私、家出するけどちゃんと探してよね!

スーパー・ストロング・マカロン

プロローグ

「愛。」


「英語ではLOVE。」


「スペイン語では…なんだっけ?初めからわかんない。」


ソラはぶつぶつ独り言を言いながらシャーペンでノートに各国の言語で愛という言葉を書いていたが、すぐ手が止まった。



大嵐おおあらしさん?」

女教師がソラを呼ぶ。


「ソラ?ソラってば。先生が呼んでるよ。」

後ろに座るクラスメイトの女の子が声をかけて教えてくれたもののソラは"愛"についてひたらすらノートに書き込んでいる。

外国語で愛という単語を書くのを止めて、ポエムを書いていた。


「大嵐さん?私の話を聞いてるかしら?熱心にノートをとっているかと思えば、愛ですって?」


「あっ先生。」


「あっ先生。ではありません。

今は数学の授業をしているんです。愛について考えたいなら放課後にしたら?キュートな哲学お嬢さん?」


教室にいる生徒が数人、クスクス笑い始めた。


「先生、私ね。高校を卒業したらウミと絶対に結婚します。ねっ、ウミ。」


クスクス笑っていた生徒達は少し間を置いてから、サッカーの試合で応援しているチームが得点をあげた時のサポーターのような盛り上がりをみせた。


ソラの隣に座っているウミは恥ずかしさのあまり机に顔を伏せたが、真っ赤に染まった耳までは隠しきれなかった。


「し、静かに!あなた達授業中ですよ!」

女教師はアウェーの空間に負けじと、ソラからサッカーボールを奪おうと声を張り上げたが、ボールを支配しているのはソラであり、もはや焼石に水だった。



「ねぇ、ウミ?私はウミの事、ずっと見てきたの。

ウミが眠そうに授業を受けている時も、ギターの練習をしている時もスーパーのバイト先でお客さんに怒られてすぐ辞めた時もね。

テスト期間中だってそうよ。

隣の席から私のテスト用紙をコソコソ覗いている時もほんとは気づいていたのよ。

だって私、ずっと見てたんだから。

私の愛は田沢湖よりもバイカル湖よりも深いの。

ウミの事は私が1番知っている。

私をこれからも隣に居させて。

ずっと見ていたいの。

だから私の愛には誠実に向き合って。」


「ウミ!ソラちゃんを幸せにしろよ!」

「日本一可愛いソラちゃんを泣かすんじゃねぇぞ!この幸せ者が!」

ウミと友人である男子達が手を叩きながら囃し立てる。



「ウミ、いつまで顔を隠しているの?」

ウミはその言葉に反応したようで顔を上げた。

制服の袖の跡が額にくっきり残っている。


ソラは椅子を後ろにずらして身体をウミ側に寄せた。


「ウミも私と同じ。

狂っても、死んでも、私だけを見て。

私だけを愛して。でないと…でないとウミの事、どんな手を使ってでも愛という名の元に苦しめてあげるからね。」

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