第三章:天翔ける白き翼の魔導騎士/01

 第三章:天翔ける白き翼の魔導騎士



 ――――ナイトメイル、というものがある。

 それは人間を遙かに超えた大きさの巨大騎士。プラーナを用いる『プラーナ炉心』をエネルギー源とするもので、魔導騎士という別の呼び方もある。ナイトメイルは魔導士が魔導士たる所以ゆえんのような存在で、魔導士とは即ちこのナイトメイルを駆る者と言い換えてもいい。

 ナイトメイルにはそれぞれ個体差はあれど、平均的な身長はおおよそ35メートルから40メートルほど。姿形も様々で、古来から伝統的に職人によって手作業で組まれるナイトメイルは……一部の例外を除き、二つと同じもののない一点モノばかり。ナイトメイルとは魔導士にとって一人前の証であり、無くてはならないものといえる。

 ちなみにナイトメイルという呼び名は『騎士の鎧(=Knight Mail)』という意味がある。魔導騎士という別名もそうだが、かつて魔導士が騎士の中でも特別な存在だった……そんな時代の名残ともいえよう。

 ウェインたちのクラスに課せられた午後の課程は、そんなナイトメイルを使っての実技授業だった。

 昼休みを終えた後、場所は学院エリアのある島からさほど遠くない距離にある別の島――アリーナエリアと呼ばれる島々に移っていく。

 アリーナエリアはその名の通り、ナイトメイルの実習などに用いる専用のエリアだ。

 このエリアだけは他の学院エリアや都市エリアと異なり、複数の島々に跨って構成されている。スタジアム型の小規模なものや、市街戦を想定した仮想都市フィールドといった具合に……それぞれ島ひとつを丸ごと使う形で造られているのだ。

 その中でも、今日ウェインたちがやって来たのは小規模スタジアム型のフィールド……通称『コロシアム』とも呼ばれている場所だった。

 そんなコロシアムの外見は、サッカースタジアムといった競技場のそれによく似ている。中央に広いグラウンドがあり、その周りを背の高い観客席のスタンドがぐるりと囲っているといった具合だ。

 だが小規模といっても、仮にも40メートル近い身長の巨大騎士が真っ向から殴り合うような場所だ。故にその大きさは、よくある普通の競技場の比ではないほど広大だった。

 …………とにもかくにも、ウェインたち一同は実技授業のため、そんなアリーナエリア内のコロシアムに足を運んでいたのだった。

「では、まずは基本技能のおさらいから始めましょうか。転入生のお二人は今日が初めてですから、とりあえず見学で結構ですよ」

 そんなコロシアムの中央グラウンドで、エイジの号令とともに授業が始まる。

 今言われたように、ウェインとフィーネの転入生二人は今日のところは見学だ。二人はグラウンドの隅っこ、スタンドの壁際にもたれ掛かるようにして、ひとまず授業の様子を見てみる。

「アレは……確か『クーガー』だったっけか、練習機の」

 皆を遠巻きに眺めながら呟いたウェインに「そうだな」とフィーネは頷き返す。

「魔導士の初等教育用の練習機だ。そういえば雪城コンツェルンの……奴の実家の製品だったな」

 続けてフィーネは腕組みをしながら、そう……遠くで歩く幾つもの巨大な影を見つめながら、ふと思い出したように呟く。

 ズシン、ズシンと重苦しい音を立てて、しかし音とは裏腹に軽快な足取りで歩く数体の巨大騎士。地味な灰色のボディを揺らす、無骨なシルエットのナイトメイル。

 ――――『クーガー』。

 それが、スタジアムを闊歩する巨人の名だった。

 先程ナイトメイルは一部の例外を除き、職人が組み上げた二つと同じもののない一点モノと述べたが……その例外が、このクーガーという魔導騎士だ。

 幾ら一流の素質を持つ魔導士といえ、誰にでも初めてはあるもの。いきなり文字を書ける子供がいないように、初めからナイトメイルを上手く扱える者もまた存在しない。そんな――いわばヒヨッ子の初等教育に用いるための練習機が、あのクーガーなのだ。

 これに限っては職人が手作業で組んだ……工芸品じみたものではなく、工場生産のマスプロダクション品。そこらを走っている自動車と同じような方法で大量生産された代物だ。

 そんなクーガーは練習機だから当たり前といえば当たり前だが、目立った特徴も何もない。他の華やかな個人用ナイトメイルと違い、見た目もどこか地味というか、戦闘機のような兵器然とした雰囲気すら漂わせている。

 ……また、普通の個人用ナイトメイルならば『スタンバイモード』という、非戦闘時には持ち運びやすいコンパクトな形になる機能があるのだが……練習機のクーガーにはそんなスタンバイモードになって小さくなる機能もない。とにかく初心者の練習に特化した、例外中の例外のナイトメイルなのだ。

 だが練習機だからといって雑な造りというワケではなく、むしろ造り自体はかなり丁寧。ナイトメイルに慣れない初心者でも素直で扱いやすいと評価されていて、このエーリス魔術学院だけでなく、他の世界中の魔術学院でも広く用いられているらしい。

 ちなみに――――フィーネが言っていた通り、クーガーの製造元は雪城コンツェルン。つまり風牙の実家だ。

 雪城コンツェルンは世界屈指のプラーナ技術を持つ大企業連だと前に説明したが、中でも特にナイトメイル分野で名が知れている。主要製品たる傑作練習機のクーガーの他にも、腕利きのナイトメイル職人を多数確保している関係上……個人用のナイトメイル製作に於いても、特に上質なものを造ることでも知られているのだ。

「さて、では今日のところはこの辺りにして……ウェインさん、フィーネさん、ちょっとこちらへ」

 そんなクーガーを使っての授業風景を見学していれば――ふとした折にエイジは授業を中断し、二人を手招きした。

「俺たちに?」

「一体何の用です、私たち二人は見学だったのでは……?」

 呼ばれた二人がきょとんと首を傾げると、エイジはふふっと小さく笑い。

「お二人がご自分のナイトメイルをお持ちなことは、私も知っています。ですから――――折角ですし、お二人にはナイトメイルを使った模擬戦をやって頂きたいんです」

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