第12話 エッチボーナスポイントで俺は最強になる!?
「ふわぁ〜」
目が覚めると、まず視界に飛び込んできたのは、天井に貼り付いた彼女の笑顔だった。
昨日彼女からもらったグッズの中には、このちょっぴりセクシーなポスターも入っていた。
もちろん部屋の天井に貼るつもりはなかったけど、グッズをちゃんと飾ったか、ポスターをちゃんと貼ったかと、彼女からしつこくLINEが届いた。
僕が適当に飾ったよ、と送ると、どんな風に飾っているのか、どこにポスターを貼ったのか見たいから、写真を撮って送ってほしいとの返信がきた。
面倒くさくて、実際は飾るつもりも貼るつもりもなかったので、無視していると、
『皆さんに報告でーす! なんとわたしことテンテンは、今日とてもすごい人とデートしてきちゃいました! 誰だと思う? ……正解は、なんとあの【廻れ狂想曲】の作者、黄昏先生です! 先生からは【廻れ狂想曲】の公認コスプレイヤーに任命されちゃいました! 大好きな作品なのでびっくりです! あっそうそう、先生ってわたしの一つ下で、超かわいかったんだよ。あとで先生の写真アップしちゃおっかな〜。←ツイートしてもOK?』
さらに、僕が喫茶店でニヤニヤしながら写真集を見ている写真が送られてくる。
「いいわけないだろっ!」
僕は急いで彼女のポスターを天井に貼り、部屋中にグッズを飾った。
◆◆◆
昨日、あの大物気取りのコスプレイヤーに言われた言葉が、どうしても頭から離れない。まぶたを閉じると、あの勝ち誇った嫌な笑みが脳裏に浮かび上がり、今朝は少し寝不足気味だった。
『あんなに才能のある人そうそういないと思うけど?』
『そっか、知らないんだ』
『彼の才能がさらに開花したのは、間違いなく君のおかげだから――』
「なんなのよあいつっ!」
思い出すだけでイライラがこみ上げてくる。
最悪の気分のまま学校に到着し、あたしはいつも通り教室に向かった。
「……まだ来ていない」
教室に入ると、まず窓際の席をチェックする。少し前までは友達のいない男が狸寝入りをしているのが当たり前だったのだけど、今日も彼は来ていない。
やはり、おかしい。
最近、結城美空音の様子が変だ。
昨日、人気コスプレイヤーと会っていたことも変なのだが、最近はホームルームギリギリに登校して来るようになっていた。
あの美空音がホームルームギリギリに来るなんて、考えられない。
何かある……。
女の勘が、あたしにそう告げていた。
「どうしたぁ? 窓の外ばっか見て」
「別に見てないし」
「いやいやもろ見てたじゃん。つーか今朝はやけに不機嫌じゃん。なんかあった?」
「なんもない」
「そういやあんたの元彼、図書委員にでもなったの?」
「は? ……なんで?」
「だって、ここんとこ毎朝図書室行ってない?」
「………図書室?」
美空音が毎朝図書室に行ってる……?
どうして……?
確かに美空音は昔から本が好きだったけれど、それにしても朝から図書室に行くほどの本好きだったっけ。
「あれ、ルリルリどこ行くの?」
「トイレよ。つーかその呼び方やめろ」
「えぇー、自分で付けたんじゃん」
「うっさい!」
「てかてか一緒に行ってあげよっか? おトイレ」
「トイレくらい一人で行けるわ。付いてくんなっ」
「ルリルリまじで機嫌悪いんだけど」
「生理じゃね?」
「殺すッ!」
「あははは、冗談冗談。てか漏れる前にはよ行きな」
……ったく、あいつら女のくせにデリカシー無さすぎんのよ。
一体どういう風に育てられたらあんな風に下品になれんのよ。
「ここは女子校じゃないっつーの」
女子トイレの前を通り過ぎ、階段を下りていく。
目指すは一階の図書室。
別に元彼がどこで何をしていようがあたしには関係ない。
ただ、そう……ちょっと読みたい本があるだけだから。それだけのこと。
「ふーん♪ ふふふー♪ あったあった」
目と鼻の先に図書室が見えてきて、あたしは歩くスピードを上げた。
別に浮かれているわけではない。何となく鼻唄を口ずさんでいただけ。スピードを上げたのも、読みたい本を読めるのが嬉しかっただけのこと。
「どうせ一人だろうし、わっ! って驚かせてやろうかな。くくくっ」
いたずら心に浮かれながら図書室の前で足を止めると、中から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「クラスで目立たない俺とエッチするのは嫌か? それとも今更純情ぶってるのか? 本当はかなりのヤリマンなんだろ?」
「は……え………は?」
あたしは稲妻に打たれたような衝撃に、その場で硬直してしまった。
え……今の、なに……?
美空音の声だったような気がしたけど、あたしが聞き間違いをしたのかもしれない。いや、そうに違いない。あいつがあんな卑猥な言葉、最低な発言をするわけがない
……と、思ったのだけど。
「だ、誰がヤリマンよ!」
「――!?」
それは幻聴じゃない。今度はヤリマンという言葉が、まるでロケットのようにあたしの耳を突き刺すように響いた。
「俺はこの才能を手に入れた時に決めたんだ。俺が気に入った女だけを集めてハーレムを作りあげるってな。ヤリマンだろうと構わない。お前は記念すべき第一号ってわけさ」
「なっ!?」
自分が気に入った女の子を集めてハーレムを作る!?
あいつは朝っぱらから何を気持ち悪いことを言ってんのよ。
というか才能って……。
『彼の才能がさらに開花したのは、間違いなく君のお陰だから――』
もしかして、これのことじゃないでしょうね。
でも、なんであたしがそんな変態みたいな才能を開花させた鍵みたいになってんのよ。冗談じゃないわよ! 信じらんない。
「教室では女の子に興味なさそうな振りしてたくせにっ……」
まったくその通りよ。
人畜無害みたいな見た目してるくせに、何がエッチさせろよ。
今すぐ出ていってぶん殴ってやろうかしら。
「人は変わる。……で、どうする? 俺は無理やり犯す趣味はない。お前が決めろ」
「……っ」
イカれてる。
正気じゃないとしか思えない発言に、怒りで全身が震えそうになる。
「わ、わかった――「――――だめぇえええええええええええッ!!」
気がついた時には、あたしは図書室の扉を破壊してしまうくらいの勢いで、扉を開けていた。
「え……」
「へ……」
おかしな表情の二人と目が合い、あたしは図書室に足を踏み入れた。そのまま大声をあげながら彼の胸元をつかみ取った。
影野さんは真面目そうな顔をして、今にも泣き出しそうな表情であたふたとしていた。
当然よ、この性欲まる出しの男にいいようにされかけていたのだから。
「ちょっ、お、落ち着け瑠璃華!」
「落ち着いていられるわけないでしょ! 元彼が犯罪まがいのことしてんのよ! 何が気に入った女だけでハーレムを作るよ! あんたイカれてんじゃないの!」
今すぐこの男を職員室まで連行して、すぐにでも教頭に引き渡してしまおうと思ったあたしに、影野さんは一冊の本を差し出した。
「こ、これっ!」
「は? 何よそれ……?」
その本の表紙には【H×H×H! エッチボーナスポイントで俺は最強になる!】と大胆に書かれていた。
「は?」
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