【詩集】或る日の焦燥と、世間と云ふもの

朔之玖溟(さくの きゅうめい)

幻影

(1)


あの夜、子猫の影が、僕のほうに延びていた


なにやらおびえて縮こまり、

それは無意識のようであり、

あんまりひどい顔をしているとて

影をさすることさえかなわなかった


早朝、友人は心配そうに、僕の顔を覗き込んだ

彼が何を思っているか、

僕は不安にさいなまれる。


(2)


いかなる懺悔ざんげをしようにも、

 眠る命が脳裏に残って

 すやすやと音がきこえて

 脈動を肌で感じて

 嗚呼アア、呪いをかけられたのやもしれぬ。


神に祈りを捧げようにも、

 鏡台の上を眺めて、それでも

 硝子ガラスふちはぼやけて

 いずこの者かと目を凝らして

 嗚呼アア、僕の姿があるではないか……


いったい自分は、誰に祈っていたのだろう

手を伸ばしても、残穢ざんえつかめぬまま――

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