萌芽

年の瀬の稽古納めを終え

新幹線で草津へ向かいました

泊まる宿のみ決め

一人で向かいました

一人旅の道すがら

なんてことない時間がすきです

車両の窓を眺めたり

しずかな通りを歩いたり

名前のつかない

余白に

溺れる時間がすきです


草津の坂を上るとき

耳元をすれ違う風は

地元のそれとは

すこし違って

優しくありませんでした


濁音の付く風切り音が

心地よかったことをおぼえています

私は

私の言うところの

余白に

ただ身をうずめていたのです


しかし私は不覚にも

草津の道を歩きながら

ただ

あなたのことを考えていました


この余白にあなたが

たったひとり加われば

この余白をあなたと

ひとしく笑いあえるなら

ほかには何も

物も言葉も

いっさい加えることなしに

しかし確かに

それは彩りを増すだろう


あなたに

それまでただの仲の良い

クラスメートだったあなたに対し

私はあのとき

そう思ったのです


北関東のからっ風を浴びながら

私は恥ずかしくなりました

これが「好き」かと思いました

これが「恋慕」と悟りました

嘘だ嘘だとかき消したところで

雪まじりの道をゆく私の

足取りははやくなる一方でした

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