第7話 鏡に映る自分を視認。妖精たちは混乱している。

 メリアは顔を真赤にして怒っているが、フローシアはニヤニヤと笑っておりご機嫌なようだ。


「すまんすまん。久々に人間に会ったから盛ってしまったかの。お詫びに脚を治してやるからコッチに来い」

 

 フローシアはメリアを招き寄せると魔術繊維の糸を脚の患部に巻きつける。


「ふむふむ。このくらいなら30分もすれば治るじゃろ。

 クルス、ヌシはその間に風呂にでも入ってこい。

 家の裏手の建物がそれじゃ」

「お風呂!お風呂があるんですか!?」


 メリアが目を輝かせて尋ねる。


「んふふ。しかも浴槽にお湯を張って入浴する湯殿式じゃ。

 お貴族様でもそうそう持ち合わせてはおらんぞ」

「あのー……私も後でお借りしていいですか?」

「よいぞよいぞ。

 せっかくじゃし、わらわも一緒に入ってやろうぞ」

「……変なことしないでくださいね」

「んふふ♡」


 僕はフローシアの指示どおり、風呂があるという小屋に着いた。

 だが、風呂とはどうやって入るものなのかわからない。


 ……わからないんだが。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『ホムホムもだんだん俺達の利用法が分かってきたじゃないか』


【転生しても名無し】

『まー、とりあえず服を脱いで、自分の尻を叩きながら「びっくりするほどユートピア!」と3回唱えろ』


【転生しても名無し】

『やめたれwwww』


【転生しても名無し】

『服は浴槽のある部屋の前で脱げ。下着も全部だ。

 浴槽のある部屋に入ったら桶で浴槽の湯を掬って体にかける。

 で、たわしで体をゴシゴシ磨いて、汚れが出きったら再び湯をかけて洗い流す。

 それがすんだら浴槽に体をつけろ』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 やってみる。


 服を脱いだ。

 出撃する際に鎧の下に着ていた服だが、これまでの道程でボロボロになってしまっていた。

 脱いだ服を置いて、浴槽のある部屋に入ってお湯をかける。

 温かい。心地よいと感じる温度だ。

 そして、タワシとやらで体を磨く。


 うん、これも程よい刺激で、心地よい。


 体を磨いていると壁に鏡がかけられていることに気づいた。

 全身が映るサイズの鏡だ。

 なるほど、これで汚れているところを見つけて、磨くのか。

 僕は頭と首の間や、脇の下、背中など普段見ることのない場所を重点的に磨いていく。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『……ホムホム。ちょっと聞きたいことあるんだけど』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 なんだ?



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『ホムホムって、女の子? 男の子?』


【転生しても名無し】

『それなwww

 いや、確かに性別は聞いてなかったけど、てっきり男だと』


【転生しても名無し】

『え!?いや女の子でしょ!

 目がくりくりしてるし肌ももちもちしてるし!』


【転生しても名無し】

『髪の毛もツヤサラのロングヘア……並の女より綺麗じゃん』


【転生しても名無し】

『胸はぺたんこだけど、股間は……?』


【転生しても名無し】

『クソ!湯けむりで大事なところが見えん!』


【転生しても名無し】

『フローシアが作り物めいた端正な顔立ちって言ってたからビジュアル系みたいなイケメンだと思ったら、中性的な美少女顔じゃねえか!! なにこれ! 超俺得!!』


【◆オジギソウ】

『私女だけど、いや、これちょっと男女関係なくキュンと来るタイプの顔というか……

 そりゃあメリアちゃんも警戒しないわ。フローシアさんもつまみ食いしたくなるわ。』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 ちょっと何言ってるか分からない。

 ちなみに僕のモデルになったのはロマネスク英雄譚に出てくる聖天使エルガイア。

 性別は曖昧だ。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【◆野豚】

『曖昧かあ……なあ、みんな提案があるんだが。

 この件については曖昧なままにしておかないか?

 男だと思うやつは男。

 女だと思うやつは女。

 雌雄同体と思うやつはそういうことで』


【転生しても名無し】

『異議なし!』


【転生しても名無し】

『そうだね。ホムホムの性別は皆の心のなかに一つだけあるんだよ』


【転生しても名無し】

『とりあえず見た目美少女ってだけで俺はホムホムを幸せにするモチベーションが増したぞ』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 浴槽のお湯につかると体の筋繊維が溶けるような感覚を覚えた。

 非常に心地よい。

 未知の感覚だ。

 なるほど、だからメリアはあんなにも目を輝かせていたのか。

 人間は心地よくなるために生きているのかもしれない。




 風呂からあがると、着替えが用意されていて僕はそれに袖を通して外に出た。

 湯上がりの火照った肌に冷たい夕風が当たってふわりと浮き上がりそうな心地になった。


「あっ。クルスさん! 見てください!」


 メリアが元気に飛び跳ねている。

 完治した自分の体を確かめているようでご機嫌だ。


「凄いですねえ、フローシアさん。治癒魔術って高度な術式なのにこんな糸一本で治しちゃうなんて」


 ホムンクルスの魔術回路を設計した魔術師なのだから当然だ。

 あの魔術繊維の糸もおそらくは魔法陣の外円。

 脚に巻きつけるようにしてメリアの体自体を魔法陣の一部とみなして回復させたのだろう。

 だが、その話をメリアが知ることはないし、フローシアも黙っておくようだ。

 森の中で1人暮らす彼女にとって自身の名や正体が広がるのは望むところではないだろう。

 それよりも、だ。


「メリア。あなたに言っておきたいことがある」

「え、はい。なんでしょう?」


 少し首を傾げながら上目遣いで僕を見つめるメリア。

 怪我が治って痛みが失われたおかげか魅力が増しているようでで、


▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【◆与作】

『メリアちゃん、可愛すぎてツラい……俺もそっちの世界行きたい……』


【転生しても名無し】

『表情が明るくなったよね。

 元々こういう天真爛漫という感じの女の子なんだ』


【転生しても名無し】

『守ってあげたい、幸せにしたい、味噌汁作ってほしい、お父さん! メリアさんを僕にください!』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△


 と、妖精たちが騒いでいる。

 いや、それよりも、だ。


「蛇に遭遇した時、自分を囮にしろと言ったな」

「あぁ…………ハイ」


 気まずそうに目を逸らすメリアに僕は言葉を続ける。


「ああいうことは今後しないでほしい。

 僕の目的はあなたをイフェスティオ帝国まで連れて行くことだ。

 あなたに死なれては目的を失ってしまう」

「……軽率だったと思います。

 でも、もしどちらかの命を選ばなければならない状況だったら私は————」

「そんなことはさせない。

 メリアは僕が守る」


 彼女の反論を押さえつけるように僕の口から自然と言葉が出た。

 目を丸くしながら押し黙ったメリアは、「えっと」とか「その」とか言葉の切れ端を漏らしながら、少しずつ呼吸を整えて言葉を返した。

「……ありがとうございます。あはは……そんなお姫様がもらうような言葉、初めてもらっちゃって戸惑っています」

「そうか。でも大事なことだ。あなたは戦闘の素人だ。勝手な判断をせず僕に護られていればいい」

「……はい、分かりました」

 

 うなづくメリアの口元は緩んでいた。

 

 メリアが風呂のある小屋に入ってすぐ、家の玄関の柱からフローシアが現れて、


「やるのう。色男め」


 すれ違いざまに僕に告げるとニマニマと笑みを浮かべながらメリアの後を追うように小屋に入る。

 色男……とはどういう意味だろうか?



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【◆与作】

『フローシアさんに同意』


【◆バース】

『なんや、ホムンクルスには女口説く機能はついとったんや』


【転生しても名無し】

『ホムホムやーらしー』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 話の通じない妖精たちとの交信を僕は諦めた。




 二人が風呂から上がると、フローシアは手早く夕食を用意してくれた。

 ホムンクルスに食事の必要はないが、蛇との戦いで損傷した部分の修復を進めるために僕も栄養を補給する。

 ただ、栄養補給のつもりで口にした食事が存外心地よい。

 これは地下洞窟で水を飲んだ時に感じた「おいしい」という感覚だろう。

 その様子を見たフローシアは気を良くして次から次へと食事を作ってくれた。



 夕食を終え、僕たちは改めてフローシアに状況を話した。


「イフェスティオ帝国に帰りたいとな」

「はい。私はイフェスティオにある商会の娘で、販路拡大の為にサンタモニアの商会に嫁ぐことになっていたんです。

 ですが、城塞都市アイデンブルグが陥落した今、イフェスティオとサンタモニアとの販路は閉ざされました。

 もはや、嫁ぎ先にとって私は負債でしかないでしょう。

 門を叩いても無視をされるのが目に見えております」

「負債のう。化粧もせずこれだけ見目麗しい娘なら価値はあると思うがのう」


 フローシアは舌なめずりをしながらメリアの顔を覗き込むように見る。


「ありがたい評価ですが……商人にとっての結婚は商売の戦略の一手に過ぎませんので」

「ふむふむ。たしかにサンタモニアで暮らすにしても身寄りのない娘ができる仕事なんて限られとる。

 気ままに生きるというのは難しいものじゃのう」


 フローシアはこの上なく気ままに生きている気がするが、僕は口を開かない。



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『ホムホムは空気を読むスキルを覚えた』


【転生しても名無し】

『そのスキル、ワイも欲しい』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



「イフェスティオに向かうには魔王軍の勢力圏を突っ切る必要がある。

 お供がクルスだけでは戦力として心もとないしのう」


 フローシアは安楽椅子をゆすりながら、腕組みをして目をつぶる。

 しばらくして、目を開けると。


「そうじゃ! お使いを頼まれてくれんかの!

 ある者に渡したい物があるのだが、わらわはこの森から出たくないのでのう。

 それをやってくれたら、依頼料代わりにヌシらを警護してイフェスティオまで送り届けるようその者に申し添えよう」

「お使い……伝令の任務か」

「まあ、そんなもんじゃな」

「あの、そのある人って誰で何を届けるんですか?」

「届ける物は……わらわお手製の魔導書じゃ。

 気が向いたら送りつけると約束しておってな」


 それは約束になっているのだろうか?


「で、届ける相手はソーエン国の首都、ダイリスに住むブレイド・サザンという男じゃ。

 そろそろ20歳頃になるのかのう」


 ソーエン国。

 サンタモニアの北の海にある島国だ。

 地理的な情報しか知らないが、確かにソーエン国からならば、海路を使って魔王軍の勢力範囲をすり抜けられるはず。

 僕がそんなことを考えていると、メリアが血相を変えて立ち上がった。


「ソーエン国ですって!?

 国民はみんな、人間とオーガのハーフと呼ばれるくらい野蛮なソーエン国ですか!?」

「ひどい言われようじゃのう。

 イフェスティオではそう習うのか?」

「ええ……あそこはハルモニアに軍事協力はしているものの、友好条約は結んでなかったりで謎が多い国ですから。

 それに戦闘民族を自称するくらい戦好きな国民性で、魔王戦争以前の時代では周辺国に侵攻して虐殺の限りを尽くしていたとか」



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『ソーエン人は戦闘民族だ! 舐めるなよ!』


【転生しても名無し】

『穏やかな心を持ちながら怒りによって目覚める伝説の超ソーエン人がいるんですね。わかります』


【転生しても名無し】

『もう、そいつらに魔王倒してもらえよ』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 メリアは不安そうに僕に視線を向ける。

 これは僕にも同意して欲しいというサインだろう。

 だけど、僕は――


「メリア、この依頼をうけるべきだ」

「クルスさん……でも……」

「どのみち僕らに安全が保証された選択肢はない。

 イフェスティオへの旅はそれくらい危険なものだ。

 それに、フローシアがむざむざ僕達を死地に追いやる理由もない」


 フローシアと出会っていくらの時間も経たないが、彼女は人の死を忌避する程度には良識がある。

 アーサーの末路に心を痛める程度には。

 僕の言葉にフローシアはニマーッと笑った。


「ま、そういうことじゃな。

 少なくともソーエンの国民は亜人でも魔族でもない、普通の人間ばかりじゃよ。

 戦好きなのは否定せんが、それでも話が通じない相手ではないよ」


 僕とフローシアの言葉にメリアは渋々同意する。

 出発は明日の朝だ。




 その日の深夜、僕は荷造りをしていた。

 フローシアは気前よく、家の中の食糧や薬などを好きなだけ持っていっていいと言ってくれたのだ。

 上半身より大きなリュックサックにそれらを詰め込んでいく。

 作業中、フローシアが黒い寝間着姿で僕の様子を見に来た。


「ヌシも大変じゃのう。

 あの娘の里帰りに付き合う義理はなかろう。

 ヌシさえ良ければしばらく、この家に居候していても構わんのだぞ」

「僕はメリアをイフェスティオ帝国に連れて行く。

 今は、その為にこの生命を使いたい」

「娘に惚れておるのか?」

「惚れる?」

「自分のものにしたいとかそういう気持ちじゃよ」


 メリアを自分のものに。

 そんなこと考えたこともなかった。

 僕らホムンクルスは国のモノでその生命は消耗品だった。

 だけど、メリアだって商人の世界では一つの駒として物のように右から左に運ばれている。

 そういう意味でメリアを自分のモノにできる人もいるのだろう。

 だけど僕は、


「それはない。

 メリアは人間だ。ものじゃない。

 だからぞんざいには扱えない」


 メリアは僕が優しいと言ってくれた。

 心を持たないはずのホムンクルスに。

 彼女がそう言ってくれたから、僕は自分が優しいのだと分かった。

 優しいということは心があるということだから、僕には心があると分かった。

 僕はモノだった。でも今はモノじゃない。

 そのことに心地よさを感じるから、僕はメリアをモノにはできない。


「でも、メリアと一緒にいたい。

 僕に彼女は必要だから」


 フローシアは大きなため息をついて、


「はいはい、ごちそうさんでございました。

 まったく、デキが良すぎて可愛げがないわ」


 フローシアは階段を上がろうとする。


「すまない、フローシア、もうひとつ頼みがある」

「なんじゃ。案外注文の多いやつじゃのう」

「僕に武器をもらえないだろうか。

 剣でも槍でも斧でもいい。

 森を抜けるにしても丸腰では心もとない」


 僕の言葉にフローシアは少しの思案の後に「ピンときた!」と言わんばかりに手を打った。


 フローシアに招かれて入った彼女の寝室にはベッドとタンスと化粧台があった。

 フローシアはタンスの一番下の段から布に包まれた何かを取り出すと、


「重っ!

 ひぃぃ、か弱いわらわには酷な作業じゃっ!」


 と悲鳴を上げながらその包みを床においた。


 僕は了解を取ってその包みを開けてみる。

 中身は剣だった。

 片手持ち用の長剣。刃渡りは80センチといったところか。


「昔の男が置き忘れていったものじゃ。

 いつまで経っても取りに来ないから捨ててやろうと思ってたんじゃが……

 持っていっていいぞ」


 僕は剣を手にとってみる。

 サンタモニアの通常装備の長剣よりは幾分重いが問題なく振り回される重さだ。

 刃の状態はどのようなものかと、鞘を引き抜くと――






▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【sま;ksgjvのっら】

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【転生しても名無し】

『な、なんじゃこりゃあ!?』


【転生しても名無し】

『気持ち悪っ!! 文字化け!?』


【dfさvmprめbrs】

『fまs土fkjいf8うt984うvんw89うんt8うwhv0tyw98えrwtvw9m8fじおうhgvryt345789tvyをんtq3yvt87うぇhtんw8おgん78rh87tchmvをえるほいty3tv7ん87wじぇゔぇ87vtw3478vyq38tvyん9vt3c8mthw87えvtgy78んt4h4お8m3478vyt34y4yのいえうひすyんw7ty4w789お4yt87w4vyん3んち34うtc34ytv87ねshふぃうshfgすyfyいるsgfvshjcbすyぎうやsdgふぃんゔぁいbゔぃctvwhぁんr』


【転生しても名無し】

『おいおい!ホムホム!?どうなってんの!?』


【転生しても名無し】

『ちょっ!! なんだよこの書き込み!!』


【転生しても名無し】

『ウイルスでも感染したか!?』


【あdふぁs界だs生fdshtもtっっr無し】

『さじゃそhふぃうvそvfmじゅfmwvうぃ、kゔぁふぃjこvrvーーーーーーーーー見ているな。貴様ら』


【転生しても名無し】

『うわあああああああああああ!!』


【転生しても名無し】

『ちょ!? ホラー展開!? 笑えないんだけど!!』


【転生しても名無し】

『やめろ! 俺一人暮らしなんだぞ!』


【転生しても名無し】

『余計な……真似をするな………だふぃおうsんfvwqhr98qhvrqjんfw09vm0』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△





「しっかりせいっ!」


 フローシアの喝で意識が戻った。

 一体何があった?

 剣を鞘から抜いた瞬間に意識が……



▽*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:▽

【転生しても名無し】

『おいおいおい! その剣やべえ! 絶対もらうな!!』


【転生しても名無し】

『その剣なんか悪いの憑いてる!! 絶対!!』


【転生しても名無し】

『てか、俺らが脅迫されたんですけど!!』

△*+*+:*+*+:*+*+:*+*+:△



 頭の中の妖精が騒いでいるが何の事を言っているのかわからない。


「剣の魔力に呑まれおったな。

 コイツはちょっとした魔剣でな、持ち手の精神に干渉する力を持っておる。

 このままじゃヌシには重すぎるな」


 そう言って、フローシアは剣の柄に糸を5本、巻きつけた。


「魔力に封印をかけてみた。

 持ってみよ」


 再び剣を手に取ると、今度は何もない。

 むしろ手によく馴染むいい剣だ。

 刀身は塗料も塗られていないのに光を飲み込むような漆黒で刃こぼれひとつない。


「今のヌシではそれ以上封印を外すと魔力に呑まれるからな。

 もっと強くなったら1つずつ封印を外していくがよい」

「感謝する。それでは借りていく」

「くっくっくっ、借りるというのは返す前提の物言いじゃぞ。

 ちゃんと返しに来るのかの?」

「いつになるとは言えないけど、また此処に来るよ。

 風呂は心地よかったし、食事もおいしかった。

 アーサーの話ももっと教えてほしい」

「……ホント、貴様は優等生じゃな」


 そう言って、フローシアは僕の頬に唇を押し当てた。


「もう少し、世間擦れしてから出直してこい。

 そうしたら、風呂や食事より心地良いことをこの部屋で教えてやるかいの」


 フローシアはくっくっくっと笑って、布団に潜り込んだ。


 寝室を出た僕の頬にはまだしっとりした温かさが残っている。

 この行為の意味を聞きたかったが、妖精たちは珍しく静かで、僕は一人で夜を越した。

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