カプセルにあった出会い

春羽 羊馬

カプセルにあった出会い

 皆さんは、自分自身が【何か引き寄せる力を持っている】と思いますか?

 気の合う友人、未来の彼女、求めていた役に就く。

 何かと出会うときは、いつだってこの【引き寄せる力】という見えないものが、働いているものだと俺は考えます。

 たとえその力が無くても、自分にはその【引き寄せる力】があるのだと思い込み前に進まなければなりません。今の俺の様に。

 そう心に言い聞かせた俺は、右手で触れているレバーを勢いよく回す。


 「っ、しゃ!」


 ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガコン‼


 レバーから右手を離し、取り出し口に出て来た1つのカプセルを見えない様に手で、覆いかぶさるようにして取り出した。

 ゆっくりと手にしたカプセルを確認する。

 カプセルの色は、……赤!

 やった!ついに来た!俺は、そのカプセルの色を見た瞬間確信した‼

 俺の頭の中で確定したBGMが流れ始める。

 えっ?何が確定したかって?それはな!

 俺は今、1回500円のとあるガチャガチャを回していた。ラインナップは、シークレットを合わせて全部で5種類。赤色のロボット、青色のロボット、白色のロボット、各ロボットの追加パーツセット、そしてシークレット。回すこと数回。現在の揃っているのは、青色が3つ、白色が2つ、パーツセットが3つ、シークレットが4つ。

 総額6000円

 こんだけ回して、一度も赤色が出ていないのだ。と言うかシークレット出過ぎじゃね?

 しかしここまで回して分かったことが1つあった。

 それは、各景品の色とカプセルの色が対応している。ということだ。青は青、白は白、パーツは緑、シークレットは黒。

 そして、この為に用意した金も底が尽きそうなところでやっと赤色のカプセルが、出て来たんだ。

 勝ち確です。あざーす!

 もうワクワクでいっぱい。俺はカプセルを持っている右手と空いている左手で、そのカプセルを開けた。

 中には、赤色のロボットが入っている。はず……

 

 黒色のフレームに、鋭いツインアイが特徴的な顔パーツ、禍々しい腕や足のパーツ、背中にはすべてを破壊する強力な武装が付けられている。

 黒色のロボット。シークレットの奴だ。


 「……燃え尽きたよ。俺は、」


 って!そうじゃねぇよ!

 なんで赤いカプセルにシークレットが入ってるんだよ⁉

 たく。こうなったら出るまで回してやる!

 俺は、ズボンのポケットからと呼ばれる携帯端末を取り出してた。


 「∑《シグマ》!今の残金は!」


 「はい。残金は、300円です。」


 「……。ごめん聞こえなかった。なんだって?」


 「ですからマスター。デバイス内の残金は300円です。」


 「…嘘。マジで⁉」


 「はい。」


 どうやら燃え尽きたのは、俺の心より俺のマネーだったようです。

 

 「はぁ~。しゃ~ない帰るか」


 大きなため息を口から零し、一時的に足元に置いておいた景品の入ったカプセルたちを背負っていたリュックにしまった。そして俺は回しまくったガチャガチャに背を向け、とぼとぼとした足取りで家の方へ歩いて行った。


 (…アイツ)


 次の日


 昨日のガチャの結果に精神的ダメージを追っていた俺は、朝から教室にある自分の席でしていた。

 

 「おっス!寝不足か?」


 「…ちげぇ~よ~」


 「…そっか」


 そこそこ仲のいい良く喋るヤツから挨拶されるも、俺はそれに空返事する。

 今日は月曜日。授業時間は、夕方16時前まで。そっから昨日のガチャガチャのあった町まで行くのに約20分ほど。町から家まで40分で、18時の夕飯までには戻らねぇと飯抜きだから。えぇ~と移動合計が徒歩含めて約1時間10分。もしもの事を考えると40分くらいか。

 みじけぇ~。

 ……

 はっ!

 何かを思い出したようで、していた顔を上げた。


 (そういや月曜だから委員会の集まりあるじゃん今日。)

 

  「はぁ~めんどくせ~」


 上げた顔が、またゆっくりと机にせる。

 頭で色々考えていたからか。いつの間にか教室内は、生徒の声で溢れていた。

 視界を机で遮っているぶん、耳が音に敏感に反応しているのが分かる。

 ガラガラッ‼

 カツッ、カツッ、カツッ、

 また教室の扉が開いた音がした。誰かの足音が、段々と俺のいる方へ向かってくるのが分かる。そして近づいてくるこの足音を俺は、よく知っている。

 俺の右隣で、その足音は止まり気配が留まる。


 「おはよう。一縁ひより


 突っ伏している俺に声が掛けられる。その声に俺は、そのまま朝の挨拶を返した。


 「はよ~。ゆきなん」


 「ゆきなんって呼ぶな!」


 その言葉と共に彼女の手刀が、俺の頭に降ってきた。


 「いって!ごめんごめん運七ゆきな


 頭をさすりながら顔上げ、彼女に謝る。

 

 「…ったく。で、なんかあったの?」


 「別に…なんでもないよ」


 「…そう」


 そう言って運七は、自分の席(俺の右隣の席)に座った。

 自分の趣味で真剣に悩んでいる!なんて言える訳もないしな~。

 

 「あっ!そういえば、」


 何かを思い出したのか?運七ゆきなは何かを探すかのように隣で、自分のカバンを漁っていた。


 「あった。はい。これ!」


 コトッ、


 探していたものを見つけたのか?手にしたであろうそれを俺の机に置いた。

 置かれたものを俺は確認した。

 それを目にした次の瞬間俺は、突っ伏してた顔を周りもビックリするぐらい勢いよく上げた。


 「こ、これは⁉」


 俺の机に置かれたのは、手のひらサイズの小さいものだった。

 赤色のフレーム。顔には、ヒーローを思わせるかのようなカッコいいツインアイ。力強く握られた手。そして腰には特徴的な武器を携えている。この赤い色が特徴的なロボットは、‼


 「運七ゆきな!これ、」


 ビックリした顔を彼女に向けながら何でこれを俺に?という感じで彼女に聞いた。


 「あ~、え~と、たまたま手に入れてさ。私は別に興味なかったから。それと前に一縁ひよりが言ってたの思い出して…」


 「たまたまか、へー。え⁉じゃぁ、これ貰っていいのか?」


 「良いからアンタの机に置いたんでしょ。ったく」


 「マジか!サンキューな運七ゆきな!」


 「いや~俺これさ、何回も回したのに出なかったんだよ。」


 俺は、運七ゆきなに礼を言いながら赤いロボットを色々な角度から見た。やっぱり、なんやかんや俺は、一番好きな物には縁があるみたいだ!と思った。

 ふとロボットを見ている俺を運七ゆきなが見ているような気がした。ふと隣を見たが、彼女は自身のデバイスを見ていた。

 …気のせいか。


・・・・・・


 昨日の事だった。

 遊びに行った帰りでアイツを見かけた。

 声を掛けようとも思ったが、アイツの背中を見ているとそんなタイミングでも無いなと思った。代わりに直前までアイツがいた場所まで行ってみることにした。

 歩くこと数秒。

 私の目の前には、ガチャガチャが何台か並んでいた。それを見て私は、「また、こんな物に使って」と思ったが、他人の趣味は誰かが、どうこう言うものじゃない。

 アイツが回してた台を見てみた。

 ロボットモノだった。しかもvol.7書いてある。

 それを見て私は、なんとなく一回だけ回してみようと思った。


 ガチャガチャ、ガチャガチャ、ガコン!


 取り出し口からカプセルを出して開けた。


 カポッ!


 カプセルの中には、幾つか小さな袋が入っていた。

 それぞれの袋に小さな赤いパーツが入っていた。

 

 「…なんかパッケージのと違くない?」


 景品とガチャガチャのパッケージを見比べながら思った。


 「それ組み立て式だよ」


 急に声を掛けられ私は、声のほうに顔を向けた。

 顔を向けたほうには、服装をピシッとスーツ姿で決めた同年代の男子より大人びた20代後半くらいの眼鏡をした男性がいた。


 「組み立て式?ていうかあなたは?」


 「俺?俺はまぁ~通りすがりの社畜かな。それより何でそれ回したの?組み立て式だってことを知らなかったて事は、その作品を知っている訳でもないよね?」


 何?この人?さっさと話し切り上げよう。


 「別に回しったっていいでしょ!それとも回すのに理由がいるの?」


 「おっと失礼。怒らせるつもりは無かったんだよ。別に回すことに理由は要らないさ。ただ…君の場合は、さっきの彼を思っての行動なのかな~?と思ってね」


 ‼

 

 その人は、私の手にあるカプセルを指さしながら言った。


 「それ、彼に渡したら喜ぶと思うよ」


 「…理由は?」


 「それは、自分の目で確かめてみな。今、俺から確実に言えるのは、ガッカリされることはまず無い。それだけ」


 「…そう」


 私は、その言葉を聞いて真っすぐ家に帰った。

 ガッカリしないか。ホントにそうだといいな。

 そして今日。あれを渡したらアイツは、予想以上に喜んでくれた。

 嬉しかった。

 渡せて良かった。

 渡し終えて私は、自分の気を紛らわせ様とデバイスを見た。

 喜ぶアイツの隣にいる私。

 そのデバイスに映っていた私は、口元が少し緩んでいた。

 


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