初めてのお使いINダンジョン〜いじめられっ子だった私ですが、助けた魔物がダンジョンの主の子供だった件! バズって自信もついてきたので、仲間(魔物)たちと一緒に世界を救おうと思います〜

キリン

「1バズり」投げ銭で下着を晒されたのですが

 ──通学路の近くにダンジョンへの扉が出現した。帰りのホームルームで先生がそう言うと、クラスにいる全員がざわめいた。


「ラッキー! 俺の初配信が決まったぜ!」

「他の配信者が来る前に、早く行かなきゃ」


 深刻そうに思える先生の制止も虚しく、生徒たちはダンジョンへの興味を爆発させていた。怖いとか、関わらないとか、そういう意見は一つもない。──あるのは、承認欲求を満たす術を得た事への、狂気に満ちた喜びであった。


 先生は怒りの中に悲しみをにじませながら、ホームルームを締めくくった。すると生徒たちは一心不乱に荷物を背負い、教室の外へと出ていく。片手にはスマホ、もしくは自撮り棒が握られている。中には既に配信を始めている人も居た。──私も早く帰ろう。席を立とうとしていた頃には、既に取り囲まれていた。


「ねぇ、かーわーむーらーさ〜ん? どこいこうとしてるのかな〜?」


 取り囲む四人の内、目の前にいる座間さんが私の顔を覗き込む。彼女はいつもいつも、こうやって私に嫌がらせをしてくる。


「……きょ、今日は用事があるんです」

「はぁ〜? 意味分かんないんですケド、なにそれ? ご主人さまの言うことが聞けないのかな〜?」

「きゃっ」


 髪を掴まれ、引っ張られる。こんなことは日常茶飯事だが、今日の彼女は特に「機嫌が良い」らしい。彼女は私の頭をそのまま机に叩きつけ、理不尽に言った。


「アタシらさぁ、バズって有名になって遊んで暮らしたいの」

「か、勝手にすればいいじゃないですか……」

「口答えすんなよ、アンタはこれからアタシのバズのための生贄確定ってカンジ? ほら、そうと決まったんだからさっさと歩けよ!」

「──ひぃっ」


 座間さんが取り出したナイフの切っ先が、私の喉笛に触れる。どうやら、私に抵抗することは許されないらしい……ニヤニヤと笑う座間さんは、取り巻きの内一人に私を羽交い締めにさせた。そしてスマホを取り付けた自撮り棒を引き伸ばし、馬鹿げたポーズを取った。


「ちーっす! 座間チャンネルの時間だお☆」


 ──待ってました!

 ──可愛い!

 ──今日の犠牲者は誰かな?w


 座間さんが歩くと、取り巻きも歩く。私は半場引きずられながら、膨らんでいく嫌な予感に震えていた。


「今日はぁ、私の下僕を紹介しま〜す! うんこ大好き、川村里帆さんでーす!」

「……」

「おい、返事しろよ」

「ひっ、よ、よろしくお願いします」


 ──可 哀 想wwwwwwwwwwwww!!!!

 ──犯罪でしょこれ

 ──面白ければなんでもいいだろ

 ──住所教えて

 ──「裸ロマンさんが投げ銭しました《1000円》」下着見せて!


「うわ、裸ロマンさんいつもありがと〜! ──脱がして」

「やっ、やめてよ!」


 抵抗も虚しく、私の上半身の衣服は無理やり脱がされた。座間さんは邪悪に笑いながら、私の下着姿を配信に晒している。コメントが送信される音が大きくなる度に、私はガチガチと歯を鳴らしていた。


 ──胸デッカ!

 ──「裸ロマンさんが投げ銭しました《10000円》」もっと脱がして

 ──裸ロマンさんいつも神

 ──どっから金出てるんだよ

 ──「裸ロマンさんが投げ銭しました《50000円》」座間チャンも脱いでよ


「……はーい! 私の下僕サービスはここまで! 今日はぁ、これからも〜っと面白いことをしたいと思いま〜す!」


 ──脱げよ

 ──つまんね

 ──学歴ってやっぱ大事だよな(笑)


 裸ロマン、とか言う人が三度目の投げ銭をした途端に、座間さんは血相を変えて話をそらした。コメント欄のブーイングを無視しながら、座間さんは再び歩き始める。


「実はぁ、最近この学校の近くにダンジョンが出現したらしいんです! 今回は、そこで企画をやりたいと思いまーす!」


 ──マジ?

 ──女だけで?

 ──俺たちが見たいのはお前等の死体じゃなくて裸なんだよなぁ


 酷いコメント欄だ、民度だけじゃなくて頭も悪い。座間さんはそれでも笑っていた、形はどう荒れ自分を見ている人間がたくさんいることに快感を感じているらしい。


「その企画の主役は、な~んとこの下僕ちゃんでーす!」

「──え?」


 肩をすぼめて下着を見せまいとしていた私の背中に、一気に悪寒が走った。ダンジョン配信、常識のない人間、その人間が何をしてもいいと思っている……私。


「今回はなんと特別編! 『初めてのお使いINダンジョン』でーす!」


 最悪の予感は的中し、私は首筋に当てられたナイフの冷たさよりもなお、体が冷えるほど血の気が引いていた。コメント欄の五月蝿い投げ銭の音、笑いながら私を引きずる座間さんたちに、私は怒りと恐怖を抱いていた。

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