Wave.4 痛い現実

 体内が沸騰する。沸いた感情が頭に上り、脳を泡立たせた。


「な、何でそんな事が言い切れるんですかっ!!」


 机を両手で叩き、私は身を乗り出した。

 店内に他の客はおらず、店員もマスターだけなのが幸いだ。


「うるせェ」

「五月蠅いのはそっちです!私の活動にケチつけるために呼んだんですか!?」


 私の活動歴はわずか半年、圧倒的に『わぁるふぁ』の方が上。だからと言って、他人の活動を馬鹿にしていいわけがない。断じて!


「落ち着け、座れ。マスターに追い出されンぞ」

「ぐ……っ」


 正論だ。色々と納得はいかないが、先輩の言う通りに着席した。


「昨日の配信、同時接続の平均はゼロに近いだろ」

「それは、そう、ですけど!?」

「二分程度見たが、それで判断できる。漫然と配信を垂れ流しても意味はねェ」


 漫然と?私の配信が?

 ふざけんな!


「聞け」


 私の表情からこの後の行動を予測されて、先手を打たれた。


「『わぁるふぁ』は長く活動してきた。だからこそ知ってる」

「何を、ですか?」

「活動開始から一年以内に消えていった連中の共通点だ」


 コーヒーをひと口飲み、先輩は私の事を見る。

 その目は私の心まで見透かしている様だった。


「いつか人気が出る、いつかバズる、いつか大物に声をかけてもらえる」

「っ!」

「どいつも今の、現実の事を考えていない」


 その言葉は私に突き刺さった、直撃だ。

 確実に私が考えていた事、それそのまま。


「だから工夫をしない。今の自分のままでいるのが個性と思い続ける」

「こ、個性は大事、じゃ、ないですかっ」

「その通りだ。だが、知られて初めて効果が出る」


 ぴっ、と私の事を指さす。

 それは言葉よりも重く、私の身体を縫い付ける杭のような重量を持っていた。


「最優先は知られる事。お前、Crossクロスを使ってるな?」

「え?は、はい」


 世界中に広く普及してるSNS、Cross。日常の些細な事から企業の宣伝まで、ありとあらゆる事を発信できるツールだ。クロ、と呼ばれる事もある。


 そこへ投稿する事をLinerライナーと言う。『closer link:関係を強化する』という言葉から生まれた造語。野球のライナーが丁度同じスペルで、誰かに届けるという意味合いにピッタリだったのだ。


 かくいう私も椋鳥むくどりひより名義でアカウントを持っている。配信の告知とか、今日何をしたかとか。色々発信している、のは良いがフォロワーは数十程度。時々整理すると半分くらいスパムだったりする。フォロー相手は数百いるんだけど、バックされないんだよなぁ。


「活用出来ていないのは明白。クロから繋がる奴はごく少数だろ」


 ぐうの音も出ない。フォローバックして配信を覗いてくれた人も、ちょこっとは居る。だが継続は殆ど無くて以降配信には現れない。


「か、活用って、何すればいいんですか?」

「お前に関しては、そのスタートラインにすら立ってねェよ」


 鼻で笑われた。

 ぐぐぐ、ムカつくけど言い返せない。


 先輩は眉間に皺を寄せて、私に顔を近づけて言った。


「そもそもお前、プロフィールにチャンネルへの導線、無いじゃねェか」

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