29.外伝:魔王という無価値なもの
人族の最大国家である王国が滅んでから半月後…
各地に散らばっていた人族は今まで虐げられていたエルフやドワーフと言った”亜人”と呼ばれ続けた亜種族の逆襲を受け続けていた…
性奴隷用に虐げられていたエルフ達は人間を家畜のように扱い、鉱山奴隷用に虐げられていたドワーフ達は人間を使い捨て鉱山奴隷として使い、今までの恨みを晴らすかのように憎しみを込めながら人間達に復讐をしていた。
また、エルフドワーフよりも数を減らしてしまったオークやゴブリンといった魔族に近い亜種族は、雄の独自特性である異種繁殖を利用するために女性の人間を繁殖奴隷として集め、今まで減らした数を取り戻そうと恨みを込めながら人間の女を孕ませていた。
一方の亜種族代表となった頭部に悪魔の角を生やした亜人である魔族達は、人族に復讐することよりもある事に警戒していた…
「人族の国家であった王国を滅ぼし、かつての勇者だった王や聖女だった王妃達を蹂躙したと言われるゴーレム達の姿はどうした…?」
「それが…我々にも探知するのは困難な状況かと…」
かつて、勇者に討たれた先代の魔王から引き継いで新しく魔王となった若い魔族の男性は、秘書である初老の魔族男性の報告を受けながら顔を顰めていた。
全亜種族を圧倒できるほどの力を持っていた王国の軍隊を蹂躙し、破壊尽くした鋼鉄の人型ゴーレム軍…
人間に限りなく近い人型の形をした鋼鉄の人形と異形の鋼鉄ゴーレムに加え、鋼鉄で出来た未知の乗り物を操り、火を噴く棒や熱光線を出す大砲、空からは巨大な爆弾を搭載した飛行物体が展開し、陸と空を圧倒的な力で潰した…
ゴーレム軍団が去り、残党狩り用に残された少数のゴーレム達の合間を命がけで潜入した密偵達の調査により、人族の王となった勇者の遺体や聖女達の屍骸を確認…王都から離れた街道に最後の王妃であった聖女レイカと勇者の子ども達の死体も確認する事に成功し、これを全亜種族と生き残った人族に知らしめる事が出来た。
しかし、その命がけの潜入中にゴーレム達に発見され、殺害された密偵達の数もまた少なくは無かった…
生きて帰っていた魔族の密偵達の全員が口を開いてこういった…
『生きた心地がしなかった…あれらは人間だけを滅ぼす救世主たちじゃない…あれらは全ての者に滅びを与える者達だ…』と。
安全な場所に帰ってきたのにも関わらず、恐怖に染まり、何かに怯えるかのように震え続ける密偵達の情報に、新魔王は深く考え続けていた…
次の滅ぶ番は、自分達ではないか…?と。
新魔王は信頼をおける部下のみにこの事を伝え、魔族の民に不安を与えないように秘密裏で調べ続け、対処をしようとしていた…
だが…新魔王の願いは脆くも崩れ去る事になった…
王国が滅んで半年後。
魔族が支配する国の大地にて、鋼鉄の人形達が大規模な軍隊として現れた…
その数は王国を滅ぼした時の20倍以上で、平原の地平線から横一列に見えるほどの行進であった…
異常なほどの圧倒的な数…
疲れなどを一切見せずに絶えず進み続ける敵達…
それに追従するかの化け物のような鋼鉄の乗り物達…
人形師のゴーレム技術などを有効活用してきた魔族でさえあまりにも多い異形の敵達に恐怖を覚え、急ぎ荷造りをして逃げ出す者が続出し、魔王軍再建をしていた兵士達は異形の軍勢に立ち向かっていった…
しかし、立ち向かった魔王軍は無惨にも返り討ちに逢い、壊滅していった…
人型が持つ火を噴く棒こと銃は王国を滅ぼした時よりも改良されており、より早く発射し、飛び出す弾の量や大きさも改良されていた…
特に、大型の機関銃や巨大な弾を発射する狙撃銃、突撃用の自動小銃や短機関銃の持つ人形により、前線で
その上、壁役であった盾持ちの四足ゴーレムの他に、360度に弾を発射して進む散弾式兵器搭載の四足ゴーレムが先陣を切って弾をばら撒き、湿地が多い魔族の国でも障害物を感じる事も無く進み続けるホバークラフト式の戦車による熱光線兵器による破壊により、魔王軍の被害を大きくする要因であった…
鋼鉄の人形達による魔族の蹂躙虐殺は国全体に広がって続き、残すは先代魔王が居たとされる魔王城がある都市のみとなった…
「魔王様。住民達は限界で御座います…」
「戦える魔物や魔獣達も既に全滅しております」
部下達の声に、新魔王は静かに溜め息をつき、万策を考えていた…
あの無慈悲の殺戮集団に対抗できるものはあるのか…?
(あの化け物どもは遥か旧世界で生み出された物…今更、あの作られし神による加護などで対抗できるものではない…)
そう心の中に問いかけ、一つの答えを導いた。
(ならば…我々も生き残りをかけて、奴等と同じ旧世界の兵器を使う以外に無い…)
結論に導いた魔王は顔を上げ、声を発しようとした。
それと同時に、魔王と同じ世代の魔族の若者が魔王に近付いてきた。
「ビスマルクの兄者」
「ティルピッツか…」
魔王の”実の弟”であるティルピッツは敬礼をし、口を開いた。
「奴等に対抗するアレの準備が完了致しました」
「そうか…お前には苦労掛けさせたな」
「いいえ。これもまた、繰り返してきた”我々の業”であるかと…」
「そうだな…この世界…この時代でも、我々は”敗北者”として名を刻む事になろう…」
呟き終えた魔王は静かに目を閉じ、威厳を込めた声で発した。
「だが、我々は完全な敗北を認めるわけではない。”鉄血”と呼ばれた我等の祖先、今居る時代の人族とは違う”人間”としての誇りをかけて、あの異形の軍勢と最後まで戦う」
「魔王様!それでは…!!」
「但し!…若い男女は地下深くにあるシェルターに向かい、争いがない時代が来るまで眠って欲しい。頼む」
魔王が部下に告げ、部下が無言で一礼して下がったのを確認した後、魔王は弟と共に戦場へと出陣した…
魔王城周辺の城下町は壊滅寸前であった…
レンガ造りの家々は粉々に壊され、歴史ある建造物の殆どは戦略人形と鋼鉄の機械によって跡形も無く蹂躙され、その周りには無惨に転がる魔族達の死体があった…
「ミリアリス。状況はどうだ?」
「魔族の90%以上の殲滅完了。あとは魔王城にいる奴等のみです」
「そうか。奴等を根絶やしにすれば、下らない争いが終わり。奴が具現化するはずだ」
「ええ。…?ソナー探知にて地下から振動が」
「なんだ?奴等の最後の抵抗か?」
ベルから放ったその言葉の後に、魔王城の城門から巨大な物体が現れ、城壁を突き破って姿を現した。
その巨体は魔王城を囲んでいた戦車達よりもでかく、例えるならば巨大陸上戦艦とも言える代物であった。
「兄者。”ラーテ”の砲撃準備完了です」
「よし、全門斉射!!」
魔王の号令と共に、陸上戦艦ラーテに備え付けられた総数18門の巨大な三連装主砲が順当に火を拭き、取り囲んでいた戦車達を次々と破壊していった…
戦車たちもまた反撃として熱光線砲で応戦し、ラーテの装甲を焼き尽くそうとした。
しかし、ラーテの装甲は熱光線を浴びてもびくともせず、何事も無かったかのように佇んでいた…
「あれは…ミスリル鉱物で作った装甲か」
「そうなれば、通常の熱量兵器や爆弾では貫通しません」
ベルとミリアリスの二人はそう呟きながら、自動的に応戦する戦略人形達と無人兵器達の攻撃とラーテの反撃を眺めていた…
一方のラーテに乗り込んでいる魔王達はレーダーモニターに移る移動点を眺め続けていた。
「移動シェルター。もうじきマグマ層に到着する予定です」
「生き残る民には申し訳ないが、今しばらくはその地下深くに身を置いてくれ…。お前達、私の特攻に付き合わせてしまい、申し訳ない…」
魔王の言葉に部下達は首を横に振り、魔王に目を向けて言い放った。
「我々は家族と子孫を守る為に、ここに立ちました!」
「魔王様が魔族を守る為に、命をかけて前に出られておられるではありませんか!」
「なら、我々は最後までお供するまでです!!」
司令室に居る部下達に続いて、艦内の無線からも声援が飛んできた。
『次弾装填完了!魔王様、いや艦長!俺達は何時でも戦えるぜ!!』
『最後の最後までやりつくしましょう!!』
艦内に居た数百人以上の部下達の声が上がると共に、魔王は静かに涙し、小さく「ありがとう」と呟いた。
そして…
「総員!敵、異形の機械軍勢に突撃!我々の最後を見せ付けるのだ!!」
魔王の号令と共に、艦内から喝采が上がり、取り囲む戦略人形達に攻撃をし続けた…
外ではラーテの主砲と副砲に加え、小型の機関砲による砲撃により攻防一体で膠着していた…
「あまり手の内を見せたくなかったが…アレを使うか」
ベルの言葉に察したミリアリスは後方に控えていた飛行部隊に念動で指示を出し、護衛の飛行機と共に巨大な爆撃機が飛び立った…
その爆撃機がラーテの真上に達した時、数発の巨大な爆弾が空中から降下され…ラーテに直撃した。
爆弾の直撃を受けたラーテはその巨体を激しく揺らし、落とされた上部からは炎と煙を上げはじめた…
「ぐっ…!被害状況は!?」
「第二エンジン付近に被弾…弾薬庫を損傷しました…」
爆弾の直撃を受け、頭を強く打ち付けた魔王は頭部から血を流しながらも部下の報告を受けていた。
(弱点である上部にもミスリル鉱物を使って軽減していたが…どうやら奴等にも
魔王は内心で解析するも、連続で爆撃を受け続けるラーテの衝撃に揺られ、衝撃が起きるたびに艦内の電子機器の導線から飛び散る火花などにも浴びていた…
『第三砲塔被弾!爆発炎上起こし、第三班が壊滅!!』
『第六砲塔も炎上!!第六班長戦死!生存者は残りの砲台に移動中!!』
『動力部に異常発生!電力供給が追いつきません!!』
『弾薬庫に火災!消火作業を続行中!!』
『艦長!これ以上持ちません!!』
部下達の報告を受け続けた魔王は、車体カメラから映し出されるモニターにいる外の敵を眺め、静かに呟いた…
「これまでか…」
「いいえ、兄者。ここまで良く持ちました…」
弟のティルピッツが声を発しながら、先程から捕らえていた地下シェルターのレーダーが到達ポイントにまで達する合図を送っているのを魔王に教えていた。
それを確認できた魔王は静かに安堵をし、司令室にある艦長椅子に備え付けられたボタン式のリモコンを取り出した…
「生き残っている総員に告ぐ…これより、我ら神風となりて敵を撃滅する…すまないが、付き合って貰って良いか?」
魔王からの最後の号令に、艦内の生存者達は唾を飲み込んだが…既に死地に向かうと分かっていた上で、魔王に向かって静かに敬礼をし、最後の大仕事を始めた…
砲塔にいた全員が主砲等を自動照準にさせた後に動力部へと向かい、可能な限りにエンジンなどを修復作業に入っていった…
「敵、巨大”戦車”がこちらに向かってきます」
「奴等、気が狂ったのか?…いや、これは…退避するぞ。ミリアリス」
「えっ?」
「奴等、自分の命ごと我らを消し飛ばすつもりだ」
ベルがそう告げると同時にミリアリスを抱えてヘリコプターに乗り込み、戦場であった魔王城付近から撤収した。
それと同時に、残っていた戦略人形達に最後まで攻撃するように命令を送り、時間稼ぎを行った…
動力部のエンジンが停止し、動きが止まったラーテの周りを囲む戦略人形達は艦内に入るために穴の開いた上部へと目指して登り、飛行機などで空輸されてきた部隊も空いた艦体の穴に向かって降下していった…
「悔いはないか…?」
「ええ。…来世でも、兄弟でありますように」
「お前となら、何処に生まれ変わっても上手く出来そうだな…」
先代の魔王時代、平民の母の庶子として生まれた現魔王ビスマルクとティルピッツは先代魔王が討伐されるまでは冷遇されており、貴族社会からは疎まれる存在であった…
しかし、二人が平民を蔑ろにしないビスマルクの政策と人族との戦争でも貴族出身の魔族達よりも健闘したティルピッツの二人が活躍した事で平民と軍人達から親しまれていた…
一人だけなら出来なかった事を二人で行う事により、長い間魔族達を守る事で愛されていた…
例の勇者達によって魔族側の貴族が一掃されてから、現魔王として立て直す事となったが…
1000年以上前から存在していた古代文明の兵器によって今滅ぼされようとしている今この時まで、民を守る為に自ら犠牲になろうとした…
そう、魔王という一人だけの犠牲では出来ず、自分と弟…それに付き添ってくれる部下達と共ならば出来る…
既に艦内に侵入され、生き残った部下達は戦略人形との白兵戦を行い、その命を散らす中…
司令室に唯一生き残ったビスマルクとティルピッツ二人は、静かに頷いた後…最後の電力を起動させ、手に持っていたリモコンのスイッチも持ち…
『お母さん…』
一言呟いた後、スイッチのボタンが押されたと同時に、艦全体が白い光に包み込まれ…魔王城の辺り一帯を閃光に包み込んでいった…
遠く離れたベルとミリアリスは、、地上から発生した成層圏に届きそうな巨大なキノコ雲を眺め、静かに呟いた…
「奴等も、古の兵器である”核”…いや、
「遺跡の資料にもあった、大崩壊を招いた物質なのですか?」
「ああ…もはや、跡形も無く消え去ったのだろう…行くぞ、ミリアリス。”敵”はまだ残っている…」
ヘリコプターに乗り込むベルに続いて、ミリアリスもまたキノコ雲の光景を目に焼き付けながらヘリコプターに乗り込み、魔族が支配する国の地から離れていった…
この日を持って、魔族は絶滅したとされ、残りの亜種族達に激震が走り、今まで不干渉であった神と呼ばれる者からも激震が走った…
ただ、地下深くへと潜っていった生き残った若い魔族達は、地上から自動的に送られてきた魔王の最後の報せを受け取り、静かに悲しんでいた…
しかし、魔王の遺志に従い、争いがない時代に再び地上へ君臨する為に眠りに付く事にした…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます