第39話 雪の中のケータリング

 フワフワとした雪が舞い落ちてきた。


『これよりイベントを再開致します』


「雪が降ってる……」


「ギャハハハハ! すげえ! 雪だ! みんなあの靴装備しとけよぉ」


 前に第四エリアを攻略した時に履いたキンドさんが持って来てくれた靴。

 それを装備しつつ上を向いていると凄くモサモサと降ってくる。

 これいつまで降るんだろうかと疑問に思う。


「これ、積もるまで待つんやないか?」


「えっ!? ってことはまさか……」


「せやな。雪男の再びの登場とちゃうか? しかもちゃんとした雪のエリアでの登場や。気ぃ引きしめぇや」


 キンドさんの言っていることはあっているかもしれない。

 凄い勢いで雪が降っているのだ。


「この雪の量は凄いですね……」


 先程降り始めたのだが、既に十センチは積もっている。

 まぁ。まだまだこんなものではないのだろう。雪国ではメーター単位で降るのだから。


「ギャハハハハ! 俺らも埋まりそうだな! 一旦街に引っ込むか! おい! ソラさんよぉ!」


 一応ソラさんに指示を仰ぐようだ。


「うるせぇ! 引っ込んだ方がいいとわかってるなら引っ込め! 行くぞ!」


 ソラさんは不機嫌である。

 何せ、さっきの『嵐の夜明け』がいなくなったら、それ以下のランカーと非ランカーが指示を仰いできたのだ。

 『白雷の空』より上のランカー達も参加しているのだが、人数が少ないので大規模クランのリーダーの方が指示だしには向いていると言われたようなのだ。

 それで面倒くさくなり不機嫌になっているという訳。


 次の魔物の進行には空き時間がありそうだ。

 そろそろお昼だなぁと思っていると後ろから街の人達がやってきた。ネムさんもいる。


「攻略者様方、街をお守り頂きまして有難う御座います! お昼にこれを食べて力を蓄えてくださいまし!」


 街の代表のような老年の女性が沢山の料理を後ろに従えてそう言い放った。

 プレイヤー達は歓喜しながらその料理に舌鼓をうつ。

 俺はもちろんネムさんの料理一択だ。


「ネムさん! 有難う御座います!」


「マセラさん、それに皆さんも! 街の為に戦ってくださってありがとうございます!」


 ネムさんが後ろに束ねた紫色の髪の毛を振りながらお礼をしてくれた。

 こんなことされたは力が漲ってくるのが俺ってもんよ。


「今日は朝から作っていたこの料理を食べてください! 全部小さな器にわけてありますから、ご自由にお食べ下さい!」


 皆がテーブルを持ち寄ってその上に料理を広げている。ケータリングのような様相を呈している。そのテーブルの前に屯うプレイヤー達。

 なんか気分が高揚してきて何でもできそうな気になってくる。


「マセラさんの好きな生姜焼き作ってきたよ?」


 小声でネムさんが耳打ちしてくれた。

 なんとありがてえ。でもここで誤解がある事に気付いた。俺は別に生姜焼きが好きなわけではない。ネムさんが生姜焼きを手作りしてくれるから頼んでいるだけなのだ。

 いや、ミノタウロス丼だって俺は食べるよ。けど、あれは。実はわかっているのさ。ネムさんが作ってくれていないのは。でもあの時はネムさんが作ってくれていると思って食べると幸せだからそうしていたんだ。


「ありがとう! ネムさん! もらってもいいですか?」


「はい! どうぞ! これは大盛よ?」


 ネムさんのウインクは破壊力抜群で、俺の胸を打ち抜いていく。胸が苦しくなるが我慢だ。今はこの生姜焼きを美味しく頂くのだ。

 口に運ぶといつも通り旨味が抜群で俺好みに濃いめの味付けだ。涙が出てきそうだ。こんなにいいことがあっていいんだろうか。

 ネムさんは絶対に守り通す。なんならゾンビアタックだってしてやる。そのくらいの気持ちが。


 一応このゲームはダメージを受けるとそれなりに痛みを伴うようになっている。だからおいそれとゾンビアタックなどしないのだ。

 だがな、今はそんなことを言っている場合ではない。この街の存続がかかっている。その上、ネムさんの命がかかっているとなれば話は別だ。このゲームでの俺の命など軽い。どうせ死に戻るのだ。デスペナルティを恐れてなどいられぬ。


「うんめぇぇぇぇ!」


「マセラ、うるさい。食事に集中できない」


「ふふふっ。マセラ様、お行儀は悪いですわ」


 アルトとシルフィに突っ込まれながらも生姜焼きを口の中にかきこむ。飯も同時にかきこむ。この旨味を逃すわけにはいかない。

 誰にもとられるはずがないが、周りを警戒しながら飯を食べてしまう。


「マセラ、ホントやばいやん。目ぇ血走ってるでアイツ」


「ワレは気持ちがわからなくもないな。さっそくルルちゃんの所でパン沢山もらってきたしな」


「ギャハハハハ! マセラもだがよぉ。シルド、パンがそんなに好きだったか!?」


「ワレはパンがスキ」


「なんかシルドまでおかしなってるやん」


 キンドさんとシルドさん、バカラさんまでなんだかテンションが高い。そう思っているのは俺だけだろうか。

 ソラさん達も思い思いの料理を食べている。

 プレイヤーにこんなに街の人達が良くしてくれるという事は、ここに居るプレイヤーの人達は好感度が高いという事なのだろう。

 

 『嵐の夜明け』がいたらこのイベントはなかったかもしない。そう思うと先程の通報案件は大正解だったなと満足に思うのであった。


 モサモサと降り続ける雪はまだ降り続いていた。

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