もう落ち着いたか?」
「うん……。ありがと……」
冬華は照れくさそうににお礼を言うと、俺の膝から降りて隣に座り直した。そして少し迷った後、再び俺の方に寄りかかってきた。どうやら甘え足りないらしい。俺は何も言わずに彼女の頭を優しく撫でてやったが、彼女はどこか不満げな様子だ。
「……ねぇ、もっかいキスしてよ。そしたら今日は諦めたげるから。今度はお兄からして」
「もうダメだ。俺の理性が持たなくなる」
「むぅ……。彼氏っぽく振る舞うって約束したじゃん。それとも、またあたしとの約束破る気?」
「くそ……。仕方ねぇな、絶対に最後だぞ」
俺は覚悟を決めると、冬華の頰に手を添えてゆっくりと顔を近づけていく。そしてそのまま唇を重ねた。先ほどとは違い、冬華を満足させるために今度は俺の方からも舌を差し入れる。すると彼女もそれに応えるように、積極的に舌を絡めてきた。静かな部屋に唾液が混ざり合う音が響き渡り、互いの興奮を高めていく……。やがてどちらともなく口を離すと、名残惜しそうに糸が伸びて切れた。
「はぁ……。おにぃ、激しすぎ……」
「お前がやれって言ったんだろ。これで満足したか?」
「ん……。まだ足りないから、もっとして」
冬華は潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。そして、俺の中で何かがプツンと音を立てて切れた気がした。
「俺だって、兄である前に男なんだぞ。わかってんのかよ……!」
「きゃっ……!?ちょ、おにぃ……んっ……」
彼女の肩を掴んで、そのままソファへと押し倒す。そして覆い被さるような体勢で再びキスをする。今度は最初から激しく舌を絡め合い、互いの唾液を交換し合うような激しいものだ。冬華もそれに応えるように、懸命に舌を動かしている……。
「んっ……ちゅ、ふぁ……んむっ……」
「はぁ、ん……っ」
「んーっ……。はぁ……、キスだけじゃなくて、こっちも触ってよ……」
冬華は甘えるような声で囁き、俺の手のひらを胸へと誘導してくる。俺はごくりと唾を飲み込むと、彼女の服の上から胸を触った……。小さな膨らみだったが、柔らかい感触と共に甘い嬌声が身体中を駆け巡り、頭がクラクラしてくるようだった。
「んっ……手つき、えろいってば……」
「お前が誘ってきたんだろ。もうどうなっても知らねぇからな」
「そんな、あっ……」
俺は勢いそのままに冬華の上着を捲り上げようとする。その時、備え付けの受話器が大きな音を立てて鳴り響いた。
「ひゃうっ……!?」
突然の物音に驚いた冬華は、猫のような声を上げて飛び上がった。俺は慌てて受話器を取ると、相手は受付のようで、時間の延長を希望するか問いかけられた。ここに来てようやく頭が冷静になる。この受話器が鳴らなかったら、俺は今頃道を踏み外してしまっていたのだろうか……。
「あーいや、延長はなしで!すぐに出ます」
俺はそう答えると、急いで荷物をまとめた。冬華は不満げに頰を膨らませていたが、時間切れなので仕方ない。
「ほら、時間だから行くぞ」
「むぅ……お兄のばか。意気地無し……」
俺はぶつぶつと文句を言う冬華の手を引いて、足早にカラオケ店を後にしたのだった……。
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「なあ冬華、今日のこと絶対に他人にバラしたりすんなよ」
「えー。なにそれ、脅迫のつもり?」
「違えーよ。その……キスしたことも、出来れば全部忘れろって。その方がお互いの為だろ」
「んー、どうしよっかなー?お兄があたしに覆いかぶさってキスしてるとこ、隠し撮りしちゃったしなー」
「はぁ!?おまっ、今すぐ消せって!」
「嫌でーす。ほら、危ないから運転に集中してよね」
冬華は悪戯っぽく微笑むと、俺の頰を人差し指で突いた。その仕草が可愛らしくてドキッとすると同時に、俺は自分が完全に妹に手玉に取られていることを実感した……。
「バラして欲しくなかったら、またデートに付き合ってよね。犯罪者予備軍のお兄ちゃん」
「くそ……どっちが脅迫だよ、まったく……」
俺はため息をつくと、ハンドルを握り直してアクセルを踏んだ。そして、生意気でクールで素直じゃない妹を助手席に乗せたまま自宅に向かって車を走らせたのだった。
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