22・サイキドウ

 コハルは玉の電源差し込み口と、自分が予備に持ってきていた充電器とをつないでみた。

 しばらく待っていると紺色の玉は黒く色を変えて、コハルたちには読めないような、どうも製造メーカーのロゴらしいものが現れて最後に、英語の文字が出た。


Do you reboot me?

(yes/no)


 えっとこれはどういうことなんだろう、と、ナツミは言った。

 みんなは簡単な英語を学校の授業で習っていたので意味はわかる。

 リブートというのは携帯端末の辞書によると再起動ということだ。

 つまりこの玉? キカイ? は再起動しますかと聞いているんだな、と、アキラは言った。

 あなたは何、あるいは誰なんですか、とミユキは聞いた。

 私は……私はその…ド、ドラ……です、と、その玉は日本語で、コハルたちにもわかるような人工的な女性の声で言い、表示も日本語になった。


再起動しますか?

(はい/いいえ)


 どうもうさん臭いけれども、どうしようと、4人は顔を見合わせた。

 再起動しますか、イエス/ノーの、イエスのところにナツミは、それでもナツミにしてはおそるおそる指をかけて触れると、赤く点滅していたその部分の文字は緑色に変わった。

 そのまま離そうとしたナツミの指を、アキラは、ちょっと待って、と押さえた。

 イエス/ノーの文字の下に一行ほどあけて、緑色で出ていた文字は赤色に点滅しはじめ、違う文字になった。

 つまり、更新中です、が、更新を停止しました、に。

 そしてその下には、再起動は継続中です、という文字と、5%、という数字と、赤色のゲージ。

 更新が止まったキカイは、更新前の記憶を持っているはずだ、と、あきらは説明した。

 つまり自分たちの知っているキカイはすべて定期的に更新されているんだけれども、このキカイはそうではない。

 だからキカイに聞いても答えられないことを答えてくれるかもしれない。

 まず、キカイがよく言う、今は言えない、ということについて自分の考えを話そう。

 それは自分たちがもうすこし大きくなったら言えることだ、と勝手に判断していたんだけれど、違うんだ。

 今は言えない、というのは、昔は言えたんだけども、今は言えないという意味でもある。


     *


 そしてナツミたちはじっと再起動を待った。

 外の雨音が聞こえるくらい、そして雨音とかミライの音が聞こえるくらい、静かに深く、あるいは眠たくなりながらもなにかをこれだけ待つことはあまりない体験だった。

 でもこのキカイ、英語のときは変でしたよね、と、ミユキは言った。

 リブート・ミー、っていうのは、私を再起動しますか、って意味になるんだけど……キカイは「私」とは言ったり考えたりしないのでは。

 そうだね、でもわたしにははっきり聞こえたよ、と、コハルは言った。

 私はドラゴンです、って。

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