第67話
「昨日未明、
歌手の高野真宮さんが、自宅内で、
首を吊って亡くなっている姿で発見されました。」
!!!!
「警察では、現場の状況、死亡に至る経緯から、
自殺との見方を強めています。」
シナリオに、こんなものはなかった。
あの高野真宮が、死ぬなんてことは。
どうしよう。
凄まじく悪い予感がする。
はやく。
はやく、連絡を取らないと。
だけど、どうやって。
どうして、自分から動かなかった。
どうして、能動的に確保できる連絡網を創ろうとしなかった。
ああ。わかる。
雛と、楓花に、任せきりだった。
電話番号ひとつ、分からない。
あんなに長く、一緒にいたのに。
すれ違い。
それが、このゲームの最大の裏テーマ。
雛と楓花のどちらかが近くにいる限り、起こらなかったことで。
どちらもいない状態は、考えもしなかった。
なんてマヌケなんだ、俺は。
創作活動を理由に、楓花の外出を、認めてしまうから。
俺が、恥ずかしいものを見られたくないなんて
素人まるだしのことを思ってしまったから。
襲撃から護れればそれでいい、なんてわけなかった。
能動的なシステムとスキームこそ、構築しておく必要があったのに。
あぁ。
どうしようもないことなのに。
気持ちだけが逸って、呼吸が荒くなってしまう。
崩壊の連鎖が、
まさか、高野真宮から起こるなんて。
この世界は、
インパクトのあるネームドキャラクターが死亡した時に、鬱の連鎖が始まる。
高野真宮。
この世界を構成するヒールの一人。
ゲーム世界では殆ど存在感はなかったが、アニメ世界では歪んで拡張され、
この世界ではヒールそのものの扱いを受けていた。
いや。
認めよう。
俺が、そこへ追い込んでいた。
悪い奴だから悪いだろうと。
そう、決まってるだろうと。
それでも。
2月までに奴が死ぬことは絶対になかった。
そもそも、奴は不死身の存在ですらあった。
人を自殺に追い込むことはあっても、自分から死ぬような奴ではないはずだった。
それが。
なぜ。
どうして。
……杞憂かもしれない。
あれだけ悪い奴が死んだところで、
何の反応もないかもしれない。
高野真宮が死んだくらいで、
連鎖など、存在しない。
……そういう思い込みに、
何度、裏切られてきたというのか。
あぁ。
とてつもなく悪い予感がする。
身体中の悪寒が止まらない。
ぴりりりりりっ
「!」
電話、だ。
雛はもちろん、秘書モドキもいない。
俺が、取るしか
「はい、もしもし。」
ぜんぜんだめだな、受付の俺っ。
「三日月です。」
雛っ。
「テレビ、ご覧になりましたか。」
「……ええ。」
「……背景を、どうご覧になっていますか。」
そう、考えるのがごく普通なんだが、
それよりも
「由奈は、知っていますか。」
「……まだ。」
「動揺していないかを確認してください。
あと、梨香さんに連絡を。奈緒さん経由でも構いません。
それから、
……
それから、彩音さんも。御前崎社長経由で構いません。
真美さん、天河さんにも、速やかに連絡と状況確認を。」
「はい。
わかりました。ただちに。」
……あぁ。
どっと、疲れが出た。
ほんのちょっと、安堵してしまった。
「……純一さん?」
いや。
「直接関係はないでしょうが、啓哉さんも。
できる限り無事を確かめて下さい。」
「無事、ですか。」
「……ええ。」
「高野真宮さんの件と、関わりが。」
「はい。」
鬱の連鎖システムのことを知らせても、
理解はしてくれまい。
なにしろ、意味不明のことなのだ。
敵対していた派閥の極悪人女子が自殺しただけで、
自分達に影響が及ぶなん……
「じ、さつ?」
「……なにか。」
いや。
あの女、自殺なんかするタマだろうか。
ああ。
なんてこった。
いっちばん最初に疑うべきだった。
「警察発表は、自殺で間違いないのですね。」
「……それも、調べます。」
助かる。
雛は、ほんとうに助かる。
俺は、その時まで分かっていなかった。
崩壊は、もう、はじまっていたことを。
*
ぴりりりりりりりっ
「!?」
っ!?
あの秘書モドキ、いないんだったっ。
がちゃっ
「はい。
Kファクトリーです。」
あぁ。
俺も所属、すぐ出ねぇなぁ。
「……ぅっ。」
!?
こ、
この、泣き声は……っ
「……ど、どうした。」
「……
し。」
……ん?
「こ。
あ。
ころ、
さ、
れた。
」
!!!!
「け、
けいやが、
るり、に。」
く、く、く、
栗栖、琉莉ぃっ!?
か、は、
ん、
が
考えて、なかった。
把握して、なかった。
一度も、直接話したことがなかった。
「い、いってた
いってた
いってたのっ!
つ、ぎは、
わたしだって、
ぶつぶつぶつぶつ言ってたっ!!!」
い、意味がひとつもわからない。
わからないが、
「ひゃっ!!」
ぶつっ
「ま、真美っ!
真美ぃっ!!!!」
な、な、な、
なぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!
あぁ……。
だめ、だ。
これは、詰んだ。
わかった、一瞬で。
いまさらになって。
繋がりっこ、ない。
このエンドを、俺は、知ってしまってる。
文月真美の、落とし穴的なバットエンド。
大学入学後、元同僚の恨みを買って殺されるやつだ。
由奈や梨香との友好度が低すぎると、
少女倶楽部をめぐる内情が分からない。
真美が、誰に強く恨まれているか、分からないまま、
大学の入学式の日に、真美が解けた笑顔で純一に駆け寄ってきた時に、
背中を突きさされ、目を見開きながら崩れ落ちる。
真美一点張り戦術に張って来たプレイヤーを、
地獄に叩き落すゲロ鬱シーンだ。
いや。
似てるだけだ。
中身は、全然違う。
これは、俺だ。
俺が、やらかした。
もう、だめだ。
ドラムもいない。
ベースもいない。
ギターも一人死んでいる。
そんな話じゃ、ない。
啓哉が死ねば、
未だ啓哉に依存心を持っている梨香は発狂し、
梨香から由奈、雛へ飛び火する。
啓哉の命が絶対に安全だと、どうして思った。
栗栖琉莉に問題がないと、
なんで、思った。
3月3日まで、
梨香や由奈の新曲のお披露目があるまで、
スリーピースバンドのCDがプレスされるその日まで、
古手川の虚偽を、時任主税の悪事を暴く時まで、
俺が作った曲が、由奈の耳に届くその瞬間まで、
一切なにも起こらないと、
なんで、思い込めたのか、
なんで、なんで
なんで、なんで
なんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ぶちっ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます