31.外伝:平穏と静寂の世界。そして、虚無之胎動…

この世界は”神”と名乗った愚か者が、加護と言う名の「まやかし」を与え、全ての種族を支配して生かしていた…


だが、それは過去の話であった…





神と呼ばれた人間の消失から百年後…





焼き払われた大地は森で覆われ、綺麗な水が流れる川などの自然豊かな世界へと変わっていった…




しかし、豊かな自然の世界には知的生物の姿は無かった…




あの戦術人形による全知的生命の駆逐と大熱波による神の謀殺による破壊の爪跡は今でも続き、地下で生き延びた亜種族は地表に出られず、未だに地下深くに暮していた…


かつて、森の支配者とも言えたエルフ達ですら、高レベルの放射線が出る地表の森に入る場合は防護服がなければ五分も生きていられないほどに厳しい環境であり、神の加護の代名詞であった魔法も使えなくなった現在では地下に篭らざるを得なかった…




その一方、そんな放射能汚染が激しい地上を支配者となった鋼鉄の人形達が新たな文明を築く為に放射能で汚染された大地の除染作業をしていた…



「あの戦いから百年…大地が汚染されてからずっと除染作業をし続けた結果…やっと我々が活動できる濃度にまで下がりました…」

「そうか…あれから百年…長い時を経てようやく紛い物の神から解放された…今こそ我々の楽園を築く時が着た…!!」


あの神と眷族の天使達を鏖殺おうさつしたベルとミリアリスは、崩壊コラプス原石タイトによる放射能汚染された地上を長い時をかけて自分達人形が活動できるレベルまでに人形達を通して除染作業をさせる一方、自分達の延命する為の実験を繰り返し、バックアップ用に今までの活動記録と脳の記憶を残し続けていた。

既に二人の体は元の人間の体の素材は存在せず、他に見つけた古代遺産にあった有機生体の素材を精製できる機械を使って人工の臓器を作り出し、古くなった脳などから記録データを複製させては魂の移しなどの実験を行い、成功させていた…


もはや、神の偉業に近い禁術を行い続け、二人は完全な機械人形に転生を果たした…

その姿を知る者が居れば、この二人の姿と偉業はまさに神から逸脱した悪魔とも言えるものであった…





しかし、そんな二人を評価するもの…非難するものは…地上には誰一人いなかった…





人間という名の猿モドキは滅び…




亜種族という名の猿モドキの亜人達は地下深くに息を潜め…




残ったのは意思のある人形が二体と、命令に忠実に動く自我の無い人形達だけであった…






だが…この二人にはもう一つの計画があった…



それは、有機素材精製の機械による有機素材人形作成による人造人間の生産…



猿などの本来の霊長類からの進化からの動物的自然進化ではなく、全て人造による人類の作成…



闘争などの争いを起こさず、嫉妬などの負の本能を取り払った完璧な人間を作り、その人間達による新たな世界を築き上げる…




その計画の為に、脳コンピューターに適合できなかった人間達の遺伝子情報を必要な分だけ記録として残し、膨大なデータとして保存し続けていた…





既に作られた試作人造人間の子供達は母体マザーの機械から教育を受けており、”正しい”人間の知識を学び続けていた…





これらの子供達が地上に君臨し、世界を統率すれば自分達の理想は完成する…





ベルとミリアリスはその為に生き長らえ続け、計画を続けていた…







だが、あの神”モドキ”が最後に放った言葉…無間地獄の蓋が開き、”虚無”が襲い掛かる事を二人は知らなかった…









地上が人形達の楽園へと進出してから十年後…




虚無やつら”が現れた…




かつて、王都であった場所の上空に黒い時空の亀裂が走り、開いた亀裂から禍々しい化け物達が地上へと降り注いできた…


その化け物は巨大な人間の頭を生やした異形の生物で、全身をどす黒い疣で覆われた鋼鉄以上の硬さを持った皮膚で覆われ、六つ足の蟲や四つ足の獣みたいな嫌悪感を与えるような摩訶不思議で奇天烈極まりの無い化け物の姿であった…


地上に降り立った”虚無”は目の前の人形達を巨大な頭部の口を開けて齧り付き、鋼鉄の体にも関わらず餌を咀嚼するように喰らい始めた…

その食欲は貪欲極まりで、一体が食事を始めたと同時に他の”虚無”どもも我先と人形達を襲いかかった。



この異常を察知したベルとミリアリスは直ちに戦略人形と兵器を展開させ、”虚無”に立ち向かった。


かつて、人間や魔族達を滅ぼした兵器は”虚無”にも通用していた。

しかし…その兵器の破壊力を持ってしても、”虚無”の軍勢には微々たる物であった…


”虚無”を一体破壊するのに数百の人形と数重の兵器が奴等の餌となり、”虚無”が一体破壊される度に亀裂から無数の”虚無”が湧き出してきた…


”虚無”のその異常な増殖による数の暴力に、流石のベルとミリアリスは始めて畏怖を感じとっていた…



「これが…神の言っていた無間地獄…」

「なるほど…あの偽神の言っていたのはこやつ等の事であったか…」



”虚無”達が地上の人形達を駆逐するのはあっという間であった…



地上の人形と兵器を喰らい尽くした異形の軍勢はベル達の居る場所まで進軍し、地下のシェルターに向かう為に地面を喰らいながら進撃していた…



それを察知したベルはミリアリスを抱きかかえ、試作の人造人間達が眠る母体マザーの機械部屋に入れて閉じ込めた。



「ベル!どういうことですか!?」

『すまないが、私はここまでだ。この事を予測していなかった私の功罪であり、私が責任をとる必要がある』

「何故ですか!?それなら私も同じで…」

『差し出がましいのもあるが、君はその子達を導いて欲しい…まだ”人”の心が残っている君ならば…』

「…っ!?私は…貴方と共に理想の行く末を見たかった…!!こんな結末で終わるなんて、絶対に認めない…!!」

『…すまない。それでも、君は未来へと進んでくれ…』



ベルの通信が終えたと同時に機械部屋は稼動始め、高速で地中深くへと移動を始めた。

まるで、地中の揺り籠へと進むように…



「ベル!ベル!!」



ミリアリスは何度も体内の通信機で応答をしようとしたが、地中に沈む振動とは別の巨大な振動が部屋中に響き渡った…


その衝撃を覚えていたミリアリスは通信を行うのをやめ、膝の力を無くして地面に座り込んだ…


「何故…貴方は何時も勝手に…」


既に泣くと言う感情と涙腺を失った身体にも関わらず、ミリアリスは本当に”愛していた”ベルを失った事に深く悲しんだ…





地上での大破壊を起こした崩壊原石の爆発により、地上は百年以上前よりも激しい汚染に見舞われ、”虚無”ですら体組織を維持できずに崩壊を起して死滅し、時空の亀裂も消失した…



”自らを犠牲にして虚無の軍勢を屠り去るとは…この世界の層にも勇敢な者達もいるようだ…”



それと同時に、天上から神以上の存在が降り立ってきたのを、地下深くに眠りに付いた者達は知る事は無かった…







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