モテると聞いてダンジョン配信を始めた結果、本当にネットで滅茶苦茶注目されるようになったけど女性が寄ってこないんですが、嘘でも教えられたんですか?

斎藤 正

本編

第1話

「彼女欲しい……」

「毎日言ってね?」

「いつものことだろ。無視しとけ」


 酷い……友人たちからもこの扱いなんて俺は本当に泣いてしまいそうだ。

 俺はこの春から大学の三年生になった八重樫やえがし颯太そうた。彼女が欲しいと中学1年生の時から言い始めて、既に8年。俺に彼女ができたことは……ない!


「なんでぇ……お前らもオタク趣味の癖に、なんでお前らは彼女いるんだよぉ……」

「いや、逆になんでお前にいねぇんだよ」

「良いヤツで終わるからだろ」


 こ、こいつ……友人の癖に言っていいことと悪いことの区別もつかないのか!

 女子からの「いい人だとは思ってるんだけどね」を俺が人生で今まで何回聞いたと思ってるんだ!


「てか、モテたいならもっと頑張らないと駄目だろ。そもそも自分に自信なさすぎ」

「じ、自信かぁ……どうやれば自信つく?」

「あれじゃね? 最近流行りのとか? お前、ダンジョン潜れる資格持ってただろ?」

「も、持ってるけど……関係ある?」


 ダンジョンは、世界中に数多く発見されている未知の領域のことを言う。なんか空間が捻じ曲がってるとかなんとかで、内部の広さが外から観測できる大きさを遥かに超えているとからしい。

 そのダンジョン入るには色々な試験に合格して資格を持つ必要があるんだけど、俺はその資格を持っている。なんでかと言うと……運転免許証並みに身分証明に使えるからだ!


「知らねぇの? ダンジョン配信者ってモテるらしいぜ?」

「マジ!? 俺、今日からダンジョン配信者になるわ!」

「行動が早すぎるだろ」


 八重樫颯太、ここにダンジョン配信者となることを誓います!


「あー……でもダンジョン配信って普通に重労働だし、滅茶苦茶時間食うからほぼ専業じゃないとできないらしいけど」

「そ、そうなのか……なら大学辞める」

「はっや!?」


 だって、俺は……AO入試で適当に入れそうな大学に入っただけで、この大学でやりたいこととかがあった訳じゃない。結果的にはこうして友達もできたから無駄じゃなかったんだろうけど……ダンジョン配信とどっちかって言われると、3年いてモテないから大学を切る。


「いいの?」

「いい! 俺、去年必修落して留年しそうだからいっそのこと辞める!」

「そ、そうか……大学を辞めても友達だからな?」

「ありがとう! さっさと退学届け貰ってくる!」


 善は急げって言うしな!


 つい、その場のノリと勢いだけで大学を辞めてダンジョン配信者を始めるなんて言い出してしまったけど、丁度いい機会だったかもしれない。

 小学校中学校と宿題だけをやり、塾に行くこともなく適当に授業を受けてテストをやって、自分の学力で行ける高校に普通に入り、周囲の人たちが大学に行くからと奨学金を借りて自分も大学へとAO入試で入った。ただ、俺にはやりたいことなんて全くなく、ただ漠然とした未来としてサラリーマンのように働いて、適当に結婚して生きていくんだって考えてた。

 その考えが間違っていることに気が付いたのは、俺が大学二年生になった時。周囲の友達が、将来のことを語り始めた中でも……俺の心は全く宙ぶらりんなままだった。

 だからじゃないけど、俺はなりたいと思ったダンジョン配信者になろうと思った。不純な動機からの言葉だったけど、自分がなりたいと思ったものに一直線で向かうのがこんなに気持ちいいものなんて……誰も教えてくれなかった。だから俺は、自分の思うままに進んでみたいと思ってしまった。なんてことはない気の迷いかもしれないけど、それでも自分を追いかけての失敗だったら……未来の自分はきっと許してくれると思ったから。



「……ダンジョン配信ってどうやればいいんですかね?」

「それは……こちらでは案内しておりませんが」


 そりゃあそうだよな。こんなことダンジョンを管理している国の人に言ったってしょうがないよな……ダンジョン用の資格が使えるかどうか確認しに来たのはいいけど、配信方法なんて全く考えてもなかった。

 とりあえず受付から離れて、次の手を考えよう。一応、俺が持っているダンジョン用の資格は使えるらしい。とは言え、資格の更新が迫っているからすぐにでも更新した方がいい的なことを言われたけど。


「なんでも調べればいいか」


 この世の中、調べれば大抵のことは出てくるんだから最初から調べればよかった。

 まず、ダンジョンの配信をするならカメラが必要。それはそうだろうな……そもそもそれがないと配信なんてできる訳がないんだから。えーっと……ダンジョン内で使える魔力を使用した電波の送受信をする携帯が必要……最近の携帯なんて全部そうだろ。

 資格が必要。ダンジョン入るんだから当たり前だろ。最後に……時間と金?

 時間はあるけど金はないなぁ……金を稼ぐ方が先だったか。


「ん?」


 金を稼ぐためにバイトでもしようかと思ったけど、受付の近くにダンジョン内の魔石を買い取る広告が出てる。というか、これがダンジョンに潜る人の主収入だったな……そうだ!

 俺はまだダンジョン初心者だけど、ある程度金を稼ぎながら自分の腕前を磨いて、そこから配信者としてやっていけばいいのでは!?

 俺は実は天才だったのかもしれない。と言う訳で、まずはダンジョンを攻略できるだけの実力を身に着けるところからの始まりだな!




 なんてやっていたのも、もう半年前のことです。

 大学を衝動的にやめて、ダンジョンを攻略して魔石なんかを回収して国に売りつける仕事……探索者になってから半年です。

 なんか……やたらと才能があったらしく、ダンジョンを管理している国のダンジョン攻略庁の人から物凄く褒められたけど……あんまり実感がないです。なにせ、ひたすらソロで潜っているだけだから。

 いや、ネットで見たから大体のことはわかってる。探索者になって半年ぐらいでどれくらいのランクまで上昇するのが普通なのか、みたいなのは俺もわかってるんだ。だけど、俺は全く一致しない感じに強くなってるから……イマイチ信用できない。


 探索者には基本となるランクが存在して、単純にわかりやすくするためにGからSまでのランクが存在している。Gランクの探索者は本当に初心者で、ゲームで言う所のチュートリアル状態。チュートリアルが終わると自動的にFランクに上昇して、そこから自分で上げましょうって話らしいんだけど……普通の人は半年でFからEになるかならないからしい。

 俺? 今、探索者になってから半年経ってSです……どうしてこうなった。


「いやぁ……凄いですね」

「は、はぁ?」


 ダンジョン庁の公務員で、探索者用のトレーナーでもある「木崎きざきあかり」さんに褒められてしまった。俺はとんでもない才能を持っているらしい。


「でも、俺……上手く魔法使えませんよ?」

「その『剣』があれば充分ですよ」

「そ、そうですかね?」

「はい。身体能力も理解不能なくらいに高いですし、魔法が使えないだけで魔力の応用もとても上手です」


 それは……褒められているのか?

 なんか、探索者ってのは基本的に魔法を遠距離から放ちながらリーチの長い槍とかを使うのが基本らしい。魔力で生み出された銃弾を放つ銃器とかもあるらしいけど、高価だからみんなあんまり使わないって。

 魔法が使えない奴なんて基本的には落ちこぼれで、ダンジョン庁の人からも遠回しに探索者はやめておいた方がいいって言われるらしいんだけど……俺は剣一本で成り上がってしまった。


「自信を持ってください! 今までのダンジョン攻略の実績と合わせたら、Sランクでもちょっとランクが足りないくらいですよ!」

「いや、Sランクより上はないですよね?」

「はい!」


 この教官のあかりさん、基本的には良い人で俺も尊敬しているんだけども……なんとなく本質が脳筋と言うか。元々は探索者だったらしくて戦いの頭の回転は速いのに、日常ではこんな風に熱血脳筋みたいなことばかり言う人なんだ。

 いや、脳筋なのは教官だけじゃなくて……ダンジョン庁の人たちが結構みんなそうで……正直に言うと困ってる。

 俺は……女性にモテたくて探索者になることを選んだんだ!


 ダンジョン庁の人にまでお墨付きを貰ってしまったけど、俺の当初の目的はダンジョン配信者になることだ。ダンジョン配信者になればモテるって聞いたから始めようと思ったのが最初だけど、今になって冷静に考えるとそんな訳なくないか?

 いや、育ての祖父母にはやりたいことを自分で決めてやればいいよと言ってもらったけど、普通に考えてダンジョン配信者になって人気になっても俺がモテる理由にはならなくないか?

 最近冷静になってきて、そんなことばかりを考えているのだが……俺は大丈夫なのだろうか。幸いと言ってはなんだけど、最速でSランクになった実績もあって金はそれなりに入り始めている。奨学金を返しながらも高そうなダンジョン配信用のカメラを買うだけの金もできている。こうなればモテようがモテなかろうが、俺は初志貫徹を目指してダンジョン配信を始める!


「……視聴者、0」


 当たり前だけど、なんの知名度もない人間が唐突に配信を初めていきなり視聴者が大量に付く訳がない。そもそも、ダンジョン配信者なんて腐るほどいるのに、その中でも一握りの成功者になろうとする方がおかしかったのかもしれない。

 今は新宿にあるダンジョンに潜っているんだけど、俺の配信にやって来てくれるような奇特な視聴者は存在しなかった。


「うぅ……仕方ないから、このまま進むか」


 この新宿のダンジョンは「悪魔の巣窟」という名前を付けられたダンジョンだ。名前の由来は、その名の通り悪魔のような見た目のモンスターしか出現しないから。悪魔のような見た目と言っても、綺麗な女性のサキュバスみたいなモンスターじゃなくて、もっと黒い見た目の角が生えて腕が四本ぐらい生えている化け物みたいな奴だ。折角なら、俺も綺麗な女性のような見た目のモンスターが現れるダンジョンに行きたかったけど、そもそも人型のモンスターなんてのは出会うことが殆どない上級のモンスターなんだとか。

 ちなみにこの「悪魔の巣窟」は、危険度がCランクとされているそれなりに危険なダンジョンだけど、Sランクの俺は問題なく突入できる。

 ダンジョンの危険度は、探索者のランクと一緒でGからSまで用意されている。らしいけど、未だにSランクなんてつけられたダンジョンはないらしい。ダンジョンの危険度とは別に、存在が確認されたモンスターごとにも危険度がついているらしいけど、そっちはあんまり詳しくないので知らない。


「おぁっ!?」


 配信用のカメラのことばかり気にしながら歩いていたら、通路の曲がり角から四足歩行の悪魔が飛び出してきた。カメラは高性能なものを買っただけあり、こちらの魔力を識別して常に背後に回ってくれているので無事そうだ。

 この世のものとは思えないような不協和音を口から吐きながら、黄土色の悪魔はこちらに狙いを定めていた。不意打ちは怖かったけど……問題ない。この程度のモンスターだったら木崎あかりさんの方が絶対に強い。


「ふぅ……しっ!」


 悪魔が足を動かした瞬間に腰に差してあった日本刀を抜刀して、頭から身体を縦に両断する。俺にできるのは、剣を振るうことだけ。魔力で底上げした身体能力と、魔力によって研ぎ澄ませた剣の切れ味だけで戦うのが、俺の戦闘スタイルだ。探索者として落第点もいいところなんだけど、底上げした身体能力が途轍もなく高いのと、剣に魔力を通すという一点だけで見るととんでもない才能を持っているということで、Sランク探索者にして貰っている。

 さっきの悪魔は、多分だけど階級にするとCランクぐらいだろう。配信用のカメラはバッチリ回っているので、家に帰ってからちゃんと検索して、さっきの悪魔がどれくらいの強さだったのか調べておこう。


 この時の俺は、視聴者が0であることにショックを受けたまま放置していたので、それに気が付くことがなかった。カメラはもはや自分の行動を家に帰ってから見返すためだけの道具にしていたから、気が付くのにも遅れてしまった。


:マジ? 今のアークデーモンじゃん

:Bランクを瞬殺したな、今

:切り抜いてSNSに上げとこう


 配信タイトルの「Sランク探索者」という文言に釣られて、ほんの少しの視聴者がやってきていたこと。そして、そのほんの少しの視聴者が俺が戦っていたモンスターの情報にたまたま詳しかったこと。

 全ては偶然でしかなかったが、全てが積み重なった瞬間に……俺の人生は大きく変わることになった。

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