第2回『平原の厄介者・ディグラビット6』
平原の厄介者、ディグラビット。
彼らが厄介者と呼ばれる主な理由は、すでに説明した通りその巣穴にあります。
しかしもうひとつ、彼らが厄介者と嫌われる理由があるのです。
「ディグラビットは主に草を食料としているため、草食性のモンスターだと思われがちです。
しかし実際は雑食性で、草でなくとも何でも食べることができるんですよ」
そう。ディグラビットはもともと雑食性であり、肉でも食べることが可能です。
基本的に臆病な性格であり、草を食べていれば十分に生活できるため積極的に他の動物を襲うことはありませんが、例外となる時期があります。
それが、草などが枯れてしまう冬。
主食である草が無くなってしまうため、彼らは食糧を求めて他の動物を襲い始めます。
「彼らは――というよりも、モンスターは基本的に冬眠をしません。
ディグラビットも当然冬眠はしませんから、集めやすい草が無くなれば他の動物をターゲットにします」
冬場のディグラビットが厄介だと言われる所以は、獲物を狩ることができるよう集団で行動し始める点にあります。
単体で見れば、爪が脅威ではありますが決して強いとは言えないディグラビット。しかし集団で行動するとなると、話は大きく違ってきます。
当たれば致命傷を負いかねない爪が、縦横無尽に襲い掛かってくるわけですからね。
「狩りをする際のディグラビットは、最大で20匹程度で行動します。
集団で襲われてしまえば、スケイルウルフでさえ相手にならないでしょう」
平原においては絶対王者とも言われるスケイルウルフ。それすら狩りの対象としてしまう、冬のディグラビット。
もちろん我々人間も例外ではありません。実際、冬場にディグラビットの犠牲となる探索者の数は、それこそ1年でモンスターの犠牲になる探索者全体の、実に10分の1を占めています。
「知能の低い彼らは、数で襲って狩猟を行います。単純な物量だからこそ対処方法も少なく、突然襲われれば逃げることも困難でしょう。
普段は巣穴による被害が、そして冬になれば実際に襲われる被害をもたらす。
これこそ、彼らが平原の厄介者として嫌われる大きな理由なんです」
巣穴と襲撃、常に何かしらの被害をもたらすディグラビット。
なるほど確かに、厄介者と言われるにふさわしい存在です。
しかし、そんな彼らもまた、私たちの生活には欠かせないモンスターでもあります。
皆さんもレストランなどの場所で、ディグラビットの肉を食べたことがあるのではないでしょうか。ディグラビットの肉は非常に美味で、捕獲するのも難しくないことから食肉用のモンスターとして重宝されています。
「バインドボイスで気絶させ、暴れると危険な前足を切り落としておく。
これだけで簡単に捕獲できるディグラビットの肉は、安価で購入できる肉として多く市場に出回っています」
ちなみにディグラビットの肉は、高級な牛肉や豚肉とそん色のない味でありながら、それこそスーパーに並ぶ肉と同じか少し高いくらいの価格で購入することができます。
そのため、ディグラビットの狩猟を専門とする探索者も存在します。
もちろん買取価格も低めですが、ローリスクでありながらリターンはそこそこと、メリットの方が大きいのです。
「安定して手に入ることはありませんが、それでも手に入りやすい美味しい肉なのは事実です。
まあ、いろいろと迷惑をかけられていますから、そのくらいは役に立ってくれていいかもしれませんね」
苦笑しながらそう結んだ博士の言葉に、我々取材班も同じく苦笑しながら頷きを返しました。
さまざまな被害をもたらす厄介者でありながら、一方で探索者と私たち一般人両方にとって、収入と美味しい肉というメリットももたらすディグラビット。
彼らは今日も、そんな自分たちの評価など気にせず穴の中で暮らしています。
巣穴に無頓着な一方、自分の命に関わることには驚くほど賢い一面を持つ彼ら。
愛らしい見た目の一方で、凶悪な爪と集団で獲物を襲うという一面さえ持っています。
ディグラビットの持つ二面性は、モンスターの中でもかなりギャップの激しい部類に入るでしょう。
もしかしたら彼らは、そんな二面性すら自分の武器としているのかもしれません。
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