第30話 初デート

 昨日の晩は祝勝会をして楽しんだ。

 そんな日の翌日は二日酔いになる事もなく。

 俺はまた現天極にインしていた。


 この日は攻略を目的とはしていなかった。ネムさんに会うために来たのだ。どうせあの人達は今日は動けないだろう。


 そんな時、チュウメイからボイスチャットが入った。そのまま歩みを進める。


『お前達のランクインは一日で終わったな! ハッハッハッ! 俺達だって第三をクリアしたぜ!』


「へぇ。凄いじゃないか。おめでとう」


『なんだよ。全然悔しがらねぇじゃん』


「まぁな。そんな事だろうと思ってたから」


『あぁ? 情報提供者はお前のとこかぁ?』


「さぁね」


 俺はしらばっくれたが、昨日バカラさんが笛の情報をかなりの額で売ったらしい。だから資金が豊富にあると言っていた。そして、前線はまた押し上げられるだろうと言う。


『俺達はこれから第四、第五とクリアして天国ステージをクリアする!』


「おう。頑張れよ」


『なんだよ! 張合いがねぇな! じゃあな!』


 言いたいことだけ言って切りやがった。まぁ、俺達は全部のステージのクリアを望んでいる。だが、先に行かれるのは別にいい。情報が出回ればそれだけ苦労なく攻略できる。


 効率が良ければ俺達はそれに越したことはない。別にクランランキングとか、個人ランキングとかはどうでもいい。目指すのは最初にこのゲームをクリアすることだ。


 立ち止まった先には定食屋『膳』だ。準備中のプレートが下がっている。


「マジか……」


 頭を抱えながら前に行った公園に行ってみる。行く途中も周りを見ながら行くがネムさんはいない。


 公園に着いたが、誰もいない。居るわけがないか。そんなに都合がいいことが何度もあるわけないな。


 公園のベンチに座って項垂れる。


「はぁぁぁぁ。ネムさんに会いたい時に会えないのが一番辛いなぁぁぁぁ」


 下を向いて俯いた俺の元へ足音が聞こえた。

 そして仄かにいい香りが鼻を刺激する。


「あのー。大丈夫ですか? なんか嫌なことでもあったんですか?」


 そのセリフには身に覚えがある。

 上体を起こすと目の前にはネムさんが居た。


 その姿は普段のTシャツに黒パンツ姿とは違い、紺の総柄の少しタイトなワンピースに白いバッグでを持っていてカッコイイ印象を受けた。けど、体のラインが出るから目線をあまり注がないようにしないと。


「か、かわいい」


「やだぁ! マセラさん急に何したの?」


「いや、いつも可愛い」


「もう! 恥ずかしいよぉ。そんなにジィっと見ないでよぉ」


 その恥ずかしがる姿も可愛くて幸せな気持ちになる。なんでこんなにも可愛いのか。


「ご、ごめん! どうしてここに?」


「んー。実は、またここに来たらマセラさんに会えるかなぁ? と思って……」


 それは……そういうことか?


「俺も会いたくて探してました。あの、デート……して貰えませんか?」


「ふふふっ。はい! 喜んで!」


 そういうと手を伸ばしてくれた。

 手を取り立ち上がる。


 胸が躍るとはこういうことをいうんだろうなと感じた。繋いだ手は少し冷たくてどこかで繋いだことがあるような感触で。俺の手が熱かっただけかもしれないが。


「私、マセラさんとご飯食べに行きたくて」


「ご飯、ですか?」


「そう。いつも食べてもらってるばっかりで、一緒に食べれないでしょ?」


「そうですね。何系がいいですか?」


 ネムさんは少し上を向いて指を顎にあてながら考えている。その仕草もなんだか様になっていて可愛い。


「んーっと。パスタとか食べたいな? いつも米ばっかりだから、うちの店」


 そりゃそうだ。定食屋だものな。皆がお米をかきこめるおかずを作ってくれているんだから嬉しい限りだが。


「いいですね! 行きましょう!」


 二人で手を繋いで歩く。

 まさしくデートといったデートをおれができた事に気持ちが高揚する。そして、繋いだ手もどんどん熱くなってくる。


「ここにしましょ?」


「あっ、はい!」


 少しボーッとしてしまっていた。


 メニューを見ながら俺はミートソースパスタにする。ネムさんは悩んでいる。


「すみませーん!」


 ネムさんが店員さんを呼んだ。こういう時に呼ぶのは男の役目では!? はっ!? ぬかった!


「ペペロンチーノくださーい。マセラさんは?」


「はっ! お、俺は……ミートソースパスタを」


 注文を終えるとニコニコとこちらを見ているネムさん。


「あの、ニコニコして、どうしたんですか?」


 俺は不思議に思って聞いたのだが、ネムさんが吹き出して笑いだした。


「アッハハハハ! デートしてるのにしかめっ面するわけないじゃん! マセラさんおっかしい!」


 良く考えればそうか。初めてだから分かんなかった。へんに思われたかな。


「ごめん。変だよね?」


「ううん? 私は単純に嬉しいからニコニコしてたんだよ? ふふふっ。私の方が変かも!」


「ぜ、全然変じゃないです!」


 テーブルから立ち上がってまで否定した俺にネムさんは手を丸くした。周りの人達もこちらを見ている。恥ずかしくなり、俺は何事も無かったように座った。


 「ふふふっ。マセラさん、かわいい」


 その笑った顔がどこかで見たことがある気がしたのだ。気のせいだよなとその時は記憶の奥に押し込んだ。


 こんなに幸せな時間にネムさん以外のことを考えるなんて失礼だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る