第8話 変態と呼ばれるわけだ
ギルドでの一連の手続きを終え、ついに旅立ちの時が近づいてきた。
セレスティアもアンナも気を引き締めて、踵を返そうとした時――
「待てい!」
ロジャーが人差し指を天高く突き上げ、ドヤ顔で叫んだ。
「重要なことを忘れてるぞ、諸君!」
突然の宣言に、全員が足を止める。
「……な、何かまだ手続きが残ってるのか?」
セレスティアが不安げに聞くと、ロジャーはニッと笑って振り向いた。
「違う! パーティ名だッ!」
「……は?」と全員の口から同時に漏れる。
「おいおい、常識だろ? パーティとして旅をする以上、名前がいるんだよ! 隊名、グループ名、チーム名、なんでもいいけど、名前ってのは大事だぜ!? 例えば、後に歴史に名を残すときのためにな!」
「そんなに名を残す気満々なんですか……」
受付でロジャーの話を聞いていたマリーナが呆れたように額に手を当てる。
「いや、でも確かに……名前って重要な気がする!」
セレスティアは意外にも乗り気だ。
「お嬢様の夢にふさわしい名前を考える必要がありますね」
アンナもまじめな顔で頷く。
「ふふっ、よし、それじゃあ俺がいくつか候補を――」
「却下だ」
アマンダが即座に冷静に断じた。
「まだ何も言ってないぞ!? アマンダ!」
ロジャーがショックを受けた表情でのけぞる。
「アンタのことだから、くだらない名前にする気でしょ。ミミフィーヌやモモルとかもじった名前でしょ、どうせ」
「な、なんでバレた!?」
「……まあ、決めるのはこれからでもいいかもしれませんね」
マリーナが笑いながら言う。
「うむ。歩きながらでも話せる」
セレスティアも微笑んでいる。
こうして一行は、ややゆるい空気を纏いながら、しかし確かな絆と決意を胸に、ドラゴンを求めた旅路へと踏み出すのだった。
「それではいってらっしゃいませ」
ギルドの扉を潜ろうとしていた四人に向かってマリーナが手を振る。
四人はそれぞれ振り返り、自信に満ちた笑みを浮かべて手を振り返した。
「ああ、行ってくる!」
「それじゃあね、マリーナ」
「吉報を楽しみにしていてくれ、マリーナ殿」
「色々とありがとうございました。マリーナ様。それでは!」
ギルドの扉が開き、陽の光が差し込む。
それは、冒険の始まりを告げる光だった。
「それでロジャー。これからどうするんだい?」
ギルドを出て、アマンダはロジャーに尋ねる。
「そうだな。まずはセレスティアの実力が知りたいから、適当にそこらの魔物でも狩ってみるか」
「私は構わない。むしろ、お互いの実力を知っておいた方がいいだろう」
「私は、その……あまり戦闘は得意ではありません。そのかわり、家事などはお任せください!」
「だ、そうよ。どうするの? ロジャー」
「まあ、実際に見てから考えよう」
「あ、待ってくれ。その前に馬車を待てせていたんだった」
「もしかして、移動用か?」
「いや、残念ながらそういうのではない。実家からここまで来るためのものだ。御者に戻るよう伝えてくる」
「そうか。わかった」
セレスティアはスカートの裾を押さえて、ギルドの前に停めていた馬車へと小走りで向かった。
馬車の傍には、穏やかそうな壮年の御者が待っていた。
セレスティアが声をかけると、彼は帽子を取り、丁寧に一礼する。
「ご苦労だった。すまないが、ここからは徒歩での移動になる。領地へは一度戻って報告を頼む」
「承知しました、お嬢様。くれぐれもご無事で」
「ありがとう。お父様とお母様にもよろしく伝えてくれ」
馬車が街道を走り去っていくのを見届けてから、セレスティアは仲間たちのもとへ戻る。
「済まない、待たせた」
「問題ない。じゃあ、行くか」
ロジャーは手をひらひらと振って笑い、街道から外れた森の方角を指差した。
「少し外れれば、魔物もうようよしてる。軽く狩って、セレスティアの力を確かめるにはちょうどいい場所だ」
「了解。お嬢様、準備はよろしいですか?」
「ええ。よろしく頼むよ、みんな」
こうして、一行は最初の目的地――セレスティアの実力を確かめる小規模な狩りのために、街の外れへと歩を進めていくのだった。
街から離れ、森の中を進む一行はセレスティアとアンナの実力を確かめるために、奥のほうへと進む。
そして、アマンダが森の奥へ小石を投げ、軽く指笛を吹いた。
その音に反応して、獣のようなうなり声が響く。
やがて草むらの奥から二体の小型の魔物が現れた。
「さあ、お嬢さん。準備はいい?」
「うむ。問題ない」
セレスティアは凛とした表情で剣を抜き、盾を構えると、軽やかな動きで魔物に向かって駆ける。
足捌きはしっかりしており、無駄のない動作で魔物の懐に入り込むと、一撃で昏倒させた。
続けて、もう一体も翻弄し、綺麗に無力化。
「ふむ、まずまずの動きだな。力押しに頼らず、テクニックで仕留めているのがいい」
「ロジャー殿にそう言われると、妙に照れるな」
「そうね。基本は問題ないわね」
「ああ。一応、貴族であったからな。民を守るために騎士に手ほどきを受けていたんだ」
「そういうことね。これなら大丈夫なんじゃない?」
「そうだな。基礎ができているのは有り難い」
セレスティアが少しだけ口元を緩めた。
そして次は――。
「では、私の番でしょうか?」
控えめに手を挙げたアンナが一歩前へ出る。
「うむ、一応見ておこう。無理はするなよ?」
「はい!」
アンナが短剣を手にしたその時――。
――ざわ……。
草むらの奥で、ふわりと風が舞った。
現れたのは、丸っこく白く、小動物のような魔物だった。
全身をふわふわの毛に覆われ、つぶらな瞳がこちらを見つめている。
それを見た瞬間――
「全員、伏せろォォォォォ!!!!」
突如、ロジャーが地面に這いつくばって絶叫した。
「えっ!?」
「な、なにごと!?」
「今すぐ伏せろ! 音も立てるな! 息も止めろ! 瞬きも我慢だッ!!」
あまりの迫力に、全員が反射的に地面に伏せる。
「……なんなんだ、今のは……?」
「アレを見ろ……あの尊き存在を……!」
ロジャーは震える指で魔物を指し示す。
「あれは――シロモンだ……!!」
「し、シロモン……?」
「この地方に極稀にだけ現れる幻の魔物……臆病で、他者の気配に極端に敏感。人前に姿を現すことすら奇跡と呼ばれている……! 俺はあの子を探し求めて、森を一か月も彷徨ったが、ついぞ見つけられなかった! しかし、しかしだ! 今、俺たちの目の前にいる!」
ロジャーの目は異様なまでに輝いていた。
「おい……お前、なんでそんなに詳しいんだ……」
「フッ……愚問だな。可愛いからに決まってるだろうが!」
「誇らしげに言うことじゃない……」
「そして、俺はこの日のために……スノーモスの実を、常に携帯している!!」
そう言ってロジャーはポーチから小瓶を取り出し、小さな白い果実を四つ取り出して配った。
「これをそっと手に乗せて、動かずに待て……あの子はこの匂いが大好きなんだ……だから、絶対に、絶ッッッ対に、驚かせるなよ……!」
ロジャーはまるで聖典でも読むような口ぶりで語る。
全員が困惑しながらも果実を手に乗せて動かずに待っていると、シロモフは警戒しながらもふわふわと歩き出した。
――そして。
アンナの手元へと、ぴょこん、と飛び乗った。
「きゃっ……!? ふ、ふわふわ……!」
アンナの手の中で、シロモフは気持ちよさそうに丸まる。
その瞬間――。
「アンナアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
ロジャーが泣きながら地面を転がり回る。
「なんという奇跡……! あの臆病なシロモンが、あの子が……自ら近づいた……! アンナ、君は……君は……女神だッ!!」
「へっ!? わ、私、何もしてませんよ!?」
「それがいいんだ! 自然体で、優しくて、あの子が惹かれたんだ! 素質がある! テイマーとしての天賦の才があるッ!!」
「え、ええええええ!?」
ロジャーはアンナの手を両手で握り、涙を浮かべて見つめていた。
「……ロジャー」
アマンダが呆れたようにぼそりと呟いた。
「……見た目は愛くるしいな」
セレスティアも興味津々の様子でシロモンを見つめていた。
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