Wave.6 強み

 納得した様子の私を見て、先輩はニヤリと笑った。


「分かったろ。お前の今の状態じゃ『知る』は出来ても『見る』に流れねェのさ」

「なる、ほど」


 自覚して、指摘されて、理解する。自分では頑張ってやっているとは思っていたけれど、どこに向かって何を頑張っていたのか、と言われると答えられない。配信をすれば視聴者が来てくれて、色々話したり歌ったりすれば登録者が増えて。


 そんな漠然とした目標を考えながら、時間になったから配信を始め、義務感からCrossでLinerして、そして反応が無いから落ち込んで。


 考えてなかったんだ、結局のところ。

 頑張ればどうにかなる、そう自分に言い聞かせるばかりで。


「が、現時点でお前には一つだけ強みがある」

「へ?」


 トンと机を指で突いて、先輩は言う。

 強み?私に?登録者十人、再生回数一桁祭りのド底辺に?


「強みなんて……」

「あるだろ、コレが」


 ずいっと差し出されたのは先輩のスマホ。そこにはWaveのチャンネルトップが映っていた。もう一人の、ヴァーチャルの私が映っていた。


 茶色いセミロングヘアは途中から橙色に変化するグラデーションカラー。首元には白のマフラーを巻いていて、茶色に黒のぶち模様のケープを羽織って、白のフリフリが付いたシャツを着て、茶色のミニスカートを履いてる。


 椋鳥ひより。

 会社員時代に使う事も無く蓄えたお金を、全力で突っ込んだ可愛い子。


「え、ええと?」

「なンだ、分からねェのか」

「は、はい」

「仕方ねェな」


 溜め息一つと共に先輩はスマホを自分の手の中に戻し、適当にタップとスワイプを何度か実行。そして再び私にその画面を見せる。


 そこに映っているのは知らない配信者。私と同じくらいの活動期間の個人V-Waverだ。登録者数は私の目に映っている人の方が十人ほど多い。……くぅっ。


 汎用モデルな配信者に、なんでお金ぶっ込んだ私が負けてるんだよぉ。コンテンツか?配信してる内容が上等なのか?うえぇん、教えて神様ぁ。


「何か気付く事は無ェか?」

「え?うーん、登録者が私の倍で羨ましい」

「……ハァ」


 うわっ、すっごい溜め息吐かれた。


「コイツを見てお前は何を考えた、何を不満に思った」

「えーっと。私、お金沢山つぎ込んでモデル作ったのにって……」

「そう、それだ」

「はぇ?」


 ビッと指さされて私は素っ頓狂な声を上げる。


「お前に今ある力。それは『モデルの良さ』だ」


 先輩は私の事を真っすぐに見て、言い切った。

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