26・パネル

 庁舎の前の道をまっすぐ行ってで右に折れると、すぐにもとは旧道の名残と思われる道が広がっていた。

 壊れた、あるいは撤去された昔の家は両脇につらなっていて、昼のうちにナツミたちが集めた結晶はキラキラと、あちこちに見えた。

 あれはなんだろう、とドラコに聞いてみたら、あれは人の魂のようなもの、かな、と、ドラコは答えた。

 そうだとするとナツミがばくぜんと持っていた考えは当たってたということになる。

 そしてそのようなものはコンビニでお金に変えるというようなことはできないのも当然だ。

 たとえお金に変えられたとしても、みんながお金として使える金額は19999ポイントと上限が決まっているから、あんまり意味のないことでことではある。

 結晶の買い取り屋は、その、ヒトの魂を回収して、しだいにヒトを増やしているんだろう。

 そして、キカイはまだ、結晶のまばらなところまでは手が回っていない。


     *


 旧道の、見晴らしが悪い坂道を登ると、まわりは銀色の照明と、それを反射する太陽光パネルが引き詰められていて、ものすごくキカイの世界らしかった。

 ここらへんの表現は子どもなのでお許しください、と、コハルはだれに言うともなく、心の中で思った。

 とにかくドローンが飛ばせたら、目の届く限りににぶい、汚れた銀色の、どこまでも続く太陽光パネルがあった。

 しかし手入れは、キカイが通常働いているような場所と比べると、十分にされているようではなかった。

 おそらく、ここから得られる電力は、今のキカイにはすくなすぎて、さほど価値がない、価値としての順位はかなり低い、ということなんだろう。

 ちゃんと画像撮っておきたいんだけどな、と、ミユキは言うけれど、夜間撮影はむずかしいし、立ち止まって観察するのは時間がもったいない。

 もっと急ぐことを優先しなければ。


     *


 もはや次第に壊れて廃墟になりつつある太陽光パネルの中の道は、山の中を行く道よりは手入れがされていて、自転車で進むのは難しくなかった。

 雨が降ったあとなので、どの太陽光パネルも比較的汚れは目立たなかった

 はたらいているキカイの数も、そんなに多くはなく、ヒト型のキカイは、コハルの観測範囲内では見当たらなかった。

 はたらいているキカイは、コハルたちに気づくとゆっくり近づいてきたけれど、動きが早いキカイは、とくにいないらしい。

 これは身長5メートルもある円筒に、たくさんの30cmほどのてんとう虫がついているようなキカイで、ところどころにてんとう虫のようなキカイを置いていた。

 てんとう虫型キカイは、太陽光パネルの表面に液体をふきつけ、おなかの部分をこすりつけてきれいにしていた。

 キカイは使われていないものに関しても、どこでもいつも手入れをし続けている。

 キカイの動力源、つまりエネルギー源については、世界のどこかにもっと大きな補給装置があって、原子力から、あるいは太陽からの直接のエネルギー転換をしているのではないか、なのです、と、ドラコは言った。

 センセイのいる場所はどっちだっけ、と、アキラは確認した。

 パネルの間をくぐる道は、地図に載ってないけども、あることはありそうだな。

 つまりキカイの相手をすり抜けて通れば近道になる。

 くねくねと曲がってはいるけど、ここが目的地だから、迂回路から正規道路に戻ればいいのかな。

 しかし今までの経験から言うと、なんか工事中とか立ち入り禁止みたいな、ヒトが通れなくなっているような可能性も高いんだよなあ、と、ナツミは言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る