第2話

 私の実家は仕出し弁当屋を営んでいました。


 祖父は小さな食堂を始めましたが、地域の会合のお膳を頼まれているうちに、仕出し弁当がメインの店へと変わっていったのです。

 実家の一階の大きな厨房では、早朝から大人たちが働いていました。

 厨房の先には昔からの食堂がそのまま残っていて、そこも朝早くから開けていました。

 食堂では仕事前に朝食をとる人だけではなく、夜の仕事を終えた人や、朝から飲んでいる人など様々でした。

 



 店の手伝いをしている人にシメさんという若い女性がいました。

 変わった名前ですが、シメさんから聞いた話では、実家は子沢山の貧しい農家で、親たちはこれでもう子供は終わりにしたい、そんな願いを込めてシメと名付けたそうです。

 シメさんの親の願いは叶わず、シメさんの下にはトメさんという妹がいました。

 

 このトメさんも中学を出るとすぐに東北の田舎から出てきて、店で働くようになりました。

 トメさんは少し足りないところがありました。

 不器用で弁当の盛り付けが雑なので、食堂を任せると、注文の間違いやお釣りの間違いが多く、親たちは苦い顔をしていました。


 ただ年も近いこともあり、私はこのトメさんとは仲良しでした。

 

 トメさんが来た年のお祭りにも、蛇女はやってきました。


 蛇女を見たいと言うたびに、親からひどく怒られてきたので、私はもう親にねだらなくなっていました。


 蛇のお姫様を一目見たいという好奇心と、まだ逃げられないで閉じ込められているのかと、悲しい気持ちが混ざり、お囃子の音を聞いているだけで泣きそうでした。


 私はトメさんにそっと蛇女の話をしてみました。


「蛇のお姫様が人間に捕まってるんだよ。そのうち仲間が助けにくるよ」


 その前にどうしても見てみたい。

 そんな事をトメさんに話したのです。


 トメさんは自分の興味のある話には返事をしてくれますが、そうではないと全く聞いてくれず、自分の話したいことだけを話す人でした。


 その時も興味を持ってくれないのではないかと思いながら話したのですが、トメさんは私の話を熱心に聞いてくれました。


 しかも一緒に行こうとまで言ってくれたのです。


「千円いるんだよ。二人だと二千円だよ」


 私がお金の心配をすると、トメさんは自分の財布を見せました。

 中にはたくさんのお札が入っていて、びっくりしました。


 トメさんは足りない人ではなかったのです。

 トメさんにレジを任せると、いつも金額が合わないのは、レジからお金を抜いていたからでした。


 

 

 

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