第31話 さあ、ドラゴンと可愛い魔物を探そう!
宿に戻った一行は、荷物をそれぞれの部屋に置くと、食堂に集まった。
夕食の時間で賑わう店内の一角に腰を下ろし、木製のテーブルに地図や紙を広げる。
「さて……今日集めた情報を整理しようか」
ロジャーがパンをちぎりながら言うと、アマンダが地図を指でなぞった。
「まず、南の荒野。ここで赤い影を見たという証言があったらしいわね」
「それと、北の森。大きな翼音が聞こえたって話もあった」
「東の山岳地帯は、岩肌に巨大な爪痕……か」
セレスティアは真剣な顔で地図を覗き込み、唇を結んだ。
「……三か所とも怪しいな。どこから手を付けるべきだ?」
「一番現実的なのは南だろうな」
ロジャーがスープをすすりながら言う。
「荒野なら視界も広いし、痕跡を探すのも楽だ。森や山岳は隠れる場所が多すぎて、時間ばかりかかる」
同意見のアマンダも頷く。
「そうね。赤い影が本当に火を吹く竜なら……放置しておくのは危険だわ」
「よし、それなら明日は南の荒野に決定だな!」
セレスティアが拳を握りしめる。
しかし、その場でロジャーはいつもの調子で口を開いた。
「ただし、道中は使い魔たちの安全を優先し、アンナも守らねばならぬ! これは絶対だ! 先日のような失態を繰り返すわけにはいかん!」
「……そこですか」
「ほんと、筋金入りよね……」
セレスティアとアマンダが同時にため息をつく。
アンナだけは苦笑を浮かべながら、こくりと頷いた。
「でも……そういうロジャーさんだからこそ、みんな信じてついていけるんだと思います」
その言葉に、ロジャーは胸を張って笑った。
「よし、決まりだ! 明日はドラゴン探しの第一歩だぞ!」
食堂に響いた笑い声と使い魔たちの鳴き声は、少し緊張を孕んだ夜を柔らかく包み込んでいった。
食堂の奥で、賑やかな声と笑い声が響いている、その中の一人、顔を真っ赤にした大柄な男が、ふらふらとロジャーたちの席に近づいてくる。
「おい……嬢ちゃんたち。こんな野郎と飯食うなんてもったいねぇぞ。俺の隣に来いよ」
セレスティアとアンナは眉をひそめ、アマンダは冷ややかな視線を返した。
だがロジャーたちは相手にせず、ただ食事を続ける。
「おい、無視か……? なめてんのか!」
男の顔が怒りで歪む。
そして、唯一の男であるロジャーを睨みつけ、テーブルを乱暴に叩いた。
「てめぇだ! 女連れて調子乗ってんじゃねぇ!」
食堂の空気が一瞬で張り詰める。
だが、ロジャーはまるで気にした様子もなく、骨付き肉にかぶりついていた。
「……やめとけよ」
近くの席から声が飛んだ。
振り返ると、数人の冒険者が真剣な表情で酔っ払いを見ていた。
「あいつはロジャーだ。可愛い魔物にしか興味がない変態テイマーだが、実力はSランク級だぞ。挑んだら命がいくつあっても足りねぇ」
だが、酔っ払いは鼻で笑った。
「はっ、そんな与太話を信じるかよ! 見りゃわかるだろ、愛玩用の魔物しか連れてねぇ腰抜けじゃねぇか!」
次の瞬間、酔っ払いは拳を振りかぶり、ロジャーへ殴りかかった。
だが、その拳がロジャーに届くことはなかった。
ロジャーは椅子から一歩も動かず、ただフォークを持った手で相手の拳を軽々と受け止めていた。
「なっ……!?」
酔っ払いの顔が凍りつく。
ロジャーは骨付き肉を咀嚼しながら、片手で相手の拳を握り潰すように力を込めた。
「……食事の邪魔をするな」
ぐしゃり、と拳から嫌な音が響き、酔っ払いは悲鳴を上げて膝をついた。
食堂中が静まり返り、誰もがロジャーを凝視する。
やがてロジャーは立ち上がり、殴りかかってきた男の肩をぽんと叩いた。
「帰れ。命までは取らん」
解放された酔っ払いは、青ざめた顔で逃げ出していった。
残された冒険者たちは息を呑み――やがて、ざわめきが広がる。
「あれが……変態テイマー、ロジャー……!」
「Sランク級って噂は……本当だったのか」
アマンダは横目でロジャーを見ながら、深くため息をついた。
「……本当に、変態なのに強いんだよな」
アマンダとセレスティアも、苦笑いしながら頷くのであった。
ひと悶着はあったものの、騒ぎはすぐに収まり、再び宿の食堂には和やかな空気が戻っていた。
ロジャーは何事もなかったかのように、残りの肉を平らげ、使い魔たちに餌を与える。
セレスティアとアンナは呆れつつも安堵の表情を浮かべ、アマンダは苦笑しながらグラスを傾けた。
「……結局、いつも通りだな」
「ふふ、ロジャーさんらしいです」
そうして食事を終えると、それぞれの部屋に戻り、明日に備えて休息を取った。
◇◇◇◇
翌朝。
朝の鐘が街に鳴り響くころ、ロジャーたちは宿を出て街道へと足を踏み出していた。
「武具よし、消耗品よし、食料も補充済み。準備は万全だな」
「私も薬草やポーションを確認しました。問題ありません」
アンナが荷物を抱え、頼もしい声で答える。
セレスティアも剣を背に下げ、気合いを込めて頷いた。
「いよいよだな。南の荒野――目撃情報があった場所だ」
「ドラゴンかどうかはわからんが、確かめるしかない」
アマンダの言葉に、ロジャーがにやりと笑う。
「南の荒野にフェルリオットという荒野の癒しと呼ばれる存在がいる! 見つけたら、俺に教えてくれ! テイムするから! もちろん、報酬は出すぞ!」
唐突な宣言に、一同は出発前から揃ってため息を吐いた。
「……また始まった」
「これからドラゴンの調査に行くんですよね?」
「目的を忘れないでほしいんだけど……」
アマンダ、アンナ、セレスティアが順番に突っ込みを入れるが、ロジャーはまるで聞いていない。
「フェルリオットはな、細長い体をしていて、砂に潜るのが得意だ! 天敵が多いから数は少ないが、好奇心旺盛で巣穴からよく顔を出す。しかも、冒険者の野営地に寄ってくることもあるんだ! 立ち上がって様子を伺う姿は……もう、天使! 俺の使い魔たちと並べたら最高の癒し空間が完成する!」
両手を広げて熱弁するロジャー。
セレスティアは眉をひそめ、アマンダは呆れ顔で肩を竦める。
「……で、ドラゴンは?」
「フェルリオットだって荒野に住んでるんだ! つまり、ドラゴン探しの過程で遭遇する可能性がある! これは偶然でも何でもない、必然だ!」
ロジャーが胸を張って断言する。
アンナはこめかみに手を当て、苦笑しながら小さく頷いた。
「わかりました。見つけたらお伝えします。ただし……本当に見つかった場合ですよ?」
「おお、さすがアンナ! 話が早い! 任せたぞ!」
「いや……私が聞きたいのは、報酬って何を出すつもりなんだ?」
「もちろん、金に決まってるだろ! こう見えても、そこそこ貯金はあるんだぜ!」
一瞬の沈黙の後、三人は同時に息を呑んだ。
「……ロジャー。貯金ってどれくらいあるのよ?」
「詳しくは知らん。冒険者ギルドで管理してもらってるからな。まあ、今まで金に困ったことはないくらいだ」
「私よりも持っているんじゃないか……?」
「恐らくはそうだと思います……。ロジャーさんてやっぱり、凄い方なんですね」
「それじゃ、みんな! よろしく頼むな!」
力強い声と共に、一行は南の荒野へと向けて歩みを進めていった。
彼らの視線の先には、遠く赤茶けた大地が陽光を受けて輝いていた。
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