第6話
そうすればアイリーンは自分の子として子供を育てる?
「適当に捨ててくるわ。修道院とか、そのためにあるんでしょ?てかさ、子供ができたって言えば、それなりの男と結婚できるのに、何が不満なの?」
親に愛されない子供。
それは私。
そして、アイリーンのお腹に宿った子。
本当の親じゃないマーサに愛されて育った子は私。
そして……。アイリーンの子は私が、愛して育てる。
「わ……分かったわ……。私が産んだことにして……アイリーンの子を、育てます」
「ふふ。でしょ?嬉しいわよね?父親候補のリストは作っておくから、どういう人なのかちゃんと把握しといてよ。金髪だったら、選ぶの難しいわね。6人いるから。茶髪なら、むしろ母親に似たと言えば、誰とでも結婚できるかもしれないわね?あははは」
2日後。お義母様とアイリーンは領地に向かうことになった。
私の手元に残されたのは、父親候補の20人の名前が書かれた紙と、アイリーンとしてどうしても出席しなければならない舞踏会の招待状だった。
招待状の1枚は、公爵家での舞踏会。あっという間に当日がやってきた。
「わ、私が公爵家の舞踏会だなんて……無理だわ。絶対無理……」
おびえる私にお父様が冷たい目を向ける。
「失敗は許さないからな。絶対バレるな」
そんなこと言っても……。
「何を言われても笑って適当に相槌を打っておけ。おかしいと言われたら領地で静養している義姉のことが心配でとでも言えばいい。人の少ないところにいろ。自分から誰かに話しかけるな。分かったな!」
今日の舞踏会は、夜会とお茶会の中間のもの。
日が落ちてから開かれる夜会とちがって、まだ明るい午後3時から始まる。社交界デビューの子供たちの交流もできるようにと公爵夫人が企画したそうだ。
デビューした令嬢令息は本館のダンスホール。デビュー前の子供たちは別館のダンスホールに集まるらしい。
夜会ならば……あまり明るくあければ、身代わりになっていても気がつかれないかもと思っていたのに……。
明るい時間帯から始まるなんて。
馬車を降りると、目の前には想像の何倍も立派な建物が見えた。
すごい。日の光を浴びて、建物が真っ白に光っているよう。綺麗。
「こっちだ。ぼーっとするな」
お父様が私に腕を差し出す。
周りの人たちを真似して、そっとお父様の腕に手を回した。
……こんなことになって、初めてお父様にエスコートしてもらえるなんて……。
でも、エスコートしてもらっているのは、ヴァイオレッタじゃない。「アイリーン」だ。
建物の中に入ると、一段と光輝いていた。黄金に飾られた壁の装飾。見上げれば天井には色彩鮮やかな絵が描かれている。
綺麗な絵。
公爵夫妻へのあいさつの列が続いている。上位貴族から挨拶をするため、下位貴族である子爵家はずいぶん列の後ろの方だ。他の人たちは並びながら、近くの人といろいろと話を弾ませている。
お父様も後ろに並んだ背の高い男性と話を始めた。
誰を見ても誰が誰か分からない。と、眺めていると、こちらを見ている男性と目が合った。
知り合いだろうか?
にこりと微笑んで小さく頭を下げて視線を外した。
誰だろう。お父様に確認した方がいいかもしれない。
これ以上誰かと視線が合うのが怖くて、観察するのはやめることにした。
少しだけ視線を上げれば、天井に描かれた美しい絵画が見える。
四角く区切られ、一つずつにテーマが設けられて描かれている。
真っ赤な薔薇が咲き誇る絵があるかと思えば、見目麗しい女性が描かれている絵もある。馬に乗った勇ましい騎士様に、青く澄んだ空……。
「何を見ているんだ?」
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