バルーン人形

自己憐憫や自己嫌悪は

否定で構成された自慢でしかありません

自己の消費に他なりません

文学たり得ません

しかし

お気楽を気取っていてもふと

隙を見せたその瞬間に

深い夜に引きずりこまれてしまいます

抗うことはできませんでした



自分が嫌になりました

自分の能力を

過分に見積もる私がいます

自分の頭を

賢いと疑わない私がいます

自分の性格を

優しいと思い込む私がいます

自分はいま

頑張っているんだと

信じて聞かない私がいます



そうした自分の輪郭を

象る卑小な細胞たちを

現実を今生きる自分が

見ないふりをするのです

対話を怠っているのです



私は一種のバルーン人形です

自己欺瞞で膨らむ躰を

薄くなるゴム皮が保つ

巨大なバルーン人形です



楽天家を気取るのも

浅ましい自分の内圧で

潰れてしまわないための

逃避がしたいだけなのです



死は望みません

死はエネルギーを持つためです

エネルギーは力を持つためです

死ぬと周りは悲しみます

たかだか私の死なんかで

世界に悲しみを増やしてはなりません



世界はつくづく美しいと感じます

であればこそ

私の色が微量でも

混じっていることが

ときどき

許せなくなります



考えが甘いのは

醜悪な自尊心を

徒に舐め回すことによる

悦びの味を知っているからです

あまりにも

唾棄すべき営みです



自己嫌悪や自己憐憫は

再帰性を有します

ループするのです

ループするとき一段と

バルーンの膨らむ音が響きます



さらに夜が深まってきました

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