第40話 トム

 シュナに謝罪をしてから数分後、ヒュームが登校してきた。俺の席の近くでグルドと会話していると、ヒュームは少し驚いたように1度止まり、また席へと歩き出した。


 ヒュームにもお礼言わないとなぁ……

 ヒュームは静かに席につき、今日の授業の支度を始めていた。

 しかし、やっぱり俺とグルドが話しているのが気になるようで、つんつん、と俺の方を叩いてきた。


 俺はぐるり、と身体を回転させヒュームの方を向いた。


「……仲直り出来たのか……?」


「まぁ……うん。あの時の言葉のおかげで……俺の間違いに気が付けたよ。ありがとう」


 それが小さな声でお礼を言う。すると、ヒュームは嬉しそうな顔をして、「ジュースな」と小声で言って見せ、何事も無かったかのように授業の支度を再開した。


 ヒュームもこんなこと言うんだなぁ……友達になれた証拠……かな?

 意外な一面を見せるヒュームに驚きつつも、グルドの方にまた、身体を戻す。


 ラストはトムだけか……って遅いな相変わらず。朝のHRホームルームまであと約2分。果たして彼は間に合うのだろうか。


 1分ほどが経ち、サラン先生が教室に入ってくる。それと同時にみんなが席へと戻って行った。


 キーンコーンカーンコーン


「んじゃぁ……出席とるぞ……」

「あっぶねぇ!! ギリセーフ!!」

「ギリアウトだ」

「なんで!!」


 教室内に小さな笑いが起きる。トムだ。やっぱり彼は何か周りの者を惹きつける力がある。俺も惹き付けられた人の一人だ。


 でも、遅刻されちゃったから……謝れなかった。あとはトム。1番大事なトムだ。トムはシュナと同様、俺から距離を置いてしまった人物。そして、俺を友達と言ってくれた人だ。


「今日は謹慎組も帰ってきたな。てな感じで今日から中間テスト一週間前だ。ちゃんと準備するように。バッドとグルドは課題を出すように」


 サラン先生に課題を出し、午前の授業が進んで行った。そして、昼休み。心做しか休み時間もグルドとは話さなかったが、トムもまた、今日はソワソワしていた。


 そろそろ行かないとな……よし。行こう。立ち上がれ、俺。


 勢いよく立ち上がった俺は、トムの元へと向かおうとした。しかし、


「……あれ?」


 さっきまでいたはずのトムの姿がなかった。おかしい……どこに……

 その時だ。


「バッド! 今日……飯食わねぇか!!」


「うわぁ! ……って飯?」


「おう。そうだ」


「い、いいけど……」


 トムにいきなり肩を組まれ、飯に誘われた俺は何が何だか分からず、とりあえず一緒に食堂へと向かった。


 なんとか席を見つけ、昼ごはんを買いに行こうとしたその時だった。


「バッド何食いたいとかあるか? 一緒に買ってくるから」


「え、あ、じゃあ……ゴスイうどんの普通盛りでお願い。……お金は後で渡すね」


「うどん把握! ちょっと待っとけよ!」


 そう言ってトムは1人で食券機の方まで行ってしまった。

 トムの圧に押されて忘れていたが、俺は今ちゃんと気まづい。それはあっちも同じはずだ。でも何故だろう。今飯に誘われたのは。考えれば考えるほど……わからん!


 ぐぅ〜〜


 ……とりあえず待つか。


 ──────


「ちょ……何これ!!」


「来る時何回も落としそうになったぜ……」


 トムが持って帰ってきたトレイの上には、大盛りうどん2つに特大パフェであった。


「特大パフェが今日からに早まったって書いてあったから……俺の奢りだ! 食え! うどんも大盛りにしといた! 奢りだ! 食え!」


「ちょ、待ってよ。なんでそんないきなり……」


 その時、俺は思い出した。やらなければいけないことを。そう。謝らなきゃ。また友達に戻るために……


「マジですまんかった!!」


「……え?」


 先に謝ったのはトムの方であった。


「バッドのこと1人にしちまって……でも、グルドが言ってたのも事実で……魔法使えないバッドを少しいじっちまって……でも、やっぱ死ぬほど後悔したんだ。だからすまん。これで許してくれ!」


 俺は唖然としてしまった。彼から放たれた柄にも無い行動に。でも、確実に分かるのは、俺よりも大人だったということだった。


「いやいや、謝るのは俺の方だよ! 突き放しちゃって……ごめん。トムがそんなにしっかり考えてくれてるなんて思ってもなくて……ごめん」


「なんで謝んだよ! 1人は辛いだろ!?」


「大丈夫だよ。もう、1人じゃないから。トムもグルドもいる」


「仲直りしたのか!?」


「……まぁね」


「それ、早く言えよ!!」


 俺とトムは大笑いした。そして俺は救われた。彼の温かさに。本当に俺はバカだ。こんな良い友達を失うところだったんだ。本当に……バカだよ。


「……でも、これひとりじゃ食べれないよ……?」


「……食っていいか?」


「うん。一緒に食べよう」


 トム。彼がいるだけで場が明るくなる。人が幸せになる。これはたまたまじゃなく、彼の力なのかもしれない。そんな力に俺は救われてしまった。


 自分を、周りを救うために始まったであろうこの二周目チャンス。今まで救われてばかりじゃないか。

 ……次は。次からは。俺が救う側の人間になるために。もっともっと、もっともっともっと。正しい努力をしよう。


 こうして、俺は友達と学食を食べた。



 その頃グルドは────


「ねぇ、グルド!? 今日から特大パフェスタートしてるけど早く奢りなさいよ!」


「エアリスちょっと待てよ! 今日はそんなに金持ってないってば!!」


 適当に吐いた言葉に追い詰められていた。


「どこにいるんだよバッド! トム!」



──第3章 完結──

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