さくら ②

目的と手段がある。どうなりたいか、どうありたいか、どうしたいか、がある。取捨選択していきながら、我々は生きていかなければならない。そんな事を考えながら、彼を言動を見ると、昔の自分を見ているようでもあった。

 営業活動している中で、何度か、彼に言っていた事があった。

 僕らが考えるべき事は、悪いあの人でも、かわいそうな自分でもない、

 「これからどうするか?」

 ひたすらそれを考えていくしかない、と。つい言ってしまいそうな愚痴や弱音、それらを度外視して、僕らは課題に向かっていなかければならない。それは営業のみならず、日頃の生活でも、いつでも心がけるべきだと、僕は思っていた。


 「で、ちょっとお前に聞いてみたい。これからどうしたい?どうなりたい?」

 彼の中での僕の立ち位置もあった。僕は彼から見ると、支社長の手下、そんな感覚でいる可能性もあり、彼が僕に正直な気持を語れるかどうか、その不安もあった。

 「ちなみに俺は世界を変えたいと思ってる。」

 純粋にそう思う事もあるし、馬鹿みたいな事でも何でも言っていい、と思わせる為の布石でもあった。

 彼は少し考えるようにし、こちらを見ているのか、見ていないのか分からないような視線で言った。

 「いや、正直なところ、夜の店とかで働きたいんですよねー。ボーイズバーとかで。自分に合ってると思います。」

 間髪入れずに僕は返した。

 「それってイメージできるん?」

 そして続けた。

 「こうなりたいっていうのと、イメージができるっていうのは全く別物なんよ。」

 営業員はイメージを具現化していく、その能力が養われる。そして自分の人生を振り返っても、このイメージによって歯車が動き出す事は多かった。やりたいと思った事でも、イメージが伴わなければ上手くいかない。ただ単に、現状から逃げたい、それだけではやはり、話にならない。

 彼は戸惑いとも、何とも言えない反応をして、黙りこくった。今思えば話を聞いていなかっただけかも知れない。気だるい間が流れた。

 「営業はまだ続けたいん?」

 「そうっすね…」

 

 気乗りのしない生返事だったとしても乗りかかった船であった。


 歯車はもう、動き出していた。


 少し間を空けて、右腕をテーブルに這わせるように少し前に出して、彼を見ながら諭すように声を発したつもりだった。


 「まきに話をつけてきたんよ。」

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る