第10話 修行

「もっと腰下げろ! そんでもって俺の動きを読め!」


「くっ! はい!」


 毎日来ていた洞穴で修行は始まった。

 木刀を使った修行は基本実践形式で進んで行った。


「おそーい!」


「うわーー!」


 痛てて……こんなに人って簡単に吹っ飛ばされるのか?


「ちゃんと腰下げてますし、ちゃんとストローグさんの動きも読めてはいます。でも、全く自分の攻撃が刺さる気がしません……」


「動きは子どもにしては悪くないんだけどな。常に平均点しか出せてねぇんだよ」


「平均点しか?」


「そうだ。お前は常にゴールを決めちまってる。腰を下げよう、俺の動きを読もう、ってな」


 確かに。俺は動きを読んだあとの自分のするべき動きが分かっていない。

 って言うか分からないんだ。ストローグさんは常に俺の上の動きをする。


「相手を読んで動く。その動きに対してどうしてくるかをまた読む。それの繰り返しでやっと戦いになる」


「なるほど……もう一本お願いします!」


 剣術なら2年間しっかり学んだつもりだった。でも、たかが2年。やる気のなかった俺がストローグさんほどに強くなっているわけがなかった。


 今ならやれる。やる気もある。未来も分かる。やるしかないんだ。強くなるしかない。


「うわぁーーー!」


 こうして2ヶ月半の修行が始まった。


 ──────


 数日後。またまた洞穴にて。


「ぐへっ!!」


「初めよりは良くなってきてるぞバッドよ。はははは!」


 何となく分かるようになってきた。視野を広く持ち、相手の動きでいちばん注意しなければいけない所を観察する。


 今ならストローグさんが木刀を持っている右手。この手さえ注意してれば飛ばされることは無い。まぁ、実力が無ければ一本取ることもないんだが。


「てか、ストローグさん。ひとついいですか?」


「ん? なんだ?」


「魔力って剣とかに纏わせたりできるんですか?」


「あぁ、ちょっとそれは特殊でな。一応出来るぞ」


 魔力を纏わせる。魔力は魔法を使うためだけにあるものだと思っていた。でも、ストローグさんの戦いを見て分かった。魔力にも色々な使い方がある。前世に俺がケイトを救った時のように。


「それって僕でも出来ますかね?」


「あんまりおすすめしねぇな」


「どうしてですか?」


「俺は魔力量が少ないから魔法は基本使えねぇ。だから少量で使えること考えてここにたどり着いたんだ」


「俺は魔力量も多くて、見た感じストローグさんのそれはめちゃくちゃ強いように見えるんですが……」


 少量で出来るなら俺ができないはずがない。


「言っておくがこの技は調節が死ぬほど難しい。簡単に全部魔力が出ちまう。ってことはすぐ死んじまうってことだな」


 難しいのか……ならやらない方が得策か?


「ストローグさんはどのくらいで体得したんですか?」


「んー、魔法科落ちてからちょうど卒業するくらいだから3年弱ってとこかな」


「3年!?!?」


 3年は無理だ。多分俺なら5年はかかる。


「まぁやりたいってんなら教えるぞ。これは魔法じゃないから法律は破ってねぇしな。どっちにする?」


「でも……ストローグさんが3年かかったなら俺は……」


「その3年は前例なしの3年だ。今なら俺って言う前例がある。先生もいる。これでどうだ?」


 そういう事か。俺は新しく産む側じゃなくて受け継がれる側。


 ストローグさんの作った力。欲しい!


「お願いします! 俺にその力……教えてください!」


「じゃ、明日からは実践に合わせて魔力の修行だ」


「はい!」


「あ、今日から筋トレメニュー追加だからよろしくな」


「はい……」


 腹筋背筋スクワット100回を課せられた俺は、重たい足を頑張って動かして家へと帰った。


 ──────


「まず、この水の流れに合わせて魔力を流してみろ」


「はい……」


 俺は近くの川で修行をしていた。

 川に両手を突っ込み、魔力を集中させる。


「流す流す流す……」


 来てる来てる! 流れてる!


「ストローグさん!」


「あぁ。しっかり流れてる。じゃぁそれ止めて見ろ」


 両手に気を集中させ、止めろと願う。


「止まれ止まれ止まれ……止まれ止まれ止まれ! 止まりません!」


 やばいやばい! 魔力全部流れちまう……どうしよう!


「ははは! 難しいだろ!」


「ちょ! どうすればいいんですか!!」


「死ぬかと思ったら手出せば止まるぞ」


「は、はい!」


 俺はすかさず川から両手を出した。


「今の修行は魔力を流したり止めたりする修行だ。これが第一段階。初めから流れがある物に魔力を流すのは簡単だが、止めるのが難しい。その修行だな」


「……頑張ります」


 俺は先が見えない中、気合いを入れ直し、もう一度川に両手を突っ込んだ。


「はえぇぇ……」


「今日はこれくらいだな」


 魔力を使い果たした俺は千鳥足で家へと帰った。


 ──────


「バッド君……大丈夫?」


「あ、う、うん。大丈夫大丈夫〜」


 俺は筋肉痛の身体を必死に隠しながら、プルプル震える右手でグッドマークを作った。


 こんな状態でデート……ごめんなさい! ケイトさん!


「じゃ、今日はゆっくり座れる所行こっか」


「ごめん……助かる……」


 とぼとぼ歩みを始め、1週間ぶりのデートが始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る