第38話 生徒指導

「……ごめんなさい」

「……すいませんでした」


 俺とグルドはあっさり捕まり、生徒指導室に連行されてしまった。


「どうしてあんな高出力の魔法を使ったんだ……あ、サラン先生。お忙しいところすみません」


 こっぴどく叱られていると、サラン先生が鬼の形相で部屋に入ってきた。

 ……流石に怒ってるかな。いや、怒ってるだろうな……


「カイリさん。後は私に任せてください」


「はい。サラン先生からも言っといてくださいね!」


 そう言って俺たちを捕まえた先生は部屋を急いで出ていった。

 まぁ、あそこまで怒るのも分かる。俺でもわかる。


 魔力量トップ2の最大出力だ。しかも明日は休日。めんどくさい仕事を増やされたらたまったもんじゃないだろう。


「バッド、グルド」


「はい……」


 俺たちの名前を呼んで目の前の席に座る先生から目を逸らしながら返事をする。あー……怖い。


「……魔法を使ったのはどっちだ」


 その質問をされた瞬間。脳内に選択がよぎった。もちろん、どちらも使っている。でも、初めに使ったのはグルドだ。恐らくグルドの方が重い罰になるだろう。


 でも、それは納得がいかない。今まで魔法を使えなかった俺が、彼のおかげで使えるようになった。しかも、俺は目的なんかなくグルドを吹き飛ばした。


 あとは……今までの分だ。これで許してもらおうって訳じゃないけど、これくらいはさせてくれ。


 ここは……よし。退学さえしなければ……


「「俺が使いました」」


「「……へ?」」


 俺がグルドを庇おうとそう発言した時、全く同じセリフをグルドも言い放った。

 ……ミスったぁ!!! どう考えても嘘ってバレた……終わった……


「2人とも使ったんだな」


「はい……」


 サラン先生はその返事を聞くと同時に席を立ち、俺たちの座る席まで歩いてきた。目の前まで来る。その迫力に俺たちは圧倒されていた。


 俯き、顔なんて見ることは出来なかった。その時だった。


「……2人とも無事で良かった」


 そう言いながら、先生は俺たちの頭をゴシゴシと撫でた。


「……え?」


「しかもバッド。魔法……使えたんだな」


「は、はい……」


「そんでもってグルド。ありがとうな。バッドのこと気にかけてくれて」


「あ、はい……?」


 いつもより優しい口調の先生の顔をやっと見る。その表情は安堵の表情であった。


 先生も色々と思うところがあったのだろうか。俺が魔法を使えなかったこと。クラスでの居場所を失ってしまったこと。グルドの思いが上手く伝わらず仲を悪くしてしまったこと。


 本当に俺っていい迷惑だな……思い出せば出すほど酷いことをしていた。


 俺は立ち上がり、先生に向かって叫んだ。


「本当にありがとうごさいます!! あと……校則違反してすいませんでしたっ!!!」


 俺は腰を綺麗な90度に曲げ、お礼を言い、謝った。その様子を見て、グルドも立ち上がり、「本当にすいませんでしたっ!!!」と、一緒に謝った。


「……ははは。頭上げろ」


 優しくそう言ってくれたサラン先生に甘え、俺たちは頭を上げた。その時だった。


「「痛い!!」」


 俺たちの頭にゲンコツが落ちた。


「な、何するんですか!!」


「うるさいバカ。違反は違反だ。もっといい方法あっただろ」


「ごめんなさい……」


「2人は1週間登校禁止で追加課題をやってもらうからな」


「「はい……」」


 やっぱりそうだよなぁ……でも、退学にならなくてよかった。この停学は俺にとって得たものの方が多い。そう考えよう。


「でも、まぁ……お前らみたいなバカ、嫌いじゃねぇよ。そんな怒ってねぇから、あんま気負うなよ」


「「……はい! ありがとうございます!」」


 そう言いながら先生はドアまで向かった。

 やっぱりサラン先生は良い先生だ。怒らないから良いって訳じゃない。なんか、こう……説明できないけど。人として尊敬できる、すごい先生だ。


「……課題出さなかったり適当にやったら……分かってるよな?」


「「はい……」」


 こうして、俺とグルドは1週間の謹慎処分を言い渡され、大量の課題をやることになった。


 その日の夜。寮でのこと。


「いやぁ〜やっと気まづくない! 居心地いいなぁ部屋は!」


「本当に……ごめんね」


「だから謝んなって! 多分そんな感じでトムとかに謝ってもまた気まづくなるだけだぞ」


「そうだよね……うん。よし。頑張るよ。しっかり準備して誠心誠意込めて謝るよ」


「謝るのって多分だけど……準備するもんじゃねぇぞ?」


 寮での会話は何日ぶりだろうか。やっぱり、グルドは何も変わっちゃいなかった。優しくて、友達思いで、少しバカだけどちゃんと考えてて。


「まぁ、俺が謝るの手伝ってやるよ」


「……いや、大丈夫。多分、いや絶対俺一人の方が良いと思うんだ」


「そんなに俺……邪魔か?」


「いやいや、そうじゃなくて。グルドに言わされたみたいに思われちゃったらみんなも嫌な気持ちになると思うし、ここはやっぱり俺の力で仲直りしたいんだ」


「……そっか。じゃ、早くみんなと仲直りして飯でも行こう」


「……うん!」


 それから1週間。地獄の課題をグルドとやる日々が始まった。


「課題多すぎるよ!!! サラン先生!!!」




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