15:王子様の「治療」
ケインに急かされるように、僕はペロと、熱い膨らみに先程よりも柔らかく触れてみます。チラリと見上げたケインは先程同様、目を細めて此方を見ていましたが「痛い」とは言いません。ただ、少し息が荒く、此方を見下ろす視線は少し怖く感じました。でも、僕は続ける事にします。
「…ちゅ、ん……ん、ンん」
不規則にできた痕跡の上を、舌先で確かめるようになぞり、痛みを感じているであろう部分を、出来るだけ優しく舐めます。こうする事で、少しでもケインの痛みが楽になればいいと考えながら、僕は丁寧に丁寧にケインの体にある傷を全て舐めていきました。
「っはぁっはぁ……ぁふ」
どのくらい時間が経ったでしょう。
ケインの体にある全ての傷を舐め終わる頃には、舌の感覚はおかしくなり、なんだか頭がぼーっとしてしまいました。舐めている間は、ちょっとだけ息がしにくかったせいだと思います。
「ケイン、少しは……いたいの、治った?」
「……まぁまぁかな」
「まぁまぁ」
「こんなん、一日で治るかよ。……毎日やんないと」
ケインの言葉に、僕はそれもそうかと思いました。それに、ちゃんと僕が問題に答えられないと、明日もケインに鞭が打たれてしまうかもしれません。今日は、ちゃんと復習して寝ないと。でも、一つだけ確認しておきたい事があります。
「ねぇ、ケイン」
「なんだよ」
「あの……、僕と、その……友達止めないでいてくれる?」
そう、僕がおずおずと尋ねると、なにやらケインが僕に向かって片手を差し出してきました。
「ほら、早く持って来いよ」
「持ってくる?」
「何の事?」と、僕がケインの差し出した手を見つめると、彼は呆れた顔で言いました。
「ウィップだよ」
「っあ!」
「今日、オレはここになにしに来たんだ?」
「ウィップと話しに!」
頷くケインに、僕は一気に心が跳ねるのを感じました。そうでした、そうでした。ムチの事ですっかり忘れていましたが、ケインはウィップに会いにきたのです。
「ケイン。待ってて、取ってくるね!」
「おう」
「……あ!」
「おう」と、ちょっと乱暴な返事をするケインの姿に、僕はハッとしました。どうやら、僕は一カ所だけ舐め忘れているところがあったようです。
「ケイン、ちょっとごめんね」
「なんだよ」
僕はケインの顔を両手でそっと包み込むと、彼の瞳が大きく見開かれ、その中に僕の姿が映りました。あぁ、やっぱりケインはお星様みたい。きれい。
「ンっ……」
「っ!」
僕はお星さまに吸い寄せられるように、ケインの唇の横に出来た赤い腫れに舌をペロペロと這わせました。ここはそんなに酷くないので、少し強くしっかりと舐めます。最後に、「早く治りますように」という気持ちを込めてチュッと傷口に口付けをしました。これは、僕の勝手な「こだわり」。おまじないです。
「ケイン、ウィップを連れてくるね!」
「……うん」
僕はケインから離れるとそのままウィップを取りに走りました。ケイン、熱が出なきゃいいけど。僕はウィップを手にとりながら、傷のせいで顔が真っ赤になってしまったケインの顔を思い出しながら小さく祈りました。
この日からです。
僕の代わりに鞭に打たれるケインの「治療」を行うようになったのは。
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