006 クールな看守に冤罪で死ぬまで監禁され続ける

「(ギイッ…)

元気かい?

ふっ…いつも通り辛気臭そうな顔だね、君は。

『こんな牢屋に閉じ込められて元気なわけがない』か…それもそうか。

しかし有罪が確定してもう一か月だ。

そろそろ受け入れたらどうだい?

君がすべての罪を認め、洗いざらいすべてをはけば、私の権限で少しくらいなら、罪を軽くしてあげることも可能だぞ?

窃盗、横領、傷害…

何十という罪を重ねた君は、判決によって一生豚箱の中で暮らすことが決定している。

さすがに釈放や放免というわけにはいかないが、待遇をよくすることくらいならしてやってもいいのだが。

…不機嫌そうな顔だね。やっぱり自分の罪は認めてはくれないか…

…冤罪、ね。

君はそう主張するが、証拠は十分すぎるほど揃いにそろっている。

君の指紋や持ち物による物証、何十人という目撃者の証言など、これまで捕まらなかった方が不思議なくらいの証拠がすべて、君の仕業であることを証明している。

百人が見れば百人全員、君の罪だと疑わないだろうくらいの証拠が、だ。

…でっち上げねえ…?

でっち上げだと言うなら、犯人はいったい誰なんだい?

君の罪をでっち上げたとして、誰が一体得をするというのかな?

上流階級や貴族、議員に対してならばメリットになる人はいるかもしれない。

けれど君は単なる一市民だ。

庶民である君を冤罪で嵌めたところで、得する人間なんていないだろう。

…ほら、いつまでも落ち込んでいないで、私が持ってきた食事でも食べたまえ。

牢屋において、食事は唯一の楽しみだと君も言っていたじゃないか。

…ん、いつもと食事が違うって?

…ふふっ、聞いて驚くがいい。今日の食事は私の手作りだ。

私が丹精込めて作り上げた一品の数々だ。味わって食べるといい。

…たまにはこういう食事もいいだろう。

君はずっと牢屋の中で暮らすわけだからね。私からのささやかなプレゼントさ。

どうだい、すべての罪を認める気になったかい?

いやいや、冗談だ冗談。

せいぜい楽しんで食べるといい」




「(ギィ…)

やぁ。調子はどうだい?

…ん、ああ。確かに食事や聴取の時間でもない。

それなのに私が来るのはおかしい、か。

…君の推察通り、食事や聴取できたわけじゃない。

君に朗報だ。君は今日限りで、ここから出てもらう。

といっても、もちろん無罪放免という意味じゃないがな。

君にはここを出てもらい、別の場所に移動してもらう。

…どこに移動すると思う?

ふふ。心して聞け。

君には、私が所有する山奥にある別荘へと移ることになったんだ。

私が上層部に掛け合ってな、私が逐一君のことを監視することを条件に、移動が許可された。

まあ私の別荘とはいったが、半分は国の所有物でね。

犯罪を犯した上流階級に、不自由な暮らしをさせないために作られた家一軒の建物といったところだ。

いつ必要になってもすぐに使えるように、私が管理を任されてね。そこに移動するわけさ。

もちろん、牢屋であることには変わらず、そこから出ることはかなわないが、この牢屋で暮らすよりははるかに豊かな生活ができるだろう。

…ん、どうしてそんなところに移動できるのかって?

だから言っただろう、私が掛け合って許可をもらったって。

本来なら一庶民の入ることができない場所だが、私はそれなりの立場にいる人間だからな。許可もたやすく取ることができた。

…そういうことを聞きたいんじゃない?

…ふうむ。ではこういえば理解できるのかな?

これは『アメ』だよ。

君は庶民という身でありながら、数々の罪を犯して投獄された。

しかしその罪を全否定し、今もなお冤罪だと主張し続けている。

…君の主張が上層部にとっては気に入らないらしくてね。

『罪人は罪人らしくするべきだ』と、頭の固い連中が言っているんだよ。

そこで、あえて『アメ』を与えることで、少しは考え直すかもしれないということだ。

ま、私からすればそんなことしても意味がないと思うのだが、しかしいつまでも何もしないというのも私の立場として体裁が悪くてね。

そこで今回の移動ということになったわけだ。

ま、私からの選別だと思ってくれてもいい。君は何も考えずに、ぬくぬくと享受しても構わないさ。

………

ふ、そうか。移動を希望するか。

ま、こんな狭い牢屋よりかはるかにましだからな。賢明な判断だ。

…では、さっそく移動を準備を始めてくれ。

今日中には出発する予定だから、なるべく早くな。

といっても、この牢屋じゃ、そんなに準備することもないだろうが。

では、またあとで会おう。

(ギィ…)

………

(コツ、コツ、コツ)

(コツ、コツ、コツ)

(コツ、コツ、コツ)

………

…やはり、何も気づいていない、か。

君の冤罪を作り上げたのが、この私だということには。

私の思い通りに動く人間はこの国に何十人、何百人といる。

私が一声上げれば、人ひとりに冤罪をかぶせるくらいわけがない。

君の罪を証明する証言者は、嘘偽りの証言であることを墓の下までもっていくことだろう。

これで彼は、私のものだ。

私だけの、もの。

たった数か月とはいえ、狭い牢屋に閉じ込めてすまなかったよ。

でも、それも今日でおしまい。

今日からは、私の家で君と共にいられる。

君に何をしようとも、看守である私の思うがままだ。

ふふっ。

ふふふっ。

ふふふふふふふふっ」

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