深海の羽衣〖かがやく密箱〗①


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 目を開けると、そこは、祖母の家の土間だった。これまで何度となく立っていた場所だけれど、これまでとは様子が違う。


 この家は、私が三十代のうちに壊されてしまい無くなってしまっている。それなのに、ここに立っている私自身は五十代の私なのだ。箱の中だから何でもなのかもしれないけれど、これまでの記憶の箱ではそういうことがなかっただけに、違和感がある。


 家の中も、廃墟のようにひっそりとしている。家から生気が感じられない。


「おや、帰っていたのかい。」


 背後の戸が開き、明るい声が聞こえた。それと同時に、家に生命が宿り輝きだした。驚いて振り向くと、スイカを抱きかかえた祖母が笑顔で立っていた。


「暑いねえ、スイカ、食べるかい? ちょうど、井戸で冷やしてきたところなんだよ。」


 祖母が、暑い、と言ったとたんに気温がぐんぐん上がり、真夏のような暑さになった。この箱は、何かのきっかけで様々に変化するのだろうか。それが、この箱のルールなのだろうか。これまでの記憶の箱とは、何かが大きく違うのかもしれない。それなら、まずはこの箱のルールに従おう。


 私は、祖母に微笑んだ。


「ええ、ぜひ食べたいわ。ばあちゃんのスイカ、何年ぶり、いえ、何十年ぶりかしら!」


「今、切り分けてあげるねえ。」


 私は濡らした布巾ふきんを持って居間に行き、テーブルを拭くと座布団を敷いた。台所に戻ると冷蔵庫から麦茶を、小さな食器棚から二個のグラスを取り出してテーブルに並べた。そして祖母を待った。


 何から考えればいいのか分からなくなるほど、考えることがたくさんある。かがやく密箱のルール、羽衣を探す方法、そして──、


 テーブルの上には、二冊の手帳がある。わたしは、オレンジの手帳を手に取り、開いた。



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 畑がら ババがスイカば採ってきて

          汲んだ井戸水 スイカ浮がべる

(畑から、祖母が西瓜を採ってきて、

          組んだ井戸水に西瓜を浮かべる)


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 井戸水で冷えだスイカば手渡して

         わい、めじゃめじゃと笑う我の孫

(井戸水で冷えた西瓜を手渡した。

        わあ、美味しい美味しいと笑う、私の孫)


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