18・ブキとボウグ

 もちろん気象情報は確認してきたんだけれども、真夏の天気予報は大気の状態が不安定で、ところにより雷雨が予想される、という程度のものでしかない。

 旅行をはじめるまえに、センセイに、武器と防具は用意しておいて、と言われたので、4人は簡単なレインコートと簡単な自転車修理の装備のほかに、以下のものを持っていた。

 コハルは、野球用のグローブふたつ。

 ナツミは、野球用のバット。

 アキラとミユキは、テニスのラケット。

 そして各人がひとつずつ、大きさと重さが自由に変えられる、遊び球。

 道の途中には、コンビニはいくつかあったけれど、それ以外の雨やどりができそうなところとか、自転車屋は確認しておかなかった。

 そして、小石がぶつかるくらいのいきおいで、突然の大粒の雨に打たれた4人は、雨具を取り出して身につけるまでにけっこう濡れてしまった。


     *


 びしょびしょの自転車用グローブを片手だけ外して、ここらへんでやってる自転車屋はあるかな、と、アキラは地図を検索した。

 ヒトが使う、というよりヒトしか使わないような商業施設は、地図には載っていても、閉鎖されていたり、更地になっていたりすることが多い、ということは、コハルも自転車で遠出ができるようになってから知った。

 焼肉屋、ファーストフードの店、作業服などを売っている店。

 そして自転車屋はちゃんと営業していて、アキラが携帯端末で連絡すると、10分ぐらいでそちらに行く、と言ってくれた。


     *


 かつては墓地だったと思われる、大きな割れた石がところどころに残されてしていた空き地の隅には大きな木が植えられていて、その下で4人が待っていると、自転車屋はけっこう頑丈そうな、コハルがよく町なかで見る荷台つきの作業車よりも馬力がありそうな車でやってきた。

 荷台は、大きなバイクが何台か乗せても大丈夫そうな広さで、キカイが4体、体育座りみたいな感じで四隅に座っていた。

 車を運転していた自転車屋はヒト型のキカイで、アイボリーの胴体に、顔の部分がモニターになっている。

 その顔はコハルたちも知っていた、近所の自転車屋と同じものだった。

 店主は、パンクしたナツミの自転車の、前輪と後輪を持ち上げてぐるぐる回し、パンクの具合を見ると、これだったら10分もあれば直るけど、チューブごと入れ替えかな、と言った。

 あと、アキラの自転車は、坂道をもう少し登りやすいように改造してあげよう、それには30分ぐらいかかるかもしれない。

 4体のキカイは、てぎわよくナツミの自転車をうしろの荷台に乗せ、店主は、くいくい、と、助手席にナツミが乗るように招いた。

 申し訳ないんだけど、昔の規則で、荷台にヒトを乗せることはできないんだ。

 ここから町の中心部までは、ずっと下り坂で、そのあとはほぼ平らな道だから、かなり濡れる以外は問題ないかな。

 そうして、申し訳なさそうなナツミも乗せて、自動車は3人の前から消えた。


     *


 お互いの自転車、町につくまで交換してみないか、と、アキラは言った。

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