ビルの屋上で ①

 男は、ビルの屋上に立っていた。

 いや、立ってはいたが、地に足は着いていなかった。


 夜をなでるような漆黒の髪に、黒色のロングコートを着て。


 眼下の光を眺めていた。


 都会の喧騒は、日が暮れても、やむことはなく。

 否、

 夜こそが、賑わう街もあるのだな、と。


 眩しいネオン。


 毒々しい光。


 一方、男の足元には、淡い光の球が幾つも浮いていた。


「今日の仕事は、これか」

 



 満月の夜、

 生命は 空から地へと 生まれ来る。


 新月の夜、

 生命は 地から空へと 戻り逝く。


 男が担うのは、その一端。


 今宵、満月、

 空から降りた生命は、

 これから 地上で咲く生命。


 然るべき場所へ 行き、咲くまでを、

 男は 空と地の間で 見届ける。


 それが、仕事。



 

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