白衣による裁判ごっこ

 そうして、何日が経ったろうか。

 日付の感覚がわからなかった。

 看護師がやって来て、出るよう促される。

 看護師について行くと少し広めの部屋へ出た。

 少々驚く。

 人がたくさん居て、並べられたパイプ椅子に整然と座っている。

 なん・・・だろう?

 不思議に思っていると唯一空いている真ん中辺りのパイプ椅子に座らされた。

 元々は何の部屋だったのだろうか?

 ちょっと想像つかないが、何の特徴もない壁に暗めの照明が陰気な空気を作り出している。

 前を向くと白衣を着た数人がテーブルを挟んで、こちら向きに座っていた。

 空白の時間。

 その間に辺りを見回すと母親を発見する!

 「ママ!」

 母親の頭には傷の一つも無く、治療の跡なんかも見受けられない。

 良かった。

 なんともなく無事のようだ。

 安堵する。

 母親は私の呼びかけを聞いてはいるようだが、微塵も私の方へ顔を向ける事もなく、真っ直ぐ前を向いて完全に無視をしている。

 なんで?

 疑問を感じていると前に座っている白衣が声を出した。

 「三好 英花あやかさんですね。」

 少し虚を突かれて答えられずにいると、お構いなしに質問は続いた。

 「お母さんを殴って倒して、頭に怪我をさせましたね。」

 「え!

そんな事していません!」

 「お母さんの頭に傷が付いていましたよ。」

 「母が勝手に滑ったんです。」

 「お母さんはそうは言っていません。

あなたに殴られて倒れ、ドアノブに頭を打ち付けたと言っています。」

 「そんな!

真っ赤な嘘です!

ママ!

何言ってるの!

なんとか言って!」

そう言って、母親を見やると。

 私の叫び声が全く聞こえない様な感じで何かの彫像の様に真っ直ぐ前を向いたまま、固まっていた。

 「ママァ?」

 腹を立てて立ち上がろうとすると。

 「落ち着きなさい。

座りなさい。」

と白衣に命令される。

 「あなたの主張はお母さんが勝手に滑ったと。

それだけですね?」

 「え、ええと。

腕は振り上げたかもだけど・・・。」

 もう遙かな昔の事に思われた出来事をよく思い出しながら、たどたどしく答えると。

 「その手はお母さんの頭に当たりませんでしたか?」

 「・・・全く当たっていません。

私の腕をかわそうとして母が自ら、足を滑らせました。」

 「わかりました。」

 白衣が何か合図したのか私はそこで部屋から追い出され、元の牢屋に戻された。

 なんだったの・・・。

 今のは?

 裁判ごっこか何か?

 母親は?

 なんで、こちらを向きもしないの?

 そう言われているの?

 ここに入る時もそうだったけど、またもや誰も、何も説明も無い。

 自己紹介さえ無い。

 ただ、事象が私を過ぎていくだけ。

 私には何の知る権利も、これらにあらがう権利も無いの?

 私は何なの?

 ただのしゃべる棒きれか何か?

 じんわり涙があふれた。

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