第29話 柊と方相氏

「――というわけで、稟の素性も隠し事も判明した。柊家に危害を加える意図なしと判断して、これ以降の監視を解くことにしたから、みんなよろしく」


 予想はしていたけれど、満場一致で賛同は得られなかった。特に慎重派の夜映やミサは積極的に反対はしなかったものの、あまり乗り気でないことは表情を見れば分かる。しかし、僕に出来ることはここまでだ。あとは稟自身の行動によって二人の信を得るよりほかにない。


「じゃ、次。ラムネと稟へのレクも兼ねて、現状を改めて整理しよう。HCMG案件として叔父さんから依頼された内容は群咲市内で散見される怪文書、通称“不幸の手紙”の差出人を突き止めること。この不幸の手紙の不気味な文面に迷惑を被っている人達は多いし、さらに問題なのは、先日、亜砂木市で起きた殺人事件の遠因にもなっていることだ。模倣犯もかなり出ているところではあるけれど、調べたところ、オリジナルの差出人は明確に標的を定め、場合によっては複数回継続して不幸の手紙を頒布している節がある。これ以上、凄惨な事件を起こさせないためにも、差出人を突き止めて不幸の手紙の根源を断つとともに、模倣については大々的に何らかの手を打つ必要がある。ちなみに後者については鋭意検討中だ。

 そして、不幸の手紙の調査の過程で、最近、群咲に流入しつつある麻薬とこれに関連した若者の薬物中毒問題を知ることになったんだけど、調べを進めると、奇抜なファッションの謎少女に襲撃された。相手は九波と渡り合うほどの手練れ、ぽっと出の非合法組織が雇えるような代行者エージェントじゃない。敵の正体も規模も依然不明だけど、一筋縄ではいかない相手であるのは間違いないね。警戒と同時に調査も並行して進めることとする」


 僕が説明を一通り終えるタイミングを待って、九波が捕捉を加える。


「恐らく、昂良さんを襲ったのは犯罪請負人アンダーテイカーです。あらゆる違法行為の代行を生業にしている裏社会の仕事人達で、あの女の子はその中でも凄腕でしょう」


 ミサと花乃は、もううんざりといった態だった。


「強盗、誘拐、諜報、殺人なんでも飯のタネにする節操なしどもだ。それだけに手段を選ばない恐ろしさがある」


「私達も何度か仕事で遭遇しててね、天敵って言えばいいのかな。私、あの人達のこと苦手」


 気が早い夜映は敵意剥き出しで臨戦態勢である。


「どんな兇賊きょうぞくや人道にもとる恥知らずであろうと私は関知しませんが、坊ちゃんに対する蛮行は看過できません。その小娘には命を以て償っていただかないといけませんね」


「同感です夜映さん! 容赦は要りません! 兄さんに危害を加えるなんて許し難いです!」


「二人とも過激やなぁ。ほらラムネ、自制心、忘れんといて」


 “一旦、立ち止まって考えよう”の言葉が一切似合わないあの素晴に諭されるなんて、ラムネと夜映の猪突猛進コンビには辟易してしまう。


「とにかく、麻薬問題を解決するためにも、僕は引き下がるつもりはない。謎少女とは敵対せざるを得ないところだし、あっちも僕や玄翁衆に対する個人的な執着心があるっぽいから、各自、警戒を強めつつ、謎少女の素性についても調査を進めてほしい。それとこれだけは言っておきたいんだけど――これは柊家による鬼退治だ」


 一同は一斉に僕を見た。


「不幸の手紙は、この町の住人達に疑心暗鬼という名の鬼の脅威をちらつかせ、不安を煽ってに駆り立てている。悩める若者達を薬漬けにして荒稼ぎしている不届き者達は、原料たるハカマオニゲシを栽培し、麻薬を大量にこの町に持ち込もうとしている。この二つの“鬼”を退治することが目下、僕達の最優先事項だ。みんなも知ってのとおり、柊家は節分のルーツでもある追儺ついなの儀式で鬼を払う役目を帯びた『方相氏ほうそうし』の末裔。そして家名でもある柊は古来より邪鬼払いの象徴として位置づけられてきた聖木。つまり、僕達がこの鬼退治に打って出ることは最早、宿命と言っていい! 柊家の全力を挙げて、この町に蔓延る“鬼”を退治する。みんなの力を貸してほしい」 

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